123 どけない道化
僕は用意された席に座る。
シーリが見えていると混乱を招きそうなので、賢者の杖のリンクを切る。
最初からこうすれば良かったのだ。
ルディンと話せなくなるという欠点はあるんだけど。
まずは参加メンバーの紹介から始まった。
町長クラスの人達だけで無く、領主が自分の所の家令を寄越してきた。
豪商達も参加しており、僕と懇意にしてくれている人物もいる。
特別統括部からも人が来ている。
そして何故か部屋の雰囲気がぴりぴりしていた。
最初に挙がった議題は技術や物流の話では無く、ブリューデンの事だった。
ドラゴンが街の近くに出現したので、対策を講じる必要があると。
そうか、普通そうなるよね。
感覚が麻痺するって恐ろしいな。
「その炎竜なら、今頃人化して街を観光してますよ。」
僕は事情を説明した。
雰囲気がピリピリしていたのはそのせいか。
ブリューデンのことを知っている人も混じっているんだけど、黙っているとは人が悪い。
一緒にピリピリしているふりをしているが、若干ニヤけている人がいるのを僕は見た。
事情は説明したはずなんだけど、全然和やかにならない場の空気。
僕はこの痛い状況を切り抜けるため、劇薬を使用することにした。
賢者の杖のリンクを復旧させる。
「こんにちはー。
シーリだよー。」
姿を現し、テーブルの上で踊り出す。
シーリのよく分からない踊りを、無表情で見つめる面々。
MPが吸い取られたりしてないよね?
そして場が凍った。
「知りたいことはシーリにお任せ。
オキスの許可がいるけどね。」
そう言いながらウインクする。
どんなに冷たかろうと、シーリは空気を読まない。
撃沈か。
「っぷ、くくく。
これは参りましたな。」
初老でかなり出来そうな人物がそう言った。
この場では最も上位階級にいると思われる家令だ。
「さすがは噂に聞いた賢者殿。
登場からここまでの演出、主導権を完全に持って行かれましたな。」
どうやらここまでの行動が計算ずくだと思われているようだ。
どう勘違いしたのか聞いてみたいところだけれど、やぶ蛇だろう。
他の人達も我慢の限界を超えたように笑い出す。
耐えてたのか。
「お目汚し失礼しました。
これから皆様にいくつか提案をさせていただきたいのです。」
そして僕は技術提供の件を提示した。
救いなのはどう見ても子供の僕に、侮った視線を向ける者が誰もいないことだ。
きっと炎竜で乗り付けたのが効いているのだろう。
「つまり賢者様は、これだけの知識を我々に与えていただけると?」
提案を聞いた有力者の一人はそう僕に尋ねた。
「与えるわけではありません。
あくまでも協力し合う、対等な立場でのお願いをしているのです。」
技術だけあっても、それを実現しないと何の役にも立たないのだ。
「対等と言うにはあまりにも力に差がありすぎますな。
賢者様は魔物の軍勢すらも掌握したと聞き及んでおります。」
まあ、あれは親の七光りのおかげだ。
それでも端から見れば、大勢力が付き従っている以外の何ものでも無い。
「もし僕に協力をしてもらえるのであれば、人が魔物を驚異と思うことは無くなるでしょう。
技術は個の力の差を埋めることが出来るものなのです。」
そして僕は事前に作った資料を配り、提供する技術の詳細についてプレゼンテーションを行った。
プレゼン無双だった。




