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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久4年・元治元年2月
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斎藤さんとお酒

 有馬温泉から帰ってきた。

 私たちが有馬温泉に行っている間に色々なことがあった。

 まず、新徴組と言って、昨年一緒に京に来た浪士組の一部が私たちで京に残ったのだけど、ほとんどが江戸に帰り、江戸で新徴組という、新選組の江戸版みたいな組織がある。

 その組織に入っている人二人が、新選組に入りたいため脱走したのかなんかわからないけど、通行手形と言って、関所を通るのに必要なものがなかったので、木曽妻籠宿というところで捕縛された。

「そんな奴らがやってきても、うちの隊に入れるつもりはまったくない」

 土方さんがそう言った。

 というわけで、問い合わせがあったのか知らないけど、土方さんがお断りをしたらしい。


 そして、京都守護職で私たちの上司にあたる人、松平 容保公が長州征伐のため、陸軍総裁職という職に就き、京都守護職には新しく松平 春嶽しゅんがくという福井藩の人が就いた。

「福井藩ってどこにあるか知っているか?」

 土方さんが聞いて来た。

 福井県だよね。他の藩も、こういうわかりやすい名前にしてほしい。

「私を馬鹿にしているのですか? 場所ぐらい知ってますよ」

「お前のことだ、知らないかと思っていた」

 そういうと、にやりと笑った。

「俺たちは今まで通りにしていればいい。何も変わらん。ただ、武士は一生一人の人間に仕えるものだ。俺たちとしては、容保公に仕えたいがな」

 そういえば、近藤さんもそんなようなことを言っていた。

 この件に関しては、後日京都守護職を容保公に戻してほしいという嘆願書なるものを出すらしい。


 そして、一番の事件は、改元をした。

 2月20日から元治元年となった。

 文久4年だと思っていたので、池田屋事件などはまだ先のことと思っていたのに、なんと、今年の出来事だったことがわかった。

「文久はまだ4年しかたってないのに、そんな簡単に改元していいものなのですか?」

 土方さんに聞いたら、笑われてしまった。

「改元なんて、しょっちゅうだろう」

 えっ、そうなのか?

「しかも、この改元は、昨年から決まっていたぞ」

 それも知らなかった。

 知らべてみると、この甲子きのえねの年は変乱が多いので、それを防ぐために改元したらしい。

 実際は、改元しても変乱は起きたのだけど。

「でも、こんなにしょっちゅう改元されると、年齢の計算とかやりにくくないですか?」

 私の場合、いくつの時代を超えたのかわからないお師匠様の年利惠の計算に非常に困っている。

「そんなこと、必要ないだろう」

 この時代の人間には、年齢の計算の必要がなかったのか?

「歴史の授業の時とか、非常に困るのですよ。西暦何年だ? とか調べないといけないし。第一、元治元年が1864年だとすぐわかる人も少ないと思いますよ」

「俺には、お前の言っていることがよくわからんが」

 しまった。土方さんに歴史の授業について愚痴ってしまった。


 池田屋事件があるということは、沖田さんが病気になってしまうということだ。

 これを何とか予防したい。

 BCGを持ってくるか?いや、無理だろう。

 それなら、牛の胆を毎日食べてもらうとか?いや、あれは人間の食べる物ではない。

 なら、どうすればいいんだ?

 何かの時のお師匠様だけど、お師匠様は相変わらず江戸時代温泉巡りの旅に出ている。

 まったく、こんな時に何してんだか。


「もうすぐ花見が出来そうですね」

 一緒に巡察している斎藤さんに言った。

 2月だけど、旧暦なので現代で言うと3月下旬ごろになる。

 そろそろ花見の季節だろう。

 この時代、何日に満開になりますよなんて教えてくれる人なんていない。

 今年こそ、花見をするぞと思っている私の横で、ふっと息を吐くように笑った斎藤さんだった。

「昨年は花見できなかったので、今年こそ、花見しますよ」

「昨年は、それどころじゃなかっただろう」

 そうだったのだ。

 昨年は京に来たばかりでバタバタとしていた。

 京に来ただけならいいけど、江戸に帰るなんて言い出したので、余計にバタバタしたのだった。

 それにくらべて、今年の春の平和なこと。

 こんなに平和で大丈夫なのか?と思ってしまう。

 しかし、その平和な空気は破られた。

 巡察が七軒町という町に入った時、

「大坂屋で暴れている人間がいると、大坂屋の主人から知らせがあったのですが」

 他の隊士が私たちに報告してきた。

「大坂屋と言ったら、有名な店だな。行ってみよう」

 えっ、有名な店なのか?聞こうと思ったら、斎藤さんはすでに先に走り出していた。

 ちなみに、大坂屋と言ったら、江戸にも店がある有名なお店らしい。

 落語にも出ているらしい。

 その大坂屋についたら、報告通り、3人ほど暴れていた。

 刀を二本さしにしているので、浪士か何かだろう。

 私たちの方が人数が多かったせいか、あっさりと捕縛することができた。

 捕縛をし、取り調べをすると、なんと浪士かと思ったいたら、武士だった。

 この時代、身分制度というものがあり、身分は武士の方が私たちより上なので、私たちが何とかするわけにもいかず、結局、奉行所に送っていき、処分は奉行所に頼んできた。

 たぶん、取り調べなく釈放になるのではないかと思う。

「武士がこんなことをしているから、武士がいなくなってしまうのですよ」

 武士が身分のとおりみんないい人たちだったら、明治時代になくなるわけないと思うのだけど。

 そんな私の独り言を斎藤さんは聞いていたらしい。

「武士が、なくなるわけないだろう」

 ぼそっとそう言った。

 それが、無くなるのですよ。近い未来に。

 そう言いそうになってしまった。

 でも、そう言うわけにはいかないので、

「それもそうですね」

 と言っておいた。

「こんな武士ばかりが増えて、世も末だな」

 斎藤さんは悲しそうに言った。

 新選組にいるほとんどの人が武士になりたくて入ってきた人たちだ。

 斎藤さんも、その一人だと思う。

 だから、暴れていて捕まえたのが武士だった、という感じになったら、やっぱり悲しいし、むなしくもなってしまう。

 斎藤さんもそうなのかな?

「斎藤さん、花見にでも行きませんか?」

 花見に行って気を紛らわせてもらえたらいいなぁと思い、誘ってみた。

「お前、男同士で花見に行こうなんて考えているのか?」

「えっ、男同士じゃダメなのですか?」

「俺は、花見に行くなら女と行きたいな」

 そう言い残して、斎藤さんは去っていった。

 それって、女装しろってことか?いや、そもそも私は女だから、誘ってきたのが女なら行くということか?


「おっ! お前、女装してどこに行くんだ?」

 女ものの着物を着て、髪の毛を結ってかんざしをさしているときに、土方さんが入ってきた。

「花見ですよ」

「花見? 一人でか?」

「斎藤さんとです」

「斎藤と? またなんでだ?」

「斎藤さんが落ち込んでいるように見えたので、花見に誘ったのですよ。そしたら、女となら行くと言われたので」

「それで女装してるのか?」

 いや、そもそも私は女なので、女装ではないと思うのですが。

「そんな簡単に女装するんじゃねぇっ!」

 土方さんはなぜか不機嫌な様子だった。

「女装するなと言われても、本来の姿はこっちですから」

「だからってな、斎藤に言われて女装していたら、平助に言われてもするのか?」

「必要ならしますよ」

「お前っ! そんな簡単にしていたら、女だってばれるぞ」

「大丈夫ですよ。今日は近藤さんはいません」

「近藤さんにさえばれなきゃいいってもんじゃないだろう」

 土方さんのお説教が、今日は長くなりそうな感じがする。

「かんざしですが、これでいいですかね」

 私は話をそらした。頭には、斎藤さんからもらった赤いかんざしがさしてある。

「俺がやったかんざしは?」

「ああ、しまってあります。今日は斎藤さんと出掛けるので、斎藤さんからもらったものをさしたのですよ」

「お前、誰にでもそういうことをしていると、誤解されるぞ」

 何を誤解されるというのだろう?

「とにかく、出かけてきます」

「おい、待ちやがれっ!」

「ああ、お土産ですね。買えたら買ってきますよ」

「おう、頼んだぞ……じゃねぇっ! ちょっと待てっ!」

 やっぱり今日はお説教が長くなりそうだったので、逃げるように去ったのだった。


 屯所で斎藤さんを見つけ、改めて花見に誘うと、了解してくれた。

「ところで、京で桜の名所っていえば、どこですかね?」

 歩きながら斎藤さんに聞いてみた。

「誘っておいて、どこに行くか決めてないのか?」

「まさか、来てくれるとは思っていなかったので」

「女となら行くって言っただろう」

 だから女になってきたけど、来てくれる自信がなかったのだ。

「いい名所を知ってるぞ」

 そういうと、斎藤さんの歩みが速くなった。


 ついたところは仁和寺だった。

 前に源さんたちと来たことがあったなぁ。

「桜の名所と言えば、ここらしい」

 斎藤さんはそう言ったけど、残念ながら、桜は咲いていなかった。

「まだ蕾みたいですね」

 その蕾も、今すぐ咲きそうな感じの桃色の蕾になっていた。

「少し早かったようだな」

 斎藤さんは去ろうとした。

「ちょっと待ってくださいよ。せっかく来たのだから、見学していきましょうよ」

「桜は咲いてないぞ」

「でも、いいじゃないですか」

 斎藤さんは、仕方ない。そうつぶやきつつ、見学するのもいいなと言いそうな顔をしていた。


「仁和寺の桜は、御室おむろ桜と言って遅咲きの桜が有名らしいぞ」

「斎藤さん、詳しいですね」

「花街ではみんな言っている」

 花街とは、島原とか綺麗なお姉さんたちがお酒のお酌をしてくれるところだ。

「斎藤さんは、よく行っているのですか?」

「男なら、誰でも行くだろう」

 それはそうだけど。私とは無縁の世界だわ。

「お前だって、知り合いがいるだろう? 以前は惚れたの惚れられたのって騒いでいたじゃないか」

 あ、それは楓ちゃんのことか?

「あの件は、一応解決したので」

「面白い解決だったな」

 その言葉を土方さんに言ったら怒りそうなのですが……

「さ、帰るぞ」

 えっ、まだ来たばかりなのですが……

「桜が咲いているところを見たかったのだが、それが見れないなら、帰るしかないだろう。何もないところをうろついているなら、酒でも飲んだ方がましだ」

 そりゃそうだけど。

「なにもないって、色々建物があるじゃないですか。五重塔とか」

「そんなもの見ても、何のたしにもならん。帰るか、途中で酒を飲むかどちらか選べ」

「じゃあ、お酒でいいですよ」

 斎藤さんを力づけるために来たはずなんだけど、なんか目的を達成してないような。

 お酒でも飲んだら、少しは目的を達成できるのかな。

 そんな軽い気持ちで、近くの料亭に入ったのだった。


「お前は飲めないのだったな。何か適当に食べ物を頼め」

「あの、斎藤さん」

「なんだ?」

「私には、斎藤さんがお銚子から直接お酒を飲んでいるように見えるのですが」

 ふつうは、お銚子からとっくりという小さな入れ物にお酒を入れて飲むのだけど、どう見ても、目の前の斎藤さんはお銚子に直接口を入れて飲んでいるようにしか見えない。

「いちいち酌していたら、めんどくさいだろう」

 ま、言われてみれば、確かにめんどくさいのかもしれないけど。

 そんな調子で飲んでいるものだから、空のお銚子が何本も転がっている。

 これって、酔い倒れられて、私が背負って帰るとかいうパターンになるのではないか?

「斎藤さん、お酒を飲むのが早すぎますよ」

「俺はいつものとおりに飲んでいるが」

「酔いますよ」

「酔ってみたいものだな」

 そう言って、斎藤さんは不敵に笑った。

 酔ったことがないのか?そもそも、そのお銚子の中身は本当にお酒なのか?

 お銚子の中を見てみると、日本酒独特の匂いがした。

 本当にお酒だわ。でも、斎藤さんを見ると、水のように見えるのだけど。

「なんだ、お前も飲みたいのか?」

 私がお銚子の中を見ていたら、斎藤さんに言われてしまった。

「いえ、私は20歳まで飲まない誓いを立てているので」

 未成年で飲酒した日には、お師匠様から破門される。

「そんな誓い、破ってしまえ」

 斎藤さんは、お銚子を私の口に近づけた。

「それは無理です。お師匠様との約束なので」

「蒼良、知っているか?約束は、破るためにあるんだ」

 なんか、ちょっと前の私もそんなことを言っていたような気がする。

「いや、そんなことしたら、本当にしゃれにならない事態になるので」

「ここで酒を飲んでも、わかりはしない」

 いや、こういうことはどこかでばれるものだ。

「無理です。破門されてしまいます」

「破門か。それは困るな。わかった」

 斎藤さんは私に近づけていたお銚子を自分の口に付けた。

 本当に、帰り大丈夫なのか?山崎さんあたり、ここにもぐりこんでいないかな?そう思って見回してみたけど、今回はもぐっている気配がない。

 やっぱり、このパターンは、背負って屯所へってなるのか?


「さっきから、人の顔をじろじろ見ているが、どうした?」

 背負って屯所を覚悟していたけど、斎藤さんは何事もなかったかのように歩いている。

 お酒がそうとう入っていると思うのだけど、本人は全然変わりがない。

「お銚子の中は水だったとか、そういうことなかったのですか?」

「面白いことを言う奴だな。酒だったぞ。うまかった」

「なんで、あんなに飲んで平気なんですか?」

「俺は、どんなに飲んでも酔わんのだ。酔っている奴がうらやましい」

 要するに、お酒がとっても強いということなんだろう。

「ところで、今日のお前は綺麗だな」

 斎藤さんの手が、私のほっぺに触れた。

 やっぱり、酔っ払っているのか?

「斎藤さん、そんなことを言うなんて、飲みすぎですよ」

「お前は、女の自分にもっと自信を持て。こんなにいい女はいないぞ」

 やっぱり、酔ってないようなふりして、おもいっきり酔っているじゃないか。

「今日は、楽しかったぞ。ありがとう」

 斎藤さんが微笑んで言った。

 斎藤さんが、酔っているのか、酔っていないのか、わからなくなってきた。

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