103 血から受け継がれる力と出会いによる力
僕は強引にエリッタを引っ張り、そして研究所を脱出することに成功した。
そして無事ジキル達と合流する。
全員怪我もしていなかった。
僕達は出来るだけ遠くへ避難した。
その後、研究所の方角から凄まじい爆発音を響き山に木霊した。
爆発そのものは回避できたものの、その後が酷かった。
僕達は誘発された雪崩に巻き込まれた。
雪の中であわや窒息という所を、ペイストンのギグウロフ部隊に救出された。
危なく前世と同じような場所で死ぬところだった。
前世の死因はおそらく高温の火山ガスによって肺を焼かれたせいだと思っている。
ちょっと前なら思い出したくも無い話だったんだけど、なんだかどうでも良くなった。
こうして僕達は全員生還して目的を達成することが出来た。
そしてエリッタはしばらくの間沈黙を保っていたけれど、ようやく僕に事情を話してくれた。
エリッタの両親は幼くして事故で亡くなったらしい。
その後、王国の養護施設に入るのだが、そこで神の残滓の資質を見いだされ、国の仕事をすることになる。
俗に言うスパイだ。
しかし彼女の仕事はただの情報収集では無い。
国にとって邪魔になる人間を事故に見せかけて殺したりもしていたようだ。
ただしエリッタは戦闘能力は高いものの、機密の保持などは苦手な性格だった。
だから殺害対象とエリッタの関係性がバレたりと、師匠にはイマイチ使えない駒だと認識されたようだ。
まあ、死神と噂が立ってしまうほどだったし。
そんな中、師匠から僕の護衛と経過報告の任を命じられる。
おそらく師匠はバレても構わない程度の認識で任せたのだろう。
そんな命令をエリッタは喜んだらしい。
ようやく後ろ暗い仕事から解放されたのだから。
さらに僕が勇者かもしれないという話を聞いて、二重に喜んだ。
もしかしたら勇者と一緒に活躍できるのかもしれないと。
そして大聖堂へ旅立つ前に、エリッタは師匠から追加の命令を受ける。
賢者の杖を発見したら奪取せよと。
ずっと様子がおかしかったのはそのせいだろう。
そして今に至る。
「前にも言ったとおり僕は気にしていないよ。」
「アタイは裏切り者の人殺しだ。」
エリッタは吐き捨てるようにそう言った。
「僕なんか魔王の息子だよ。
しかも恩師を裏切る結果になった。」
「人殺しはしていない。」
「エリッタには言っていなかったけど、魔王種が子供を産むためには、人間の魂が一万必要になる。
僕はその一万人の犠牲の上に生きているんだ。
それに僕自身が、必要によってはそうすることがあるかも知れない。」
「・・・。」
「罪を背負ったら、何かをして返すしか無い。
許されるかどうかなんて関係ない、結局は自分がどうするかなんだ。
師匠は君を好きにしろと言った。
だったら僕に協力して欲しい。」
エリッタは何も言わなかった。
ただ涙を落とし、そして頷いたのだった。
僕が戦闘能力という面では強くなった。
そして賢者の杖を手に入れ、さらに強くなった。
しかし僕自身は本当にちっぽけな存在だ。
僕だけががんばったところで局地的な勝利しか収められはしないだろう。
けれどこの世界で生きてきて、沢山の出会いがあった。
それがこれからの僕の力なのだ。
仲間と力を合わせて、神を相手に無双予定。




