122 二つ名が賢者の件じゃ
さてどうしよう。
遺跡町周辺に魔王グレバーンの元を離れた魔族が集まってきている。
僕個人にではなく魔王アストレイアの息子の元に集まってきた感じなんだけど、それは別に構わない。
問題はクルセイダーズとやらが、ここを討伐対象に含めるのかどうかだ。
教会を通じてブリデイン王国の動きを封殺しようと目論んでいたんだけれど、ハテサテどうしてそうなったと言う状況になっている。
そう言えば最近、遺跡町の仕事が忙しすぎてジキル達の動向を把握していなかった。
不味いことになる前に確認しておくべきだろう。
ジキルに確認したところによると、教会がリーフを抱き込んでけっこう好き放題やっているようだ。
ブリデイン王国で教会は武力による弾圧を受けた。
正確には神の遺跡の周辺から追い出されただけなんだけど。
当事者から見ると教会の権威が失墜したことになるのだ。
この状況を打破するため、魔族討伐を合い言葉に教会が武装を始めたのだ。
当面は向こうで睨み合う感じになりそうだ。
ということで、こっちに来るのは当分無さそうだ。
ジキルに、できる限り武力衝突させないように立ち回って欲しいと伝えた。
しかし教会が聖女リーフを実質的に軟禁している状況になっており、勇者ジキルが動いても状況を変えるのが難しくなっているようだ。
ジキルなら強行突破でリーフを奪還するのは容易いだろう。
けれどそれをやると、その後の教会の暴走が怖い。
しばらく様子見することにした。
逆に師匠の動向が気になる。
現在、ブリデイン王国の軍隊は帝国との国境付近に待機している状態だ。
しかし以前より、そこにいる兵力が少なくなっているようなのだ。
減った分の兵力はいったいどこに行ったんだろう?
遠征で飯を食わせるのも大変なので、自国に戻したというのが一番ありがたいんだけど、師匠ならなにか画策していてもおかしくない。
こちらの準備が整っていないので、あまり状況が動いてしまうと対処しきれなくなる。
焦ってどうにかなるものでも無いけれど、悠長に内政に没頭していると足をすくわれそうだ。
僕は計画の修正をすることにした。
遺跡町を拡大する計画を、周囲の街を取り込んでいく方向へとシフトさせる。
製品ではなく技術を輸出するのだ。
僕は懇意にしている商人達にお願いし、周辺地域の有力者と協議する場を設けてもらうことになった。
調整に時間がかかるだろうと思っていたら、すんなり話が通ってしまった。
僕が想像している以上に、この場所が周辺の人々から注目されていたのだ。
周辺地域の有力者は、どうやって僕とチャンネルを繋げるか逆に思案していたようなのだ。
そして僕は周辺で一番大きい街サルアミールで有力者達と会合を開くことになった。
僕はサルアミールの街の近くへドラゴンジェットで乗り付ける。
今回はサリアがお留守番でエリッタを伴っている。
もちろん街に入る前にブリューデンは人化させた。
僕達が待ちに入り口に着くと、かなりの数の衛兵が集まっていた。
攻撃的な感じでは無い。
若干青い顔をして僕達を迎え入れた。
かなりの数の街の人達が集まって、遠巻きに僕達に視線を投じる。
そんな中、一人の精悍な若者が歩いてくる。
「知識の賢者オキス様ですね。
私はサルアミールの町長の息子ヘイゲルです。
父から案内を申しつかりました。」
知識の賢者?
まあ、賢者の杖なら持ってるけど。
いつの間にか本人の知らない変な二つ名が付けられている。
「よろしくお願いします。
それと知識の賢者とか、そんな大層な者では無いので。」
僕はそう言った。
賢者じゃ無くて魔王の息子だし。
「とんでもない。
その年で、ただの荒れ地だった遺跡の周りにあっという間に町を作ったんですよ。
しかも誰も知らない技術ばかりが使われているなんて。
それが大層でなかったら何だというのですか。」
自分の知識も含めて、異世界の技術チートだしなあ。
あまり誇れる気分にはなれない。
この世界にいる限り、何かを達成してもずっとそういう気分がつきまとうのだろう。
だからといって縛りプレイをするつもりは無い。
達成感が欲しいのでは無い、結果が欲しいのだ。
これから始まる交渉もその一つなのだ。
いつの間にか賢者無双だと思われていたようだ。




