忘れたかったこと
忘れたかったことは、覚えていたかったことよりも多い。
もう二度と会えないわけじゃない。それなのに、思い出すたびに、その全てが僕の中で暴れるんだ。
少しの間、我慢をすることができれば、また何時もの自分に戻れるとは思うけれど、それでも僕は君を忘れるために君を意識する。
好意を伝え、僕が感じるものは何だろう。自己陶酔に浸る愉悦は一過性のものだけれど、それは薬の如く僕を虜にして、次第に蝕んでいく。そして、この日のような日が来るのだ。
後悔の念でさえ、今の僕の直進を阻むことはできない。向かう先は決まっているのだ。進まずして何が男か。僕は全てを肯定し、全てに恋をして、全てを愛そう。その為に振り返って欲しい。その為に、僕の声が届いて欲しい。ただ、ただただそれだけなんだ。
全てが伝わらなくたっていい。ほんの少し、僕が伝える愛の何百、何千分の一でいい。僕は君が好きだって、少しでも分かってくれればそれでいい。心の片隅に僕の好意の欠片を置いてくれれば、それでいい。
そんな僕の言葉でさえも僕は自分に酔いしれていて、そんな僕が嫌なんだ。自己嫌悪。これほどくだらないことは他に思い当たらないのだけれど、きっとそれは、僕にとって避けることのできない感情なんだと思う。僕は君が好きだから、少しでもそのことをわかっていて欲しい。それは図々しいと思う。男子の好きは瞬間的なものだらけだ。すぐに飽きる。それなのに、それがわかっているのに、好きな人にそれを言うのか? 馬鹿馬鹿しい―― けれど、今、僕は君が好きなんだ。君の隣に居たいんだ。君と繋がっていたいんだよ。分かってほしい。了解して欲しい。出来ることならば、ずっと僕のことを忘れないで欲しい。君の中で、僕を殺さないで欲しい。それが僕の愛なんだ。
愛し合いたいよ。本当は、愛し合っていたい。男の愛は乾くときも有るけれど、君が隣に居てくれるなら、僕は激流の様な愛で君を愛で続けるだろう。君ならいいんだ。君がいいんだ。君じゃなきゃダメなんだ。でも、君が僕に気づくことに希望を抱いてはいけない。君は君が愛する人を愛して欲しい。僕も君を向かずに歩くから―― って、決めたのになぁ。君に愛されない内の僕でも、君を愛しているんだって、僕は思わなかった。愛されなかったらそれで終わりだって思っていた。火を灯す蝋燭の様に、最後は溶けてなくなる間と思っていたけれど、手にしてもいないのに、君がそこに居るだけで愛してしまうんだ。駄目だ。気持ちが悪い。分かってるのに、君が輝いて見える。今までの記憶の中から君が消えたら、きっと僕はもっと良く生きていただろう。でも今の僕が作られたのは君のせいじゃない。恋に落ちるのは何時だって突然なんだ。理由もない。ただ好きなだけ。次第に愛に変わっていくのが、青年期の恋愛。
ずっと好きでいられるだろう。それ程に君を愛している。手を伸ばすことも烏滸がましいと思う。だから今は、君を思う気持ちを言葉に移してみた。君が好きだ。それでも僕は何もしない。君を愛している。それでも僕は君の中から消えるだろう。
その中で、僕の願いはたった一つ。せめて僕が君を好きでいる間、僕のことを忘れないでいて欲しい。僕を記憶の中で生かせてあげて欲しい。君に忘れられたくないのが、僕の君を思う恋だから。




