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Farce of the Creators  作者: かくにん
▽:第一部・ZERO【序:管理された世界の】
12/31

【序】第ZERO章:一節 〜消失と死/孤独と再誕〜


――真――


 虚構の現実――

 ――優しい虚実


 夢と現の道化芝居。


 道化を演じるは、優しい罪人。

 虚実に翻弄されるは、己が宿命を知らぬ無垢なる乙女。

 総てを見定めるは、信ずる心に忠を尽くし磨耗して逝く老騎士。

 虚実を語るは、喪失を恐れる哀しき愛国者。

 楽園に牙を剥くは、消失を恐れ愁う反逆者。


 傍観するは、君と僕とあなたと私とワタクシタチ。


 これは、夢と現を廻る物語。

 生き活きる居場所を求めるモノ達の物語――


 総てを見透かし、

 虚構を語っているのは、誰だ?




 第ZERO章 〜消失と死/孤独と再誕〜



〜Chapter Zero/First part/beginning〜


 ……げヴ

 ゲ……ら……

 ……ヴ…………ラー

 ……げヴラー……ゲヴラーっ!

 …………遠くから――

 ――呼ばれているような……

 遠くから……

「ゲヴラーっ! ゲヴラー起きてってばっ。ゲヴラーっ!」

 ……自分を呼ぶ音に、薄く目を開く。

 ぼやけた視界に、必死に口を動かす、金色の瞳な人物が見えた。

 目覚めの気分は、あまり好くない。

 夢を見ていた気はするが、まったくさわりすら思い出せない、もどかしい気分……

 名前を呼ばれ続けながらも、しばし半目のまま何をするでもなく、黒に近い紫な長髪と金色の瞳を持つ可愛いよりカッコイイ感じの、自分の名前を必死に連呼する少女を眺め――

 ――自分が何か硬いモノを背にしていると気づき、

「んあっ?」

 と微妙な違和感に、たぶん覚醒し、

「おはよう■■■■」

 ■■■■と金色瞳少女の名前を呼んで、目覚めの挨拶をする。

「もう、おはようじゃないよっ。ゲヴラー、今は夕食の時間だよ」

 ■■■■は呆れたように肩をすくませ、

「ほら、早くしないと夕食全部食べられちゃうよ」

 ゲヴラーの手を取り、早く速くとうながし急かす。

 まあ■■■■が急くのも無理はない。船に乗って最初の楽しみと言えば、広大かつ雄大な大海原の景色だが、しかしどこまでも続く蒼い海である。その変化の無さを、一日と言わず半日も眺めていれば、さすがにどんなに初めてで楽しみにしていたとしても、飽きがくる。

 となると、やはり長い船旅での楽しみといえば、なにはともあれ食事であろう。

 しかし急かされながらも、ゲヴラーはのそのそと身体を起こし、背伸び一つと、アクビを一つ。改めて、自分が今どこに居るのか再確認するかのように、辺りを見回す。

 目覚めているようで寝惚けている寝起きゲヴラーの目に映るは、水平の果てまで穏やかに波音を奏でる大海と、煌びやかな星達の輝きを身に纏った底知れぬ美しさの夜空。そして、甲板から生えるマストに、今まで自分の睡眠を支えていたリンゴ入りのタルに、今自身が足を着けている木造の甲板。ぐるりと周囲を見回し、まとわるように頬を撫でる潮風の匂いを感じつつ、じわりじわりと彼は自分が船の上に居ることを実感してゆく。

 が、金色瞳の少女は、ゲヴラーのスローペースに付き合う気は無いようで、

「は・や・くっ!」

 今だ微妙に寝惚けている感じのゲヴラーを、半ば強引に休憩室兼食堂へと連れて行く。お腹が空いて、ちょっぴり苛立っている、のかもしれない。


 船内に入り、休憩室兼食堂へと続く短い階段を下りる頃には、ゲヴラーの意識も覚醒しており、

「ごめん。あんまりにも暇だったから、ついウトウトしちゃって……」

 と、自分が寝ていたが為に出遅れ、物凄く窮屈なテーブルの隅っこにしか座れず、しかも用意された食品を自由に皿に盛り付け食べる形式がゆえに本日のメインディッュは完食されてしまい、食い損ねたという現実を、残った品を皿に盛りつつしみじみと理解できた。言い訳のしようもない。

「いいよもう。別になにも食べられないわけじゃないんだし――」

 あまりにも、すまなそうにするものだから、なんだかこっちが悪いことした気になってしまう。ちょっとズルイなぁと思いつつ、金色瞳の少女は、

「――でも〜、ふふ。ならばお詫びの印として、そのハムとソーセージを頂こう」

 ムフフと楽しそうに笑みを顔に貼り付け、思いついた名案を、まるで裁きを下す法王のように高らかに言うのだった。

「姫様のお慈悲に感謝いたします」

 表情を緩ませてゲヴラーは代償が盛られているお皿を法王なお姫様の前に差し出し、置く。そして席を立ち、

「お茶、飲む?」

 もきゅもきゅと献上されたハムを食しているお姫様に訊いた。

 金色瞳の少女はもぐもぐとハムを味わいながら、コクリと上目で肯く。

「了解」

 ゲヴラーは狭い休憩室兼食堂内を、食事中の人達の邪魔をしないように慎重に移動し、同じ室内にある簡素な厨房で腕を揮うコックから、淹れたてのお茶が入ったカップを二つ受け取り、お茶をこぼさぬよう慎重に元来た道を戻る。

 ■■■■の前と自分の前のテーブルにカップを置き、着席。

 ゲヴラーはズズッと食後のお茶を一口飲み、一息吐く。そして、なんとなく狭くも賑わう食堂内に視線をやった。

 吊るされたランプの灯りが小波に揺らめく休憩室兼食堂内で、やはり多く目に付くのは、食事を取りながらも商売の話をし続けている交易商人達の姿だろう。まあ、人運びよりも荷物運びを優先した設計で、現在乗船中のこの船は定期交易船なのだから、当たり前といえば当たり前の光景だが。

 ゲヴラーがお茶を飲みながら室内を見回し、慈悲深いお姫様が最後のソーセージを飲み込んだ――

 その時、異変が始まった。

 なんの前触れも無く、船は激しい揺れに襲われ、吊るされているランプが動揺に拍車をかけるように狂気乱舞。

「なっ? がっ! 熱っ!」

 突然の事に、ゲヴラーは飲んでいたお茶を顔面からかぶってしまう。いきなりの熱さに彼は手で急かしく顔を拭いつつ、もう一方の手で揺れに耐えるためテーブルにしがみつく。

「えっ? きゃっ! うぐっ!」

 突然の揺れに、金色瞳の少女は嚥下中のソーセージを変なところに詰らせてしまう。彼女は片手でテーブルにしがみつきつつ、空いている方の手で胸をドンドンと叩き、詰ったソーセージを落とそう全力を尽くす。

 始まりと同じく唐突に船の揺れが治まると、同時に、

「――っはぁ〜……」

 金色瞳の少女は努力を実らせ、事なきを得る。

「はぁ……、熱かった」

 ほんの少し顔を赤くしたゲヴラーは、安堵の吐息の変わりにボソリと漏らしたあと、金色瞳の少女に大丈夫かを訊き、なにかにホッとしたような長い吐息を漏らしつつコクリと頷いた彼女の問題なさそうな反応を見た後、

「それにしても、どうしたんだろう?」

 と、現状に対して疑問の言葉を口にした。

 休憩室兼食堂に居る他の者達も、口々に不安と不満を混ぜ込んだ疑問の言葉を漏らしている。

 しかし疑問の答えは間を置かずして、血相を変え現れた一人の水夫によって、

「かっ、かか、かい、かっい――か、海賊だっ!」

 解答を得るのだった。

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