192 異物のような遺物
私はルディンの受け売りではあるけれど、エスフェリアに神の国から遺物が送られてきている可能性を話した。
エスフェリアは思い当たる節があるのか、ハッとした表情を見せた後に一人で何度も頷いていた。
話をしつつ私自身も危機感が募ってくる。
もはや四の五の言っている状況では無い。
私の気持ちは決まっていた。
帝国と協力しなければ、最後の神の遺跡の封印が解かれ神が押し寄せてくるだろう。
私はエスフェリアに魔領からの派兵を約束した。
ただし帝国への最短ルートには巨大な亀裂が入っているため、北上しての大回りするルートになる。
帝国と魔領が戦ったときに、北側が戦場になることは無かった。
北ルートは補給線が伸びすぎて、戦いどころでは無くなってしまう。
しかも北側の国境周辺は村が多少点在するような場所で、戦略的価値が無かったからだ。
今回は帝国が兵站を出してくれるので、補給線の心配はいらない。
帝国が欺し討ちをすれば悲惨なことになるけれど、そんなことをすれば帝国も魔領と一緒に滅亡するだけの話だ。
「私はあなたのことをエスフェリアと呼ぶことにするわ。
だからあなたも私のことはアリスと呼びなさい。」
対等な軍事同盟を結ぶことになる。
だから私はエスフェリアにそう提案した。
「分かりました、アリス。
よろしくお願いいたします。」
エスフェリアは頷いて同意した。
「現時点では確認されていませんが、あちらが神鳥を出してくる可能性があります。
そうなると魔族が戦うのは不利、お気を付けください。」
エスフェリアが注意を促した。
神鳥の話はルディンから聞いている。
周囲の魔法を根本から無効化する魔族の天敵だ。
「帝国軍で対処可能なのかしら?」
「はい、オキス様の残した武器があれば十分対処可能です。
それでもゴーレムのように大量に出現するようなことになったら、さすがに為す術はありません。」
急激に戦力を拡大しているクルセイダーズが何をしてくるのか、誰にも予測が付かない。
それでも勝てると思って挑まねば、前には進めない。
彼の残した武器。
それは前世の世界の武器。
現在も戦いに必要な銃器が遺跡街レイネスで製造され、帝国軍に供給されている。
魔王アストレイアが神に対抗するために、彼の力を利用したのだ。
そう思うとこんな世界滅びてしまえと考えてしまう。
しかしそれは彼の意志に反する。
いつか彼の作った街に行ってみたい。
そこに彼はどんな物を残したのだろう?
「オキスの街は今どういう状況なの?」
「レイネスは、少々状況が掴めない点があります。
約束通りの武器の供給は行われているのですが・・・。」
「どういうこと?」
「オキス様の代わりに、新たな代表者になられた方が現れました。
アグレト様と名乗られているのですが、素性が掴めておりません。
アグレト様はレイネスを掌握した後、独自の軍隊を組織しているようなのです。」
「神側の人間だったら厄介ね。」
突然現れて、彼の作った街を乗っ取ったとなるとかなり怪しい人物だ。
帝国にも情報が無いというのがますます胡散臭い。
「はい、そうであれば状況は最悪です。
ただ、すでにレイネスの軍隊は周辺の国へ攻め込んだクルセイダーズと抗戦しております。
深く疑えば切りがありませんが、敵である可能性は低いと思います。」
「その人と話は出来たの?」
「使者を出してはみたものの、残念ながら会ってはいただけませんでした。
恥ずかしがり屋なので勘弁してくださいと伝言をいただいております。」
いったいどんな人物なのか気になりはするけれど、今はそちらに回している労力も時間も無い。
「それから先代の勇者であるジェイエル様が、レイネスの将として戦闘の指揮を執っておられます。」
先代勇者?
ルディンが近接戦闘最強と言っていた存在だ。
彼や勇者ジキルを圧倒したこともあるという。
ルディンでさえも、何故ジェイエルがレイネスにいるのか分からないという。
いったいどういう経緯でそういうことになっているのだろう?
そんなことを考えていると、エスフェリアが私をじっと見つめる。
「アリス、こんな時に聞くべき事なのか迷いましたが・・・。
一つお教えください。」
エスフェリアは、今まで以上に深刻な顔で私に問いかけたのだった。
乗っ取り無双?




