134 手と手を合わせて手合わせ
リプリアの傷の治療を行った後は、サリアに体力回復を任せた。
見た感じでは、かなり激しく戦ったようだ。
リプリアをここまで追い込むのは簡単な話ではない。
「カイデウスさんはどうしてここに?」
「クエルク自治領の古代遺跡の調査を依頼されたんだ。
最近、遺跡を出いるしている人間が目撃されていてな。
しかもドラゴンまで出没するようになったとか。」
それはサリアがウロウロしていたときと、僕が来た時の話じゃ・・・。
僕はブリューデンがらみの事情を説明する。
「そうか、じゃああの遺跡は攻略済みだったのか。
驚いたな。
というかドラゴンに乗って移動してるのか?」
カイデウスさんが驚きながら笑った。
笑いが苦笑っぽい。
「俺の事情はそんな感じなんだが、今度はお前等がここにいる理由を聞かせてくれ。」
僕は帝国の古代遺跡でやっていることと神魔砲の件を話した。
「マジか?
人のことは言えないが、その年で壮絶に生きすぎだろ。
あの事件から五年くらいか。
それなりに・・・友達を守れるぐらいは強くなったんだろ?」
僕は頷く。
「ぐだぐだ考えても仕方が無い、ちょっと手合わせをしてくれ。」
カイデウスさんが背中に下げた大剣を指さす。
リプリアの意識が戻らないことには事情も分からないので、僕はカイデウスさんと一勝負することになった。
「魔法剣はありですか?」
「子供に手加減してもらうつもりはない。
全力で来い。」
僕が全力を出したらどちらかというと兵器が飛ぶんだけど・・・。
とりあえず賢者の杖とアイテムの使用は止めよう。
賢者の杖無しだと魔法の即時発動が不可能だから剣で戦うしかない。
僕はボロ剣に風の魔法を纏わせる。
そして神の残滓と魔導力を全身に発動させる。
「なっ・・・。」
カイデウスさんは一瞬驚いたものの、すぐに平静に戻る。
大剣に神の残滓が流れ込んでいるのを感じた。
僕は力を体全体に行き渡らせ、武器には魔法を使用する。
一方カイデウスさんは局所的、特に武器を中心に力を行使するタイプだ。
僕は強化した脚力でカイデウスさんとの距離を詰める。
待ち構えていたというタイミングで大剣による迎撃。
交わる魔法剣と大剣。
威力で風の魔法剣が上回り、カイデウスさんが後ろに二メートルほど飛ばされる。
しかし体勢を崩せてはいない。
彼は後ろに飛ばされながらも、すぐに足を踏みしめ次の一撃に備えて構えをとった。
僕は弧を描き近づき横から体勢を崩しにかかる。
カイデウスさんはお見通しとばかりに、回転切りによる迎撃。
大剣の遠心力と神の残滓による力で、風の魔法剣を貫く衝撃が走る。
カイデウスさんの追撃がやってくる。
凄まじい速度の大剣の突きだ。
受けるのは不可能だと悟った僕は、全力で背中からスライディングする。
そして体をひねりながら風の魔法剣の力でそのまま浮き上がり、体勢を整える。
今のは下手したら死んでいたよ。
「・・・これを躱すか?」
「躱すかって、躱さなかったら死にますよ。」
「お前なら死にはしないと思ってたよ。
それに本気を出してないだろう?」
「僕の戦い方はどちらかというと邪道なので、本気を出したら卑怯なことをしますよ?」
「実際の戦いはそういうものだ。
だが今ので互角だとするとオキス、お前はもう俺の遙か上を行っているな。」
互角どころかけっこう圧されてた気がするけど・・・。
あのカイデウスさんと同じ土俵に立てたことは素直に嬉しかった。
僕がそんな感慨にふけっていると、向こうが何やら慌ただしい。
カシムがリプリアの目が覚めたと騒いでいる。
僕はリプリアの所へ向かった。
さすがに手合わせ無双は出来なかった。




