196 歌に撃たれ弱い魔族達
ブリゲアンは色々な疑問を積み上げて去っていった。
ルティントこの後の対処を相談した結果、私は作戦会議に出ないことが決定した。
報告だけ書面でもらうことにした。
そもそも私の口から出る意見は、ほとんどルディンの受け売りだ。
悲しいかな、いなくても全く差し支えない。
ルディンだけいれば問題は無いので、賢者の杖をタレンティに持たせ私の代理人とした。
魔王種にプライバシーが無いと言うことが判明した。
ショックだ。
行軍中に行われる定期的な会議の時間が暇になったので、私はなんとなく歌を口ずさんだ。
前世で沢山歌ったことを思い出す。
彼は私の歌を笑顔で聴いてくれた。
そして歌い終わった後、ふと気が付くと護衛の兵達が泣いている。
ギルティーンは涙こそ出してはいなかったが、目を真っ赤にしている。
そして兵達は口を揃えて私の歌が素晴らしいと称えた。
おかしい。
精神魔法など使っていない。
ただ、転生してから始めて歌を口ずさんだだけだ。
練習などしていない、とても聞いて感動できるようなものでは無いはずなのだ。
出来ればもっと聞かせて欲しいという兵達に応え、私はしばらくの間、知っている歌を披露した。
会議の間は行軍は止まっていて、休憩中の者が多い。
いつの間にか他の兵達が集まってきていた。
ひとしきり歌った後、兵達の挙動が変わっていた。
アリス陛下万歳と叫ぶ者や、これからの戦いに勝利を誓う者など、異常なほどに士気が上がっていた。
会議が終わった幹部達がこの光景に驚いていた。
そもそも新参魔王の指揮の下、敵対していた人間を救うための行軍だ。
魔王の絶対権力の前に反論する者こそいなかったけれど、士気は高いとは言えなかった。
その状況がひっくり返ったのだ。
手元に戻ってきたルディンに何をしたのか聞かれた。
歌を歌っただけだと答えると、次は自分も聞きたいと言った。
何故か楽器が仕える魔族まで名乗り出て、定期演奏会化されることになった。
私の魔王種の体は、転生前より整った顔立ちになっている。
そして声の質や音域の幅も段違いだ。
鍛えたわけでは無いのに絶対音感まで身についている。
ただ、それにしても練習もしていない歌で感動しすぎではないだろうか?
歌うことは嫌いでは無い。
今までろくに役に立っていなかったのだ。
それで兵の士気が上がるのなら、定期的に歌うぐらい大した問題では無い。
私の歌を彼が聴いたらなんと言ったのだろう?
彼のことだ、もしかしたら昔の方が好きだと言うかも知れない。
彼と話がしたい。
そんな思いを乗せて、演奏される曲に合わせたオリジナルの歌を披露した。
するといつもは泣かないような種族の者まで泣き出し、偉いことになってしまった。
これも魔王種の能力なのだろうか?
しかし幹部達に聞いても、かつて歌を力とした魔王は存在しなかったらしい。
そして行軍すること二ヶ月。
ようやくクルセイダーズのいる前線に近づいた。
決戦の日も目前まで近づいているのだ。
歌無双なのだろうか?




