141 ラチのあかない拉致
僕達はクエルク自治領の合流ポイントへ到着した。
途中、師匠が子供のように燥いでいた。
ブリューデンの上から見る地上の景色がお気に召したらしい。
「着きましたよ師匠。」
僕は師匠に言う。
「うむ、多少寒いが悪くなかった。」
僕が始めて乗ったときは、風よけが無かったとはいえだいぶ辛かったんだけどなあ。
師匠は余裕だった。
「色々聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
僕は早速本題を切り出す。
「よろしいも何も、私は虜となっておる。
好きなことを聞けば良い。」
とらわれの師匠の方が偉そうだ。
「ますはクルセイダーズのことです。
師匠は・・・というよりブリデイン王国は教会勢力と反目していたはずです。
あれ自体がブラフだったんですか?」
「いや、つい最近までは険悪な状態だったのだ。
ある日、セフリという女が現れての。
教会と仲直りするつもりは無いかとな。
ヌシの知っておる者では無いのか?」
セフリというと僕のボディーガードだった狼だ。
名前が同じだけなんだろう・・・たぶん。
「いえ、僕の知らない人ですね。」
「そうか。
で、ダメ元で仲介を頼んだらとんとん拍子に協力関係を結ぶことが出来てな。
最終的には帝国を攻めるから兵を貸せと言ってきおった。」
「クルセイダーズの異常な装備や能力に関しては?」
「うむ、一応の報告は受けておるが、詳しいことは知らぬ。
とぼけておるわけでは無い。
ヌシは私を無駄に高く評価しておるようだが、知らぬ事は知らぬぞ。」
僕が炎竜に乗っているのも知らなかったようだし、僕のように通信機が扱えないと情報の収集も大変なのだろう。
「私が貸した兵は、完全にクルセイダーズに取り込まれてしまっての、こちらの制御を受け付けなくなってしもうた。
そこから推測するに、精神魔法が使われていると睨んでおる。」
つまりブリデイン王国の兵力の一部がクルセイダーズ化しているということか。
素人臭い動きの残滓使いから、戦闘のプロの残滓使いが生まれている可能性がある。
厄介この上ない。
「魔族が糸を引いていると?」
僕は師匠に聞いた。
「その可能性はあるの。
知っておる者なのかをヌシに聞いたのはその為だ。」
「魔族だとして、少なくとも僕の知らない系統ですね。
魔族も一枚岩ではありませんから。
それに僕が話を通せるのはごく一部だけです。」
「私からも聞いて良いかの?」
「はい。」
「ヌシはこれからどうしたいのじゃ?」
「人間と魔族の戦いを止めて、神の侵攻に備えようと思っています。」
「・・・そうか。
やはりそうするべきか。」
師匠は一人で頷く。
「よかろう、ヌシは力を示した。
約束通り協力しようではないか。」
「はい?」
「何を素っ頓狂な声を上げておる。
私が協力すると言っておるのだ。
それともこんな老いぼれでは不足か?」
「もしかして、この為にわざと捕まったんですか?」
「さて、どうであろうな。」
結局、師匠は師匠だった。
無双ジジイをゲット。




