217 おやおやと思うしか無い親の愛
「クルセイダーズの拠点を回ったということは、もしかしてどこかでリーフに会いませんでしたか?」
僕はリーフのことをジェイエルに尋ねた。
「ああ、見かけたぞ。
ジキルが試しの剣を抜いたときに案内役になった女だな。
奴はクルセイダーズの指揮をとっていた。
まあ、そうなるとは思っていたけどな。」
「以前にジキルやパメラと引き離されて、向こうに取り込まれています。
脅されているのか、何らかの洗脳がされているのか分かりませんが。
それと、そうなると思っていたとはどういうことですか?」
僕は状況の説明をしつつ、疑問点を聞いた。
「とりあえず洗脳は無い。
俺は精神や肉体に関して、他人の状態異常を察知する能力を持っている。
だがリーフに異常は無かった。
それにあの様子を見ると、脅されて嫌々やっているようには見えなかった。」
「それは・・・。」
「一つ言っておくとすれば、彼女は神の血族だ。
明らかに人間とも魔族とも違う力を内在させている。
そして初めて会ったときに感じてはいたが、彼女は本性を隠しているぞ。」
ジェイエルがとんでもないことを口にする。
「もしかして最初から・・・。」
「何か理由があるのだろうと思って、以前会ったときは何も言わなかったがな。
なるほど、神の末裔が何らかの目的を持って勇者ジキルに近づいたということだな。」
ジェイエルはそう言った。
分かっているならジキル達に教えておいて欲しかった。
「リーフはボーっとしていて、あまり話をしない女の子だったので・・・。
全く気が付きませんでした。
最初から神の陣営だったと考えると、色々と納得できる部分が出てきます。」
僕はほとんどリーフと会話していない。
しかしジキル達と馴染んでいたので、僕も仲間だと認識していた。
「お前は色々と凄い奴だが、重要なところで抜けてるな。」
ジェイエルがため息交じりに言う。
「耳が痛すぎるので勘弁してください。
自分でも分かってます。」
「お前は可能性を模索するときに、仲間を疑うというのを無意識に除外しているだろ?
それは美点ではあるが、この状況下では欠点だ。」
僕はジェイエルに指摘されてハッとした。
今までの致命的な失敗の数々を思い出す。
爺には生まれたばかりの頃から騙されていた。
雑貨屋のグラマンにはルディンを攫われた。
エリッタには簡単に賢者の杖を盗まれた。
アリスにはあっさりと殺された。
リーフには最初から完全に欺かれた。
全員、親しくしていたり、前世で恋人だったり、仲間だと思った人達ばかりだ。
言われるまで、こんな簡単なことに全く気が付かなかった。
ジェイエルは僕を誰よりも理解しているように思えた。
「そんなことが分かるなんて、まるで父親みたいですね。
いや、もう血のつながりは無いんですけど。」
僕はジェイエルにそう言った。
「まったく・・・。
俺はもうお前の父親じゃ無いが、経験者としてなら色々と言えることがある。
俺はこのまま進むと決めた、だからお前に全力で協力する。
相談事があれば遠慮無く言え。」
本当に嬉しい言葉だった。
僕が女だったら惚れているかもしれない。
逆にもし、この状況でジェイエルに裏切られたら、立ち直るのはかなり困難となるだろう。
アストレイアはジェイエルのことをどう思っていたのだろう?
異界の辞典を持つ僕を作り出すための道具?
それとも本当に愛していたのだろうか?
後者でなければジェイエルは救われない。
話を終えた僕は、ジェイエルをブレイトンさんの所へ連れて行った。
そこでブレイトンさんはジェイエルを念入りに診察し、心臓に植え付けられた魔剣の呪いの除去は可能だと診断を下した。
そして遺跡街レイネスの最強医療チームが結成された。
勇者無双が父親無双かもしれない。
主人公の基本設定は洞察力が高いというところです。
しかし肝心なところで抜けている理由をジェイエルが指摘したわけですが、
書いている私自身、ジェイエルの言葉で始めて理由に気が付きました。
自分で書いているはずなのに不思議ですね。




