184 恋人を育てた小人
そこには微笑みを浮かべた女が立っていた。
私と目があると一礼して、そして背を向けた。
あまりの事態に私は動くことが出来なかった。
動いたのは魔王の副官サブオーレンだった。
気が付くと女とサブオーレンの剣撃の応酬が始まっていた。
客席にいた彼の仲間達は動かない。
恐らく状況が掴めず、どちらに加勢すべきか判断できないのだろう。
そして私は致命的なミスを犯していた。
父が攻撃を受ける前の状態をセーブしていなかったのだ。
私は父の元へ駆け寄る。
そして治癒魔法をかける。
恐らく駄目だろう。
心臓を貫かれているからだ。
傷を塞ぐことは出来ても、生き返らせることは出来ないのだ。
やはり治療魔法は無駄だった。
父は死んだ。
私は戦いの状況を確認した。
いつの間にか二人とも闘技場から姿を消していた。
女が逃げて、それをサブオーレンが追いかけたのだろう。
「魔王は死んだのかい?」
客席から勇者ジキルがやってきた。
「ええ、さっきの女に殺されたわ。」
私は答えた。
「知っている人?」
「いえ、全然。
完全に初対面よ。」
「僕達も追いかけるべきだったのか。
もしかしたら僕達側が知っている人だったのかもしれない。」
「なにか情報があるの?」
「何の確証があるわけでも無いんだけど、セフリという人かもしれない。
クルセイダーズがらみで、王国で暗躍していた人物だ。
推理が飛躍しているとは思うんだけど、すごい引っかかるんだ。」
クルセイダーズの件はある程度聞いていたけれど、セフリという人物については初耳だった。
私にはいったい何が起こったのか未だによく分からない。
そこにルディンが語りかけてくる。
『魔王グレバーンはが全ての真実を話せなかった理由がなんとなく分かったよ。
たぶん魔族や人間の中に神と通じている人物が複数いるんだと思う。
オキス兄ちゃんを育てたジブルトという人物も関与してるんじゃ無いかな?』
「彼を育てたって、どういうこと?」
『オキス兄ちゃんは赤ん坊の時に、今アリス姉ちゃんが住んでいた宮殿を脱出してしばらくの間、魔領の山で暮らしてたんだ。
そしてその時にオキス兄ちゃんの面倒を見ていたのが、ジブルトという小人族らしい。
それからセフリというのは、オキス兄ちゃんの護衛をしていた狼の名前でもあるんだ。』
ルディンから、彼に関する情報を聞く。
私はその事実を全く知らなかった。
「ちょっと状況が・・・。
頭が追いつかない。」
『魔王はジブルトのことを気にしていた。
それは神の内通者であることを疑っていたからだ。
そしてそのジブルトがオキス兄ちゃんを育てた。
何かの意図があるはずなんだ。』
アストレイアから情報を得ている父は殺されてしまった。
そして全ての出来事の中心にいた彼を私は殺してしまった。
いったい彼の存在とは何だったのだろう?
気が付くとサブオーレンが戻ってきていた。
「申し訳ございません。
女を取り逃がしました。
転移の力を持っていたようです。」
サブオーレンの服には血が付いてた。
自分の血では無いようだ。
一太刀加えることには成功したのだろう。
私は彼の意志を継ぐと決意した。
残った謎を解かなければならない。
無双したい人は虚無僧でもしていればいい。




