21 経緯に敬意を払う
僕はこうなる可能性をあまり考慮していなかった。
何故なら、カシムには可能性を語ったけれど、実際には町長が誘拐犯とグルだとは思っていなかったからだ。
あくまでも可能性を潰しに来ただけだった。
しかし何かまずい気配が漂っている。
町長秘書のエクバイヤさんがさらに口を開こうとしたとき、部屋の外から複数の足音が聞こえた。
部屋の外からノックが聞こえる。
「入ってきてかまわんよ。」
町長がそう言うと扉が開いた。
そこにいたのは冒険者四人組だった。
「町長、何故この子が来ているんだ?」
大剣のカイデウスさんが不思議そうに僕を見る。
「うむ、まずいことに話を聞かれてしまってね。」
「それは・・・。
ルディンが捕まっている場所の話も聞かれたのか?」
「ルディンがどこにいるか知っているんですか?」
僕の言葉に、カイデウスさんがしまったという表情を浮かべている。
命のやりとりが絡まないようなところでは、結構間抜けなのかもしれない。
「中途半端に聞かれて、勝手に動かれても困る。
エクバイヤ君、説明してやれ。」
市長があきらめ顔でそう言った。
「では事の経緯を説明いたします。」
そして僕は市長が何をしようとしていたのかを聞いた。
まず事の発端は、町近くの森に瘴気が漂い始めたことだ。
冒険者ギルドの人員を使って調査するものの、行方不明者が出てしまった。
森に本来ならいないはずの魔物が出たらしい。
町外の冒険者ギルドなどからも色々と情報を集めていくと、一人の人物にたどり着いた。
どうやらブリデイン王国から出奔した魔術師が、森に住み着いたようだ。
出奔の理由は、危険な研究に手を染めたかららしい。
魔族と取引しているという噂もある。
行方不明者が出てしまっているので、町としてはこれ以上放置は出来ない。
しかしこのまま町から冒険者を派遣しても、無事に帰ってこられる保証が無い。
そして呼ばれたのが、カイデウスさんの冒険者パーティーだ。
彼らは森を捜索し、魔術師がいるであろう館を発見した。
そしてその周りには多数の魔物がいたため、いったん町長に状況を報告しに帰ったのだ。
「その途中で、僕達を見つけたんですね。」
「そうだ、あの時に何故か魔法の気配があったので警戒していたんだ。
だが、見つけたのはお前達だけだった。
その後、小屋の近くをうろうろしていた奴らを捕まえたんだ。
あの二人は、お前達を魔術師に引き渡そうとしていたらしい。」
そういえば捕まったときに、誘拐犯が陰気な男の所へ連れて行くと言っていた。
そして魔法の気配というのは、逃げるときに使った沈静魔法の痕跡だろう。
だから僕らがあっさりと見つかったんだ。
魔法を使用してから結構時間が経過したはずなのに、冒険者怖いな。
町長がその後の話をする。
「詳しい事情を確認するため、詰め所で奴らの聴取に参加したのだ。
しかし私が去った後に毒を飲んだようだ。
治療院が調べた結果、死因は毒だったから間違いは無い。
いったいどうやって毒を持ち込んだのか。
そもそも取り調べの様子を見る限り、自殺するような感じは一切無かったがな。」
僕らが詰め所へ行った前後の話だ。
聴取の間、警備隊の目がある中、町長が二人を毒殺するのは至難だ。
町長は白と考えるべきだろう。
だけど本当に自殺なのか?
「結局、ルディンが行方不明になった後の足取りはつかめなかった。
連れ去るのに魔法が使われていたのなら、痕跡をたどることも出来たのだが、そうでは無かったようだ。
だが、状況から考えるとルディンは森にある館にいるはずだ。
明日、夜明けとともに俺たちは館に奇襲をかける。
オキス、お前は森に行こうなどとは考えるなよ。」
カイデウスさんが強く念を押した。
「分かりました。
ルディンのことをお願いします。」
僕は厠にいたカシムと合流し、町長の事務所を後にした。
カシムがトイレ無双だった。




