158 砦に行くのは一人では無い
宮廷魔術師エルシアと騎士三名が飛龍で先行してグラビデン砦に向かうことになった。
僕達のパーティーもブリューデンの乗って同行する。
待機していたはずのブリューデンとサリアは、街でグルメツアーを敢行していた。
ブリューデンは普通の物も美味しくいただけるらしい。
散々燃料を食われたのに・・・。
その話をしたら、長距離を飛ぶならやっぱり燃料が必要だという。
まあ、カロリーを大量消費しそうだものなあ。
そして僕達はグラビデン砦に到着した。
エルシアはすぐに砦の将兵達と打ち合わせに入る。
僕達は兵士の一人に砦の中を案内された。
まず魔領側が一望できる展望施設に連れていてもらった。
そこはかなりの高所だ。
魔領側は兵が展開しにくい岩地が続いている。
そして向こう側から懐かしい空気が漂っている。
時折、瘴気が砦に流れ込んできて体調を崩す兵士がいるという話だ。
そして真下を覗き込むと、ここは砦というか・・・絶壁?
魔領側から見たら、完全に絶壁にしか見えないだろう。
一応出入り口は付いているようだが、扉は多重に付けられているらしい。
かなりの高度な攻撃魔法にも耐えられる構造になっているという説明を受けた。
カシムが何かにチャレンジしたそうな顔をしていた。
いや・・・味方の施設を破壊するのは遠慮して欲しい。
周囲は険しい山岳地帯になっているのだが、砦をスルーして山岳ルートで通り抜けてしまう魔族はいるようだ。
また、敵にも飛龍を使う者がいる。
飛龍の数は多くないので、いきなり攻めてくるような部隊を投入してくるようなことは無い。
しかしそこから各地に魔族が散ってしまうのだ。
ちなみに僕の指示系統に入っている魔族達は、帝国の首都が落とされた時点で帝国入りしている。
飛龍でチビチビ移動したわけでは無い。
母が後のことを考えて残しておいた戦力のようだ。
見た限り、ここに十万規模の敵兵が来ても陣形がとりにくい岩場では、実際に展開できる規模は五千程度だろう。
一万詰め込むと身動きがとれなくなってしまうレベルだ。
ここに来るまでけっこうビビりが入っていたんだけど、砦を見て安心した。
ギスケがこの辺りを取り返してから、今までずっと持ちこたえていたのだから当然か。
だけど僕の母が攻めてきたときは、あっさり陥落したんだよね。
戦闘らしい戦闘にならず人間は皆、精神をぶっ壊されて壊滅させるという無双ぶり。
人間から最悪最強の魔王と恐れられるだけのことはある。
ちなみに以前ギスケに魔王アストレイアと戦うとしたらどうすると聞いたことがある。
そしたらこう答えた。
「俺自身に魔力が全くないから、精神魔法の干渉は受けないぜ。
つまり彼女の得意技は俺には効かない。
そして単純な魔法勝負なら、十中八九俺が勝つ。」
精神魔法は魔力がない人には効かないらしい。
さすがチート魔神はひと味もふた味も違っていた。
つまり僕の得意魔法も効かないということだ。
見事に精神魔法に対する抵抗力を売りにする勇者のお株を奪っている。
この世界の生き物は、大なり小なり魔力を持っている。
だから魔力を持っていないから効かないという例外は、転移者であるギスケだけだ。
そもそもギスケのサイコキネシスってどういう原理なんだろう?
僕達は砦の施設を一通り見学した。
そして兵士がエルシアが呼んでいるという知らせを持ってきた。
砦の将校と顔合わせするらしい。
その時、僕は危険を察知した。
ジキルも気がついたようだ。
ヤバいものが近づいているような感覚だ。
敵が攻めてくるまで少なくとも三日以上はあるはずだ。
僕達は急いで展望施設に登る。
見上げた空には、遠近感も大きさも把握できない巨大な光の塊があった。
こちらに向かって飛んで来ているのだけは確かだ。
そしてそれがかなりヤバいモノだということは認識できた。
敵の大規模無双魔法攻撃か?




