170 化け物のバーゲンセール
転がった二人の周りに、ワイヤーのような物が張られていた。
やはり、すっ転んだのはこのせいだったようだ。
けっこう鋭い、神の残滓を纏っていなかったらスッパリ逝っていたかも知れない。
僕はワイヤーを切断しながら二人に近づいた。
向こうから襲ってきたくせにガクガク震えている。
「何か、ご用ですか?」
僕は優しく聞いてみた。
赤く腫れ上がった顔を青くする、面白い芸を披露してくれた。
できる限り優しく聞いているんだけどなあ。
「口が聞けないみたいですので、残りの二人の所に行きますね。」
僕は倒れている二人に背中を見せた。
一応気配には気をつけているものの、攻撃してくる様子は無い。
そこへ再び光の雨が降り注ぐ。
魔力回復シャワーだ。
追撃で横から石弾が大量に迫ってきた。
これはさすがに吸収できない。
僕はボロ剣で石弾を打ち落とす。
光魔法はどこから使っているのか不明だったけれど、石弾は方向が丸分かりだ。
僕はその方向へ跳躍する。
途中にワイヤーが張られていたので、全て躱した。
あることさえ分かっていれば、もう引っかかることは無い。
ついに三人目を肉眼で捕らえた。
すでに逃げる体勢に入っていたので、さっきの魔力回復分で精神魔法恐怖を流し込む。
三人目は動きを止めた。
泡を吹いて白目をむいていた。
あと一人、僕は魔力探知を使用する。
引っかからない。
逃げたのかと思った瞬間、すぐ近くから気配を感じる。
危険を察知した僕は剣を防御に向ける。
キンという金属音、僕の剣と四人目の短剣が接触した。
いきなり近くから現れた?
いや、気配を消していたのか。
短剣を両手に構える四人目は覆面を被っていた。
覆面は短剣で連撃してくる。
僕はそれを剣で受け流す。
ぶっちゃけジキルの剣撃に比べれば、アクビが出てしまいそうなレベルだ。
逆になにか誘っているのかと警戒したぐらいだけれど、どうやらこれで本気のようだ。
僕は両手の短剣を二連撃で弾き飛ばす。
「用件を伺えますか?」
僕は覆面に尋ねてみた。
「化け物め。」
覆面はよく分からない回答をした。
辺りの気配を探る。
化け物の気配はしない。
「化け物?」
「貴様を殺せと依頼を受けたんだ。
強いから気をつけろとは言われたが、相手がこんな化け物とは聞いていない。
くそ、ここまでか。」
もしかして化け物って僕のことなのか。
ちょっとショックだ。
化け物ってギスケやジェイエルを筆頭に、師匠やエリザさんの事だと思うんだけどなあ。
今回の四人はトレンテで戦った相手よりはマシだったけど、それほど強い相手ではなかった。
まあ、比較対象が本当の化け物達だからなあ。
「依頼の件を詳しく教えてもらえたら、命は保証しますよ。」
僕は交渉を持ちかけてみた。
相変わらず弱い者イジメ無双だった。




