143 困った駒
「魔王アストレイアは何故神の遺跡の封印を解こうとしたのだ?」
師匠は僕に聞く。
「もちろん、神と戦うためです。」
たぶんこの答えを期待しているわけでは無いのだろうけれど順序がある。
「しかしいずれは解ける封印、魔族の寿命を考えるのであれば急ぐ必要もあるまい。」
もっともな疑問だろう。
「たぶん道が出来る場所の問題なのでしょう。」
「道の出来る場所?」
「遺跡で封印解除の時間を再計算したときに分かったのですが、封印を最後に解除した場所に道が出来るんです。
自然解除だと、どこから神が攻めてくるのか分からなくなってしまうんです。」
「ふむ、そういうことか。
神の遺跡の封印は残り帝国と魔領の二カ所。
どちらを最後に回すのか決めておるのか?」
「いいえ、それは里帰りしてから考えます。
それに準備がまだ不十分です。」
「不十分か・・・。
ヌシが十分だと判断したときが逆に恐ろしいの。」
そう言いながら、楽しそうなのは何故だろう?
「勇者ジェイエルにも言われましたよ。
僕が人を破滅へと導くらしいです。」
「ほう、ジェイエルに会ったのか?」
師匠はますます楽しそうに聞く。
「はい、しかも僕の父親というオチが付いてました。」
僕がそう答えると、さらに愉快そうにしている。
父親という部分に驚いている様子は無い。
「ヌシを見ていると楽しくて仕方が無いの。」
「趣味が悪いですよ。」
「ふぉっふぉっふぉ。
老い先短いジジイの密かな楽しみ、ダメとは言わせぬ。
それからオキスよ、心して聞け。」
師匠は笑顔なのに真剣な顔をする。
僕には作れない表情だ。
「神との戦いは既に始まっておる。
我らは既に神の盤上に載せられておるのだ。
これは私なりの推論に過ぎぬ・・・が言っておく。
ヌシは神と魔王アストレイアの双方が用意した駒じゃ。
そう考えねば辻褄が合わぬところがある。」
魔王アストレイアは分かるけど、神も?
僕自身は周りで起こる事件に振り回されてきたという感覚だったけれど、もう一度よく考える必要があるのかも知れない。
「道を・・・誤るでないぞ。」
師匠、最後にそう言った。
そして師匠はブリデイン王国へ戻ることになった。
ブリューデンの二便が戻ってきたところで、さらに師匠の送迎をしてもらう。
さすがに炎竜使いが荒すぎるので、後で製油したガソリンをたらふく飲ませてあげよう。
今のところガソリンを使用する機械を作っていないので、在庫がたぶついているのだ。
僕はギスケと連絡を取り、師匠が味方になったことを伝えた。
「あのジジイが味方に?
天から神でも降臨するんじゃ無いだろうな?」
ギスケが発した言葉は、本気だか冗談だか分からない内容だった。
師匠に散々横やりを入れられていたギスケだったが、師匠が味方になることをアッサリと受け入れた。
僕がキスケの立場だったら、絶対疑ってかかるのになあ。
AIで盤上無双も有りなのか?




