132 先行しない閃光
「僕が死ぬ以外に未来を変える方法は?」
僕は一応聞いておく。
そんな方法を知っているのなら、こんなことをしてはいないだろうと思いながら。
「無いな。」
言い放つジェイエル。
「僕はその知り合いがどの程度の力を持っているかは知りません。
しかしまだ出ていない結果を決めつけられたくはありません。」
僕はそう言いつつも、その予言は正しいのだという気がしている。
しかし岐点というのがあるのなら、別の事象の岐点で割り込みをかければいい。
やりようはある。
「俺はアストレイアの言葉を信じたかった。
だが・・・。」
ジェイエルはしばらく黙った。
「魔王アストレイア・・・母さんの記憶は無いと言っていいほどだけど、分かっていることが一つあります。
彼女は信念を貫くため、自分の命すら道具にすることに躊躇しなかった。
あなたがこんな中途半端で終わりにするつもりだとしても、僕は僕なりに命をかけるだけです。」
僕は右手で剣を構えつつ、腰に固定してある閃光手榴弾のピンを左手で引き抜く。
そしてすぐ投げられるようにロックを外す。
そんな僕の行動を無駄にするかのごとく、ジェイエルは一瞬で僕との距離を詰めた。
そして耳打ちする。
こんなところで判明する僕の真名だった。
ジェイエルは剣を鞘に収めた。
慌てて僕は閃光手榴弾のピンを戻す。
ロックを外していたのでグラ付いて落としそうになった。
「ジブルトに気をつけろ。
今の状況は奴の意図したものだ。」
ジブルトって爺のことだよね。
もしかして黒幕とかいうオチじゃないよね。
気をつけると行ってもどこにいるかも分からないだけど・・・。
それだけ言って僕に背中を見せるジェイエル。
ジェイエルと剣を交えたときに闇の魔法剣に結構なエネルギーがチャージされちゃったんだけど、どうしようこれ。
手加減しているうちに閃光手榴弾とセットで畳み掛けるつもりだったのに。
ジェイエルは迷いまくっている。
結局自分の手で決着を付けることが出来なかったのだ。
彼は既に勇者では無いということだろう。
そこにジキルという新しい勇者がいるのだから。
「カシム、オキスを手伝ってやれ。
俺は別の用事を片付ける。」
そういうとジェイエルは去って行った。
もう少し情報が欲しいんだけど・・・。
僕はチャージされたエネルギーを地面に向かって放出する。
土が直径二メートルほど綺麗に消失した。
ジェイエルの力をかなり吸収していたようだ。
ヤバいな闇魔法。
彼の力でなければここまで強力な威力は発揮しないけどね。
ジェイエルに命中したらどれぐらい削れたんだろう?
こうして唐突に訪れた危機は回避されたのだった。
闇魔法は無双だったのだろうか?




