18 失笑する師匠
冒険者を舐めていた。
うまく隠れているつもりだったのに、僕達の気配などとっくにバレていたのだ。
考えて見れば当然だ。
どこにどんな敵が隠れているか分からないような場所が、彼らのフィールドなのだ。
子供が茂みに隠れている程度気がつかないような冒険者は、とっくに墓場の中だ。
否、墓場の中にすら入れない。
チンピラ風の男から容易に逃げおおせたのが仇になった。
変な自信を付けてしまっていたのだ。
ジキルとルディンは、状況の把握が追いつかずポカンとしている。
僕は相手の出方をうかがう。
「貴方たち、こんなところで何をしているの?」
冒険者の女は、弓の構えを解かない。
まっすぐこちらを狙っている。
「子供か。事情を聞いた方が良さそうだな。」
気がつくと他の冒険者にも包囲されていた。
僕が冒険者の女の気配に気がつくことが出来たのは、わざとそうさせたからだ。
囮を出して連携し、僕達を包囲したのだ。
これが本物の冒険者だと思うと、感嘆の気持ちでいっぱいだ。
「誘拐されたんです。
小屋の中に閉じ込められたところ、なんとか逃げてきました。」
僕はさらに細かい事情も付け加えて話す。
嘘は一つもついていないのだけれど、大剣を背負った男が訝しげな表情を浮かべる。
「逃げてきたのか・・・。
どっちか場所は分かるか?」
現在いる場所が自体が分からなかったので、町から小屋までの経路を説明した。
大剣の男がうなずくと、他の冒険者と相談を始めた。
「よし、仲間が町まで送ろう。
俺はその小屋の様子を見にいく。」
大剣の男と槍の男は小屋の方へ行くようだ。
弓の女とメイスの男が僕達を町まで送ってくれるようだ。
僕達は町に向かって歩き出した。
「私はレイリス、彼がポリテオ。
よろしくね。
それとさっきは驚かせてごめんなさい。
まさか子供がいるなんて思わなかったわ。」
僕は自己紹介をして、孤児院で暮らしていることや、町で雑貨屋の手伝いをしていることなどを話した。
メイスを腰に下げているポリテオさんは無口だった。
「あの孤児院、エリザ様はお元気?」
「エリザ様?ああ、ええっとエリザさんなら元気ですよ。
この前、このズボンが破れたのを縫ってもらったばかりです。」
ズボンの恥ずかしいワンポイントを見せる。
彼女はどうやら「気むずかしい婆さん」ことエリザさんを知っているようだ。
「お知り合いなんですか?」
「私は直接の知り合いでは無いんだけど、カイデウス、大剣を持っていた彼の師匠なのよ。」
「・・・。」
ちょっと思考停止した。まさかとは思うので、一番確率の高い答えを確認しておく。
「あのぉ、カイデウスさんは洋裁の趣味が?」
「違うわよ。
いえ、違わないわね。
たしかに得意、でも習ったのは剣よ。」
「・・・。」
落ち着こう。ここは、落ち着こう。
カイデウスさんは洋裁が得意、うん、理解した。
「彼は未だエリザ様には追いつけないっていっていたわ。
仕事が片付いたら行くことになっていたの。
会うのが楽しみね。」
色々な可能性がある。
妥当なところは、カイデウスさんが子供の頃に、ちょっとした棒の振り方や心構えをエリザさんが教えた。
そして未だそれを感謝して、恩を返していないように感じている、そんな流れだろう。
気むずかしい婆さんが無双している姿を想像したくない。
「エリザ様は昔、有名な冒険者だったのよ。」
僕の推理は瞬殺された。
婆さん無双、勘弁してください。




