215 鈍い呪い
先代勇者ジェイエルがやってきた。
問題ない、全て予定通りだ。
僕は後でこっそり会おうと、とりあえず応接室へ案内するように頼んでおいた。
ブリデイン王国からの救援要請に関しては、通信機を通じて宮廷魔術師クルデウスにその旨が伝えられる。
クルデウスはレイネスの幹部達に救援決定の礼を述べた後、現状について話した。
ブリデイン王国は、火薬式の銃をちゃっかり量産していた。
そういえば師匠にお土産として渡したっけ。
そんな物を貰ったら、そりゃ自国に戻ってリバースエンジニアリングするよね。
そのおかげでクルセイダーズとまともにやり合うことが出来ていたらしい。
クルセイダーズは魔法が効きにくい上に、神の残滓を使ってくる相手だ。
残滓の攻撃範囲外のレンジから、相手の防御を破る遠距離武器が無いと話にならない。
用意周到、そういう所はやっぱり師匠だった。
しかし弾薬の製造が間に合わず、弾切れ寸前で劣勢に陥っているという話だ。
今回のクエスト・・・というかミッションは王国に弾薬を届けること。
さらに生産能力の向上や、より強力な武器を現地生産させるための技術者の派遣。
このミッションに戦闘行動は必要ない。
そして僕はこのミッションへの参加を表明した。
まあ言い出しっぺだしね。
するとエリッタも参加すると言い出した。
戦闘が無いといっても、いざという時は戦える人間がいないと困る。
そして僕への監視が必要なのだと、微妙に後付けの理由も用意していた。
こうしてレイネス首脳部はブリデイン王国へ弾薬輸送の準備に取りかかる。
さらに現地常駐技術者の選定も始まることになった。
僕は技術要員として重要すぎるので、用が済んだら短期間で戻ってこいとのお達しだった。
そして後回しになっていたジェイエル。
来るとは思っていたけど、ずいぶんと忙しいときに来てくれたなあ。
まあ、タイミング的に入れ違いにならなくて良かったけど。
応接室で待っていてもらったのだけど、なんだか対応している関係者が騒いでいる。
どうやら先代勇者を知っている人物がいたようで、ど偉い人が来たと慌てているようだ。
ジェイエルは魔剣の呪いでミイラ男状態のはずなのに、どうやって先代勇者って気が付いたんだろう?
そして僕はジェイエルと面会する。
話を聞かれたくないので、先代勇者を見に来た野次馬を排除し、一対一になった。
「初めまして、僕がアグレトです。」
一応この体では初めてなので、そう挨拶した。
「・・・。」
ジェイエルは無表情で僕を見たまま黙っている。
「ご用件を伺えますか?」
いつまでも黙っているので、僕の方から話を切り出した。
「お前は何者だ?
何故その名を名乗っている?」
やっぱりアグレトという名前を聞いてここに来たようだ。
遺跡街レイネスの幹部に昇格した僕は、けっこう名前が知られるようになっているのだ。
僕が開発した製品にも、一部僕の名前を使っている。
そして目論み通りジェイエルはやってきた。
「ところでこの真名を知っているのは、あなたとアストレイアだけなんですよね。
ジブルトは知らないようでしたし。」
僕のこの言葉を聞いたジェイエルの目に、確信めいた光が宿る。
「お前・・・やはりオキスか?」
さすが勇者、察しが良い。
しかし以前会ったときよりも顔色が悪い。
呪い悪化しているような感じだ。
「アグレトです。
オキスは死にました。」
僕はそう答えた。
「俺がここへ来るのは想定内なのだろう。
何をやらせるつもりなんだ?」
分かっていらっしゃる。
「まずはその呪いを解いてからです。」
「無理だな。
こいつはどんな魔法でも治すことは出来なかった。
精霊の泉の力を使ってなんとか体力だけは回復させてきたが、もはやそう長くは保たない。
それにお前、その姿は異世界人のものだろう。
何があったのか大体の想像は付くが、魔法が使えなくなっているんじゃ無いのか?」
さすが魔王アストレイアと子供を作る仲になっただけあって色々詳しい。
「ちゃんと方法は用意してありますよ。」
僕はジェイエルにそう言った。
計画通り無双中。




