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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治元年3月
98/506

お百度参り

 沖田さんと巡察をしていた。

「沖田さん、おなかすきませんか?」

 春のせいなのか?おなかの虫がグーグーなっておさまらない。

「別に僕はおなかすいてないけど、付き合うよ」

「ありがとうございます」

 ということで、一緒に食事処というところに入った。

 沖田さんも、私に付き合ってという感じで同じものを頼んだ。

 食事が来て、いただきますをして食べ始めた。

 私が食べ終わり、沖田さんの方を見ると、子供のように、嫌いなものを外に出していたけど、その多さに驚いた。

「沖田さん、そんな好き嫌いがあるのですか?」

「知らなかった?」

 そんなこと、知らんわっ!

「嫌いなものが多すぎるのは、気のせいですか?」

「気のせいじゃないよ。どうも食べれなくてね」

「食べれなくてね。じゃないですよ。食べないとだめですよ。病気になりますよ」

 この人は、今年の6月に病で倒れてしまう。

 もう3か月しかない。それを避ける方法は何かないのか?

「蒼良は、僕の姉さんみたいなことを言うね」

「姉さんじゃなくても、そんなことをしている人がいたら誰でも言うと思いますよ」

「でも、食べれないものは仕方ないじゃん」

「これを作ってくれた人たちに悪いなぁとかって思わないのですか?」

「蒼良、すごいことを言うね。僕はただで食べているわけじゃないし、ちゃんとお金は払うのだから、作ってくれた人は損をしないと思うけど」

 いや、そういう問題じゃないと思うのですが……

「とにかく、鼻つまんででも食べてください。本当に病気になっちゃいますからね」

「鼻つまんでって、それこそ作ってくれた人に失礼だと思うけど」

 そうなのか?


 沖田さんがあんなに好き嫌いが多い人だとは思わなかった。

 何とかしないと、病気になってしまう。

 沖田さんがかかる病気は労咳と言って、現代で言う結核だ。

 現代では医療が発達しているから治る病気になっている。

 しかし、この時代では不治の病なのだ。

 だから、予防するしかないのだけど……

「蒼良、何を考えておるんじゃ」

 屯所で考え込んでいたら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「お、お師匠様っ! いつ温泉巡りから帰って来たのですか?」

「帰ってきたのではない。まだ途中だ」

 途中だったんかいっ!って、私がこんなに悩んでいるのに、よく温泉巡りなんてできるなぁ。

「なんか悩んでいるようじゃが」

「お師匠様、現代に帰って、結核の抗生剤か何か持ってきてもらえません……よね」

「あたりまえじゃっ! タイムトラベルの機械は京にあるがな、そんなに往復はできんのじゃ。これは、お前がこの時代に来た時に話したと思うが」

 そうだったっけ?

「往復を繰り返すと、その分機械に負担がかかり壊れてしまう。だから、行き来は最小限にしておるのじゃ。わしだって、現代に帰りたい時があるが、お前とともに我慢しておるんじゃ。一人でも多く、新選組の連中を現代に連れて帰りたいからな」

 やっぱり、結核の抗生剤は無理か。

「悩みは沖田のことか?」

「そうです。実は……」

 私は、今まであったことを話した。

「なるほど。確かにこのままでは結核になってしまうな」

「何とか、予防策はないのですか?」

「この時代なら、滋養をつけるしかないじゃろ」

「一足早く、現代に連れていくことはできないのですか?」

「それもできん。連れて帰るのなら、歴史的に見て自然に消えるように連れていかなければ、その分機械の負担がかかり、壊れやすくなる。そうなると、お前も帰れなくなるぞ」

 それは困るな。

 それにしても、タイムトラベルの機械って、ずいぶんと面倒くさいな。

「もっとちゃんとした機械がなかったのですか?」

「お前、世界でたった一つのものだぞ。そんなものあるわけないじゃろ」

 そういう機械があるだけでも信じられないとこだもんね。

「他に、予防はないのですか? あんなに嫌いなものがあったら、滋養なんてつきませんよ」

「後は、神頼みしかないじゃろうなぁ」

 神頼みかぁ……。


 神頼みと言えば、お守りかな。

 この時代でもお守りはある。しかし、現代のようにお守りを入れる袋までは一緒に売っていない。

 神社等でお守りを買い、そのお守りを入れる袋を注文して作ってもらうか、自分で作るかしなければならない。

 それなら、自分で作るか。頼むとお金もかかることだしね。

 形は、首からぶら下げるものが一般的らしい。持ち歩くのに邪魔にならないしね。

 後は、どこでお守りを買うかだ。

 健康関係にご利益のある神社仏閣って、どこだ?

 頼みのお師匠様は、また温泉巡りに出発しちゃったし。それにしても、なんでここにいたのだろう?

 そんなことを考えながら、神社仏閣を探して歩いていると、巡察中の源さんにあった。

「おう、蒼良じゃないか。なんか悩みでもあるのか?」

「わかりますか?」

「顔に書いてある」

 そんなに顔に出ていたのか?

「健康関係にご利益のある神社仏閣って、知りませんか?」

「なんだ、健康に心配でもあるのか?」

「私は大丈夫ですが、沖田さんが……」

「総司がどうかしたのか?」

 まだ発病していなかった。

「あ、いや、沖田さんは、健康ですよね」

「見りゃわかるだろう」

「そうですよね」

 あははと笑ってごまかした。

「もしかして、天野先生が風邪でも引いたのか?」

 何かあった時のお師匠様だ。

「実は、ひどい風邪をひいてしまって。薬も飲んだのですが、なかなか治りが悪くて。後は神頼みかなぁと思ったもので。」

「それなら、一番近くにいい寺があるだろう」

 一番近くの寺って、もしかして……

「壬生寺ですか?」

「そう。厄除け、延命にご利益があるらしいぞ」

 延命。まさに私が望んでいることだわ。

「ま、お百度参りでもすりゃ、自分の気も落ち着くし、ご利益もあるだろう」

「お百度参り?」

「もしかして、知らんのか?」

 聞いたことはあるけど、詳しくは知らない。

 聞いた話によると、言葉のとおり、100回お参りをするらしい。

 何も考えずに、参道から神様がまつられているところまで行き、参拝をする。

 そして、帰る。これを100回繰り返す。

「途中で数なんて数え切れなくなるからな。石を置くんだ、石」

 石を置いて、数えるのか。

「方法は、裸足でやるとか、人に見られないようにしてやるとか色々あるがな」

「わかりました。やってみます」

「やってみますって、おい、蒼良!」

 源さんの話も途中できり、100度参りの準備をするため、屯所に帰った。


 夜中に目を覚まし、壬生寺に行った。

 夜の寺は、なんか怖い。

 けど、そんなことを言ってられない。これで沖田さんの病気が治るなら、軽いもんだ。

 って言うか、まだなってもいないのだけど、大丈夫だよね。

 草鞋を脱ぎ、私は100度参りを始めた。


 最初の20回ぐらいは、こんなの軽いと思っていた。

 しかし、ここからが遠かった。

 30回目、弱音を吐きそうになったけど、自分で自分にカツを入れて頑張った。

 40回目、これ、いつになったら終わるのだろう?と、願いが横道にそれたので、仕切りなおした。

 50回目、なんだか夜が明けてきたぞ。屯所に戻った方がいいのかな?私がいないのを見て、土方さんが心配しないかな?

 でも、やっと半分まで来たんだから、もう半分、頑張ろう。

 60回目、完全に夜が明けた。鳥の声がにぎやかになっている。

 70回目、今、何回目何だろう?わからなくなってきて、置いた石の数を数えて、まだ100になっていないのを知って少し落胆する。

 80回目、早く終わらせないと人が来そうだ。周りの民家も、騒がしくなってきた。

 90回目、まだ100じゃないの?でも、こんだけ頑張ったんだから、沖田さん、病気になんてならないよね。

 そして100回。

「蒼良、やっぱりここにいたのか?」

 源さんの声が聞こえた。

「お前、こんなところで100度参りなんてして、何があったんだ?」

 土方さんの声も聞こえてきた。

 人に見られた?でも、100回終わった後だから、大丈夫だよね。

「これで、大丈夫ですね」

 私はそうつぶやいてから、倒れたらしい。


「あれ?」

 目が覚めたら、いつもの部屋の見慣れた天井が見えた。

 確か、壬生寺にいたのだよな。

「あれ? じゃねぇだろう。源さんから聞いたが、天野先生が病気なんだって?」

 土方さんが、私の顔を見下ろして言った。

「えっ? あ、はい」

 そうだ、そういうことになっていたのだ。

「心配になって、天野先生の長屋に行ってみたが、本人は元気になってまた出かけていったらしいぞ」

 お師匠様は、温泉巡りの旅にまた出発しているはずだ。

「それは、よかったです」

「お前のお百度参りが効いたのだろう。もう少し寝ていろ」

「はい」

 お言葉に甘えて目を閉じたら、再び夢の中に入って行った。


 目が覚めると源さんがいた。

「目が覚めたかい?」

「はい」

「まさか、本当にお百度参りするとは思わなかったよ。あまり無理をするもんじゃない」

「はい、すみません」

「健康にご利益のあるお守りをいただいてきた」

 源さんが、お札を出してきた。

「ありがとうございます」

「天野先生も、いい孫を持ったなぁ」

 実は、お師匠様にではないのですが……なんて、とてもじゃないけど言えなくなってしまった。


 次の日。

 裸足で歩いてお百度参りをしたので、足の裏は傷だらけだけど、それ以外は何も支障がないので、巡察中に呉服屋さんから端切れをいただいた。

 巾着みたいにして、ひもを長くして、首からぶら下げられればお守りの出来上がりだ。

 小さいものなので、チクチクと針仕事をして出来た。

 その中にお札を入れて、沖田さんに渡しに行った。


「えっ、僕に?」

「はい」

「天野先生じゃないの?」

「沖田さんにですよ」

「もしかして、僕のためにお百度参りなんてしたの?」

「そうですよ」

「なんで?」

 そうだった。沖田さんはまだ発病をしていないのだ。

「あんなに嫌いなものが多ければ、いつか病気になりますよ。例えば、労咳とか」

「僕は大丈夫だよ。こんなに元気なんだから」

 今が元気だから、余計に病気になってほしくないと思うのだ。

「とにかく、沖田さんの健康を願ってお百度参りもして、お守りも作ったのだから、いつまでも健康でいてくださいね。っていうか、健康に気を使ってください」

「わかったよ。ありがと」

 そう言うと、沖田さんは私からお守りを取り、首にぶら下げた。

「好き嫌いは治らないと思うけど、お守りは大事にするよ」

 できれば、好き嫌いもなおしてほしいのだけど。

 

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