116 ドワーフが開いたドア
僕は魔術回路を編む。
防御魔法では無いし、もちろん攻撃魔法でも無い。
「オブリエン帝国の古代遺跡に住んでいるオキスと言います。
ギスケの紹介で皆さんと雇用の相談に参りました。」
僕は風の魔法を使い音を増幅させた。
僕の言葉を聞いたドワーフ達が動きを止める。
武器は構えたままだけれど、周りと相談が始まったようだ。
そして代表者らしきドワーフが警戒しながら近づいてくる。
見た目は茶色い髭を生やした背の低いおじさんだ。
イメージ通りのザ・ドワーフである。
代表者は武器である戦斧の構えを解いている。
僕はブリューデンから降りた。
「こんにちは。
先ほどの言葉通り、仕事の依頼でお邪魔させていただきました。
あの炎竜はすぐにどかします。」
僕はサリアにブリューデンを人化させるように合図した。
そして炎竜の姿は消える。
それを見たドワーフの代表者は口を大きく開け、戦斧を取り落とした。
僕は代表者の精神状態が回復するのを待つ。
そんなにショックだったのか。
まあ、普通は驚くんだろう。
色々なことがありすぎて、僕の感覚は完全に狂っている。
そしてついにドワーフが口を開く。
「お前さん、ギスケ様の知り合いか?
だったら歓迎すっべ。
さすがあの方の知り合いだべ、不思議な力を持ってるっぺ。」
代表者が他のドワーフたちに合図を送る。
アッサリ警戒を解いてくれた。
もう少し疑うべきだと思った僕の心は、既に真っ黒に汚れているのだろう。
「皆さんいったいここで何をしているんですか?」
僕は聞いた。
「ここはオラ達の住処だっぺ。」
岩だらけの山に暮らしているらしい。
さすがドワーフ。
てっきり街にいると思って首都ホノビルを目指していたのだが、結果オーライだろう。
「これから岩竜退治に行くところだっぺ。」
そうドワーフは言った。
「岩竜?」
僕はドワーフから話を聞いた。
ドワーフはこの山に穴を掘り、鉱石を採掘しつつそれを加工して生活している。
村はそこそこ繁栄し、人口も増えてきたので採掘場を拡大していった。
情勢が不安定になっている昨今、作った加工品が飛ぶように売れているのだ。
採掘場所の中でも良質の鉱石が埋まっている場所がある。
その場所には一つの言い伝えがあった。
掘り進めれば不幸が訪れるというものだ。
若いドワーフ達はそれを迷信だと思い、気にせず掘り進めてしまったのだ。
結果、岩竜と呼ばれる種族の巣と繋がってしまったという。
岩竜は名前が竜となっているが、巨大な蜥蜴に属する。
大型の物になると体長が二メートルを超えるらしい。
そして岩竜という名前だけあって、かなり堅いらしい。
穴が繋がってしまったことによって、ドワーフの生活圏内が危険に晒されることになった。
岩竜はドワーフを見ると襲いかかってくるため、仕事どころでは無くなってしまったのだ。
そして厄介なことに巣は奥深く、かなりの数がいるという。
一見ドワーフは強そうに見えるのだけれど、それほど戦闘には向いていないらしい。
今回の戦いで多くの犠牲者が出ることも覚悟していたようだ。
チャンスとばかり僕は相談を持ちかける。
岩竜の件を片付けたら人員を回してもらう相談だ。
ドワーフ達は快諾し、交渉は問題なくまとまった。
話を聞く限り、以前戦った巨大クルタトルほどの強さは無いだろう。
問題は数の方だ。
まあ、なんとかなるだろう。
こうして僕の岩竜クエストが始まった。
巨大蜥蜴が相手なら、普通に無双が出来そうだ。




