244 容量を無駄に食うデータだったクーデター
帝国と魔領の同盟。
僕が実現させたかったことではあるのだけれど、今はマズイのだ。
そんなことをすれば、実現性が無いとスルーしていたエンプティモのクーデターが成功してしまう。
その為の大義名分が揃ってしまうのだ。
「この後、私達が何をするかはお分かりですね。」
セフリのその一言に、きっと僕の顔は青くなっているのだろう。
僕は動けなくなっていた。
気が付くとジェイエルが立ち上がっていた。
「アグレト、どうするか決めろ。」
ジェイエルが僕の指示を待つ。
「ここで私達と戦うのは得策でないことは、元勇者様にはお分かりですね。」
セフリが言う。
僕はジェイエルの方を見る。
まだ武器に手をかけてはいないけれど、強敵を相手にする姿勢だというのは分かる。
そして僕を巻き込まないように決着を付けられるか、推し量っているようだ。
「少し前にサブオーレンという魔族に切られた傷が、思いの外治りが遅いので、今はあまり動きたくはありません。
出来れば見逃していただきたいのですが。」
セフリが休戦を提案する。
「サブオーレン・・・だと。」
ジェイエルがその名前に反応する。
「知っている名前?」
僕が聞く。
「サブオーレンはグレバーンの副官だった男だ。
そして俺の攻撃を無傷で凌ぎぎった怪物だ。
技という面で見れば、あれより上を俺は知らない。
以前戦った時、俺はアストレイアの元へ行くために焦っていた。
それさえ無ければ勝っていた・・・というのは、言い訳にしかならないか。
あれと戦って生きているというのが本当だとすると、奴は相当なタマだ。」
まだいたのか、ジェイエル並の怪物。
それって、もしかして魔王より副官の方が強かったんじゃ?
アリスは大丈夫なのか?
僕が攻撃の決定を下せずにいると、セフリが動く。
「それでは、このあと仕事が残っておりますので失礼いたします。
大主教、参りましょう。」
その声が最後だった。
気が付くとセフリと大主教の姿は消えていた。
完全に虚を突かれた。
転移か?
「アグレト、外が騒がしいよ。
これって?」
エリッタが外の騒ぎに気が付いた。
間違いない、エンプティモのクーデターだ。
僕はその計画を盗聴して知っていた。
そしてこの後の動きも。
「二人とも、レイネスへ戻ろう。
ここはもう・・・間に合わない。
最悪の状況になる前に、少し手を打ってからレイネスへ帰還する。」
僕達は大聖堂から出る。
街は皇帝派と教会派が戦っている状況だ。
そして圧倒的に優勢なのは教会派だった。
教会派と言っても、布告が行われるまでは立場を決めかねていた者も多いはずだ。
それ故に最悪のタイミングだった。
おそらく神の使徒にアリスの情報が漏れていたのだろう。
歩く盗聴機魔王種、最悪だ。
神の使徒は、タイミングを計りながら全てを緻密に計算していたのだ。
レイネスに対しても情報を上手くコントロールし、クーデターは実現性が無いと思わせた。
敵ながら見事だとしか言いようが無かった。
敵の方がもっと盗聴無双だった。




