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ランカー2

 ゲームセンターディメンジョン、そこは昨日と変わらず人で賑わっていた。

 四人が向かうのは、もちろんWFが設置されている場所だ。

 そこにも相変わらず人だかりができており、皆観覧モニターで試合の行方を見守っている。時折「おー」や、「あー」などと聞こえてくるあたり、試合に見入っているのがよく分かる。

 そんな中に四人がやってくると、モニターを見ていた人の視線が一瞬こちらに集まった。そして「お、きたな」と言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべる観客たち。

 大和はその笑みを見て、この後起こる出来事が何となく想像できてしまった。

 それは、以前のゲームセンターでもあったこと――


「あなたが噂の新入りさんね」


 ――強者との戦いの気配である。


 大和たちが声のした方を振り返れば、一人の女性がいた。年齢は大和たちと同じぐらいだろうか、動き易そうなジーンズにフリルをあしらったカッターシャツ、その上からピンクのパーカーを羽織った、金髪の女性。胸元では、これでもかと自己主張をする胸がパーカーを押し上げていた。

 目じりはキリッと吊り上がっており、どことなく強気な印象を受ける。

 そして、その女性の周囲には、取り巻きのように男たちが集まっていた。


「あ、あんたは……」


 その女性を見た和馬が驚く。大和が横を見れば、佳奈美も澄も驚いた様子で声を掛けてきた女性を見ている。大和は自分だけ驚いていないのもおかしく思えたので、とりあえず目に付いた手頃な所で驚いておくことにした。


「ツインドリルなんて、現実で初めて見た」

「驚くところはそこじゃないよ!?」


 他の三人とまったく別の場所に驚いている大和に、佳奈美が突っ込みを入れる。ゲームセンターの薄暗い中でも尚、自己主張するように輝く美しい金髪は、両サイドで結ばれ、そこから円錐を辿るようにロールを描きながら下へと降りている。いわゆるお嬢様の髪型というやつだ。


「ちょっと先輩、なにきょとんとしてるの!? この人ランカー! ディメンジョンのWF上位ランキングプレイヤー!」


 大和がぼんやりとお嬢様を観察しているのを見た佳奈美が、興奮した様子で大和に小声で説明してくれた。それを聞いて、大和も三人が驚いていた理由に納得する。

 この規模のゲームセンターのランカー。ならば、かなりの実力者だろう。そんな人物が向こうから声を掛けてきたのなら、驚くのも無理はない。そして、観客たちの反応も。


「聞いてるの? あなたが新入りさんでしょ? 昨日貫くんを叩きのめしたっていう」


 お嬢様は大和たちがいつまでも反応を返さないことに不満を持ったのか、今度はもっと細かい所まで補足して尋ねる。

 さすがにそこまで細かく言われては、大和も答えない訳には行かなかった。


「貫って、確か初心者狩りのことだよな? それなら俺だけど」

「強いんですってね。みなさん噂してましたわ」

「まあ、上級者を自負してはいるな」


 その言葉を聞いて、大和の隣にいた澄がプッと吹き出す。


「上級者――ならこの空気がどういう物か分かっていますわよね?」

「ああ。俺とあんたで試合しろってことだろ」


 自分で言いながら、口元には笑みが浮かぶ。それを見て、女性も満足そうにうなずいた。


「そうですわ。私も他人のデッキで、弱いとは言え、あの貫を倒したあなたの実力に興味がありますの」

「試合するのは構わない。ってかこの雰囲気から逃げられる奴はいないだろ」


 ギャラリーの熱気は、すでにどんどんと上がって来てしまっている。大和とお嬢様を中心にすっかり人だかりができ、それを見たWFをやらない人たちも何かのイベントかと集まって来ていた。

 そんな状況を無視して、勝負をしませんなどといえるほど、大和は空気に無頓着ではない。

 だが、試合の前に一つだけ聞いておきたいことがあった大和は、確認の意味も込めて女性に尋ねる。


「けどその前に一つ質問。あんたのランクと名前は? 俺は葉山大和だ」


 他人に名前を聞くときは――などと面倒なやり取りはしたくなかったので、先に名乗っておく。そのおかげか、お嬢様はすんなりと答えてくれた。


「金本千華。ランキングは二位ですわ」

「二位か」

「何かご不満でも?」


 大和のつぶやきに、千華が眉を顰める。それを見て、大和はすぐに訂正した。


「いや、あんたと戦うのに不満は無い。ただ、こういうのをするのって、大抵一位の奴の仕事じゃなかったか?」


 ディメンジョンでは違うのかもしれないが、大和がいたゲームセンターではそういうことになっていた。そしてその言葉を放った瞬間、澄の肩が小さく反応したのを大和は見逃さない。


「あら、良く知ってますのね。本当ならそうなのですけど、理由は分かりませんが、最近一位の方が来なくなってしまいましたの。だから私が一位の代わりとして受け持っている訳ですわ」

「そうだったのか。変な質問して悪かったな」

「いえ、気になることは最初になくしておくべきですわ。それで試合に集中できなかったと言われても困りますものね」


 千華はそう言って不敵に笑う。

 試合に集中できなかった。その言葉を使うのは、どちらか。間違いなく敗者だろう。それを大和に言われる気満々の千華からは、ありありと自信が感じられた。


「じゃあ始めようか。台は空いてる?」

「ええ、確保してありましてよ」


 千華が視線で示した先には誰もプレイしていないWFの台がある。千華は左側へ、大和は右側のカプセルへと入り、試合の準備を始めた。

 デッキケースからIDを取り出し、読み込み器にかざす。ICチップから情報が読み込まれ、画面上に大和のこれまでのデータが出てきた。そして米印と共に、テロップが浮かび上がる。

 そこには(拠点登録された場所とは違うエリアです。拠点登録を変更しますか?)と書かれていた。この拠点登録をすることで、そのゲームセンターのランキングに登録されるのだ。


「この店なら楽しめそうだな」


 大和は迷わずYesのボタンを押す。

 同時に、拠点変更完了の文字が浮かび、いつものスタート画面に戻った。手早く操作して、試合形式を選択し、対戦相手とのリンクを作る。


「準備できまして?」


 すぐにスピーカーから千華の声が聞こえてきた。その間にも、自分のウォーリアとユニットをそれぞれの位置にセットして、準備を完了させる。


「ああ、こっちはいつでも大丈夫だ」


 グッとコントローラーを握り、ボタンの感触を確かめる。カチカチと軽快な音がして、反応の良さを教えてくれた。


「では行きますわよ」

「ああ、始めよう。俺達だけの戦争ゲームを」


 コントローラーでスタートの文字を押し、カプセルが輝いた。



 観覧モニターの前では、大勢の観客たちが始まりを今か今かと待ちわびていた。そして、画面に映し出される二人のID。

 一人はもちろん、ディメンジョンのランキング二位、金本千華。試合数は三千を超え、勝率は九十%代を維持するという、驚異的な戦績だ。しかし、これでも二位。それほどまでに、ここのランキング戦は厳しい戦いだと言うことを物語っている。

 いつもの観客ならば、このIDを見ただけでも盛り上がり、口笛の一つも上がる。しかし、今日は全員が息を飲んで、もう一人のIDを見ていた。


 プレイヤーネーム・ヤマト

 総試合数・六千二百七十三

 勝率・九十七%


 その圧倒的なまでの戦績に観客が理解できたのは、大和が上級者というレベルでは収まらないほどの強者であると言うことと、今から始まる戦いが、とてつもなくハイレベルな戦いになるだろうという予感だけだった。


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