165 向こう岸にいた騎士達
僕達は闇の大穴の向こう側に降り立った。
サリアとブリューデンは遺跡街レイネスに戻ってもらう。
二人は決して弱いわけでは無いのだけど、残ったメンバーと比べるとどうしても能力的に落ちる。
特にブリューデンは、怪我をするといざというときに困るのだ。
降り立った場所は木々が生い茂る領域だ。
魔素にムラがあるけれど、人間の領域に比べれば瘴気が濃くなっている。
少人数で身を隠しながら進むには適している場所だ。
今回の件は色々と予定が狂ってしまった。
本来ならここには帝国軍と共に来るはずだったのだ。
それが魔領軍と戦うことになり、急いで準備を進めたものの、その準備も全く使われずに終わった。
思い返すと予定通り事が進んだことの方が少ない気がする。
まあ、自分の予測通りに相手が動くとは限らないし、こっちが準備した物だって前例があるわけではない。
これで結果を予測できると思う方が間違いなんだろう。
そして眼前に広がる魔領では、もちろん結果の予測など出来ようはずが無い。
不測の事態というのが足音を立てて忍び寄ってくるだろう。
うん?足音を立てたら忍び寄っていることにならないな。
そんな事を考えて歩いていると、足音が聞こえてきた。
馬の蹄の音だ。
数は・・・けっこういる。
身を隠そうかとも考えたのだけれど、既に向こうの探知に補足されている。
隠れるだけ無駄だ。
考えてみると木々が生い茂っていても、魔力探知が使える人材がいれば、そりゃ発見されるよね。
自分が魔力探知を使えるのに、相手が使わないなんて考える方がおかしいのだ。
まだ一割も魔力が戻ってきていないので、思考能力も落ちているのかも知れない。
そして足音のヌシが現れる。
漆黒の鎧に身を包んだ、まさにサ・暗黒騎士だった。
そしてその後ろには、精鋭っぽい騎士達が続いていた。
総勢十騎だ。
「私は四天王ブラハルド直属の騎士、名をクリセリオン。
お主達は何者か?」
僕はタレンティの方を見る。
頷いたのでどうやら知っているらしい。
何者か聞いたところをみると、暗黒騎士クリセリオンはタレンティを知らないようだ。
「ただの旅の魔族ですよ。
騎士様にお構いいただくような身分ではありません。」
僕はそう言った。
厄介なのに絡まれてしまった。
出来れば適当に煙に巻いてやり過ごしたい。
「人間も混ざっているな。
国境で起きた異変の調査を命じられて来てみれば、珍客と出くわすとは。
異変に関わっているとは思わぬが、目と耳があれば何かしらの真の断片は得られよう。」
なるほど、暗黒騎士クリセリオンは調査に来たようだ。
そして僕達が何か目撃していると思っているようだ。
「異変ですか?
気がついたら凄いことになっていて・・・。
僕達も混乱しましたよ。」
うん、気がついたら凄いことになってたよね。
だいぶ混乱したし、嘘は言ってないよ。
「ほう、ならば今はこんなところで散歩でもしていたというのか?
人間を引き連れて。」
まあ、人間を連れている時点でごまかせないか。
「では、正直に話します。
あなたが異変と呼ぶあの大穴は、僕が魔法でやりました。
さっきドラゴンに乗って到着したばかりです。
これから魔王の娘に会いに行くところです。」
「我が領の道化より面白い話を囀るではないか。
しかし今は任務を果たすが故、戯れ言に付き合っている暇は無い。」
正直に話したのに、冗談だと思われたようだ。
馬と足の速さを競うのは無謀だし、やるしかないのかなあ。
グラビデン砦に居づらかったから早々に出てきたけれど、もう少し魔力の回復を待った方が良かったかも知れない。
仲間が無双してくれると良いなあ。




