月の城
一人ぼっちで、真っ暗な私は世界を作りました。
苦しくなったときにいつでも逃げ込めるように。
悲しいときには雨が降り、嬉しいときには日がさします
けれど私の世界に太陽が出ることはありません。
太陽がどんなものか知らないから。
私は雛鳥。何も知らない。
雛鳥は大人になり、自由に飛び立つ。
私は飛べない。真っ暗だから、怖くて飛べない。
だから、世界を知れない。
私の世界は未完成。
さみしい夜に、あなたに会いました。
何もかもが嫌になって、闇に身体を投じた時です。
真っ暗な私が初めて「綺麗」と思った。
あなたは美しく輝き、優しく微笑みかける。
その微笑みで、私は明るくなれるのです。
あなたを知って、私の世界は大きく変わりました。
嬉しいとき、太陽が出るようになりました。ただ日がさすだけではわからなかった暖かさ。初めて感じた優しさ。
木陰に座って本を読む。ちちちと小鳥が傍で鳴いた。
未完成な世界がどんどん彩られていく。
あとは月だけね。
あなたはそう言いました。
月を教えてあげるには視界が悪いなぁ
あなたはこうも言いました。
そして、あなたはいなくなった。
〝世界〟の綺麗な部分だけを雛に教え、姿を消した。
汚い所を知らない私にも、あなたが消えた理由は分かります。
こんな世界じゃ、あなたはもう輝くことも微笑むことも出来ないものね。
あなたはこの世界からも消えました。
跡形もなく。