167 騎士の起死回生
魔族の騎士達を撃退することに成功し、次の目的地を目指そうとしたその時、倒れた大木から轟音が響く。
「うぉぉぉ。」
暗黒騎士クリセリオン、しぶとく生きていた。
彼は折れた木を吹き飛ばし、こちらに迫ってくる。
迫力は満点だが、確実にダメージは入っている。
こちらの無茶苦茶な戦闘力を考えると、ここから逆転される心配は無いだろう。
僕達は迎撃の構えをとる。
しかしクリセリオンは僕達に剣を向けることは無かった。
「貴殿等の強さは理解した。
いったい何者なのか教えてはくれぬか?」
カシムの攻撃で鎧が拉げ、下手をすると骨が何本か逝っているような状態だ。
しかし声にはダメージを感じさせない響きがあった。
我慢大会では間違いなく上位を狙える人材だ。
「僕の名前はオキス、先代魔王アストレイアの息子です。
この前、強力な魔法を使ったばかりでこの通り魔力はスッカラカンですけど。」
僕はやせ我慢の達人に敬意を払い名を名乗った。
「・・・っ!
まさか、そのような・・・。」
彼は僕を見つめたまま動きを止める。
そんなに熱い眼差しを向けられたら、赤面してしまうからやめて欲しい。
そして突然膝を折る。
「失礼いたしました。
なるほど先ほどの話、真実でしたか。
あまりに荒唐無稽な話ゆえ、戯話の類いかと。」
まあ、普通はここで起きている異変が僕の魔法の一撃で起きているとか信じないよね。
そしてクリセリオンは兜を脱いだ。
金髪の超イケメンだった。
「オキス様の事は魔領でも噂になっております。
人間の領土の中に国を作り、強力な武器や高度な道具を生み出していると。
神の残した神獣を屠り、人間が神魔砲と呼ぶ兵器を跡形も無く吹き飛ばし、王国の首都すらも大規模に破壊したとか。」
うん、そんなことをしたかも知れない。
ダイジェストで言われると、凄い人みたいに聞こえてくるのが不思議だ。
しかし誰だ噂を広めてるのは?
もしかしてブリゲアンあたりがプロパガンダのために、僕の話を宣伝しているのかな。
「そして・・・四天王グレドキープを十万の軍勢もろとも屠り、地形すらも変えてしまわれた。
アストレイア様の忘れ形見がここまで成長なされ、涙を捨てた身のはずが・・・感涙が止まりませぬ。」
うわ、本当に泣き出してる。
なんだか魔族は変なのが多い気がする。
僕が変なのを引き寄せているんだろうか?
しかし話を聞けば聞くほど先代魔王の息子ってとんでもない奴だ。
危なすぎて絶対に友達になれる気がしない。
「とにかく先を急ぐので、僕達のことは黙っていてもらえますか?」
何かもう、止めを刺す気になれない。
「オキス様はこれからどこに向かわれるのですか?」
「アリスに会いに。」
「アリス殿下に?
ならば某を同行させていただけませぬか。
これからの道中、他にも調査や警戒に当たっているものがおります。
皆様方が後れをとるとは思いませぬが、手間をとられることは確か。
某ならば、その厄介を払うことが出来まする。」
「四天王ブラハルドへの義理は果たさなくて大丈夫なの?」
「ブラハルド卿もアストレイア様に大変信服しております。
そのご子息に協力するとあらば、喜びこそすれ義理を欠くことにはなりませぬ。」
こうして僕達は警戒を抜ける手段を手に入れたのだった。
当初の作戦は、こっそり移動して魔領を抜けるつもりだったのに速攻で発見された。
結果的には良かったけど、いつも計画通りにいかないよなあ。
魔王の息子という危ない無双野郎がいるらしいよ。




