179 杖と石と強い意志
私は彼の使っていた杖を手にした。
そして杖の機能を有効にする。
『アリス姉ちゃん、初めまして。
僕の名前はルディン。
でも、初めましてじゃないのかな。』
杖を通して頭の中に声が届く。
彼のことはシーリが覚えている。
「そうね、私の一部にシーリがいるからおぼろげだけど覚えているわ。
あなたはどうしたいの?」
『オキス兄ちゃんがやりたかったことを引き継ぐんでしょ。
だから僕も協力するよ。』
「・・・。
揃いも揃ってなぜ誰も私を責めないの?」
『みんな覚悟してここまで来ているんだよ。
誰かが犠牲になる覚悟を。
目的の為に、とにかく最良の選択を選ぶように。
それに誰もアリス姉ちゃんのことを恨んだりはしていないよ。
みんなアリス姉ちゃんを助けたくてここまで来たんだから。』
「彼の仲間はお人好しばかりね。
彼自身もそうだったから、類は友を呼ぶのかしら。」
私は昔のことを思い出した。
前世の自分も同じようなものだったのかも知れない。
しかしその記憶はおぼろげになっている。
永劫の回帰を多用した弊害だろう。
賢者の杖とリンクすることによって、魔術回路の構築能力に変化が起こる。
今まで使用不可能だった関数が有効になっている。
しかしその関数が何に使えるのかは理解できない。
試しに回路に組み込んで使ってみたけれど、上手く発動しない。
彼なら理解できていたのかも知れないけれど、私は彼ほど頭が良いわけでは無い。
私は永劫の回帰で、手当たり次第組み合わせを見つけてきたのだ。
今回有効になった関数は、そんな方法で動くような簡単なものでは無いらしい。
賢者の杖の力は、既存の魔法を強化するのに使えば良いだろう。
私は首に提げている賢者の石に手をかける。
ジブルトという小人族のお爺さんが置いていったものだ。
この石があれば、魔力量は父に匹敵する状態になる。
アストレイアの腹心だったというジブルトは、今は隠居しているという。
ただ、未だに国のことが心配で大人しくはしていられないと、各地を飛び回っているそうだ。
全然隠居していない。
四天王グレドキープの件を私に持ちかけてきたのもジブルトだ。
何か裏があるのを感じつつも、私はその話に乗った。
そして魔軍が壊滅した後、ジブルトは賢者の石を持ってきたのだ。
彼がここにやってきたときに、これを使って戦えるようにと。
いったい何を企んでいるのか分からない。
結果として、私は彼を殺すことになった。
彼を殺すことは魔王側としては間違ったことでは無い。
しかしジブルトの目的はそれ以外の所にある気がする。
そして出発の準備は整った。
新関数での無双は無い。




