153 辛抱できない心臓
結局、肝心の悪徳商人ペネッティは所在不明のままだった。
騒ぎを聞きつけてやってきた憲兵に僕は事情を説明し、後の処理を任せた。
どうやらギスケが憲兵に、僕に対して便宜を図るよう事前に手を回していたようだ。
なるほど、僕がなにかやらかすと思っていたようだ。
信用が無いな・・・いやまあその通りの結果になったんだけどね。
僕は遺跡街の直営店に行って、外科手術に必要な医薬品や道具一式を確保した。
約束だからね。
そしてアデルタに先生の所に案内してもらった。
「先生、薬が手に入ったよ。」
アデルタが扉を開いて先生に呼びかける。
そこは小さな住居が並ぶ区画の家だった。
外見からしてあまり綺麗では無かったが、玄関先から覗いた中の様子も外から見たままだった。
そして先生であろう、つり目で無精髭を生やした男が姿を見せる。
「そうか。
・・・ところでそっちの子は?
見かけない顔だが。」
先生が口を開く。
「僕はオキスと言います。
さっきまでその薬がらみで色々と面倒くさいことになって。
でも、アデルタが持ってきた薬はきちんとしたルートの正規品ですから大丈夫ですよ。」
「オキス・・・。」
先生は僕をマジマジと観察する。
「ほう、知識の賢者か。
立ち話も無いだろう、中に入るといい。」
先生は僕を迎え入れた。
一瞬で身バレか、ただ者じゃ無いなこの人。
「知識の賢者?
なにそれ?」
アデルタは首をかしげていたが、まあ普通はそうだろう。
僕は勧められるままに椅子に座る。
しばらくすると紅茶が出てきた。
ビーカーに入った紅茶だった。
「うちには食器が無いんだ。
気にせず飲んでくれ。」
僕は気にせず口を付ける。
味は良かった。
「そう言えば名乗ってなかったな?
俺はブレイトン、一応医者だ。
その顔を見ると、何か聞きたそうな顔だな。」
鋭いな、ブレイトンさんはかなり頭の回転が早いようだ。
「アデルタの姉の話を聞いて、行きがかりとはいえ少し気になって。
どんな病気なんですか?」
「心臓の弁に問題がある。
これで分かるか?」
「ええと、心臓に血液が逆流したりするやつですか?
発見できたということは、既に発作が?」
「まさか話が通じるとは思わなかった。
症状まで言い当てるとはな。
まあ、度々発作が起こっていて、早めに対処しないとマズい状況だ。」
弁膜症か。
しかも発作が起こるレベルということは、かなり悪い。
ちなみにブリデイン王国の図書館の医学書には心臓の構造すら載ってなかった。
アデルタの話で外科手術っぽいことをやってそうだと聞いて、転生者や転移者の可能性を考えてここまで来たのだ。
確かめなければならない。
外科医無双か?




