223 車庫に入りたい社交ダンス
「クルデウス卿、さっき仰っていたのはこのことですね。」
僕は師匠に話しかけた。
「ほう、アグレト殿は俊影のエリザをご存じでしたか?
私も昔は彼女と旅をした仲、冒険譚なら一晩でも語れますぞ。」
人目もあるので、ここで具体的な話は出来ない。
それもあって、白々しく話す師匠。
僕にしか感じ取れないであろう「してやったり」オーラがあふれ出ていた。
「後ほど、エリザ様とお話しする機会をいただけませんか?」
僕は師匠にそう願い出た。
師匠はそれを了解する。
そんな話をする中、最後の入場者だ。
最後に入ってくるのはもちろんこの国の国王だ。
そして宴が始まる。
僕はブリデイン王国の有力者達から次々と挨拶された。
国王陛下から楽しんでもらえているかと一声かけられたりもした。
一応、有力者に関しては今後のこともあるので顔と名前を覚えていく。
ちらりと見ると、エリッタはいかにも由緒正しそうな貴族の青年に捕まっていた。
こっちはこっちで忙しい、頑張れエリッタ。
技術者四人組は残念ながら壁の花となっている。
いや、男の場合は花じゃ無いな。
なんて言うんだろう?
肥やし?
そして一通り有力者との挨拶が終わると、こんどは貴族令嬢が殺到する。
来てしまった、ダンスの時間。
誘われたら断るのも失礼に当たるので、応じることにした。
他の人達の動きを観察する限り、元の世界のダンスと大差は無いようだ。
こっちの世界に来る前に、一応社交ダンスはかじっている。
アリスに付き合わされての結果なのだけど、今は彼女に感謝しよう。
師匠の方を見ると、エリザさんと談笑しているのが見えた。
面識の無いアグレトでは、他人の目もあるので、エリザさんに本題を切り出すことが出来ない。
希望の家でのエリザさんは、完全に田舎の老婆にしか見えなかった。
しかし髪を整え、着る物が変わったエリザさんは、見た目が上流貴族並の気品を出していた。
そもそも冒険者になる前は何をしていたんだろう?
本当に謎な人だ。
そして宴の催しも終わり、師匠に別室でエリザさんと話す機会をもらった。
先に部屋で待っていると、ドレス姿のままのエリザさんがやってきた。
「初めまして、僕は遺跡街レイネスから派遣されたアグレトと申します。」
僕はエリザさんに挨拶する。
「その年でもうボケたのかい?
何が初めてなもんかい。」
エリザさんがそう答えた。
「もしかして師匠から既に事情を聞いているんですか?」
「あのクソジジイからは、面白い奴だから話してみろとしか言われてないよ。
見たらオマエがオキスだなんてすぐ分かる。
まあ、アグレトって名前にしたのなら、それでも構わないさ。」
見破られ三人目だ。
年齢も容姿も変わって本当の意味で別人になっているのに、見抜ける人達の人外ぶりに心が震えてしまう。
まあ、バレたのなら話は早い。
「エリザさん、僕と一緒にレイネスまで来てくれませんか?」
僕は本題を切り出したのだった。
気が付いたらプロポーズ無双みたいだ。




