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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久4年・元治元年2月
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有馬温泉恋物語?

 まだ有馬温泉にいる。

 現代のようにすぐ行けてすぐに帰れるような状態ではないので、数泊するのが普通らしい。

 それは別にかまわないのだけど、朝から温泉につかっていると、全身がふやけそうだ。

 別なことをすればいいのだけど、現代のように遊べる施設というものがない。

 他の人のように、朝から堂々とつかっていられる人はいい。私の場合、男装をしているのと、それを近藤さんにばれてはいけないので、温泉につかる時間も夜遅くと時間が決まっている。

 近藤さんの護衛できたのだけど、

「お前たちは、お前たちで楽しむといい。俺達も、俺たちで楽しむから」

 と近藤さんは言いながら、意味ありげに微笑んでくる。

 まだ誤解がとけないらしい。何回か否定をしているのだけど……。


蒼良そら?」

 やることも特になく、なんとなく街を歩いていたら、藤堂さんの声が聞こえた。

「今、呼びました?」

「うん、何回か呼んだけど、聞こえなかった?」

「すみません。考え事してました」

「蒼良らしくないね。何を考えていたの?」

「近藤さんがなんか誤解しているなぁとか、いつまでここにいるのかなぁとか、色々です」

「なんだ、そんなことを考えていたんだ」

「そんなことって、だって、誤解されたままだと、藤堂さんが困りませんか?」

「私が? 何に困るの?」

「恋文が来なくなるとか、好きな人がいたのに、誤解されてふられるとか」

 私が言うと、藤堂さんはクスクスと笑った。

「私は、土方さんのように恋文をもらったことはないから、そんな心配をすることないよ」

「えっ、ないのですか?」

 藤堂さんも、なかなかかっこいいと思うのだけど。

「そんな、驚かなくても」

「す、すみません。でも、藤堂さんもかっこいいから、恋文の一通や二通もらっていると思ってました」

 私が言うと、藤堂さんは照れていた。

「かっこいいって、蒼良は本当に思ってる?」

「思ってますよ」

「実は、相手から恋文を出されたことは何回かあったのだけど、断っているから」

 断っているのか?もったいない。でも、それが普通なのかな。

 自分あての恋文の処分に困って他人にあげる方がおかしいのだ。

「やっぱり、もらったことがあるのですね。でも、なんで断っているのですか? 受け取っても罪にはなりませんよ。他人にあげる方がよっぽど罪作りですけど」

「それって、土方さんのこと?」

 藤堂さんが笑いながら聞いて来た。

「そうですよ。一生懸命徹夜して書いた、女の子たちの気持ちを、何だと思っているんですかね」

 徹夜したかどうかまではわからないけど。

「私も、受け取りを断っているから、土方さんのことを言えないけど」

「でも、他人にあげるより、断った方が全然いいですよ。一番は、受け取ってあげることがいいのですけどね」

「蒼良は、なんで私が恋文を受け取らないか、理由を本当に知らないの?」

「えっ、理由があるのですか?」

 知らなかった。どんな理由だろう?

「本当に知らないの?」

「他の人はみんな知っているのですか?」

 私だけ知らないとか。

「いや、他の人も知らないと思うけど」

 なんだ。この時代、私だけが知らないことが多いから、びっくりした。

「その理由は何ですか?」

 私が聞いたら、藤堂さんの顔から優しく微笑んでいた表情が消えて、真面目な顔になった。

 なんか悪いことを聞いてしまったか?

「蒼良」

 真面目な顔をした藤堂さんに名前を呼ばれた。

「はい、何ですか?」

「その理由は……」

 理由は?

「好きな人がいるからだよ」

 好きな人がいるからか……って!

「ええっ!」

 私は驚いてしまった。藤堂さんに好きな人がいたのか。

「なんだ、もったいぶらないで、早く言ってくれればいいじゃないですか。あっ! 近藤さんの誤解をとかないと、藤堂さん男色疑惑をかけられてふられますよ。京に帰るまでに何とかしないといけないですね」

「あのさ、誰とか聞かないの?」

 あ、忘れてた。

「で、誰ですか?」

 誰か聞けって言ってきたということは、私の知っている人なんだろうな。

 誰だろう?あっ、もしかして……

「お雪さんとか? だめですよ、お雪さんは近藤さんに夢中ですから」

「いや、違うから。いくらなんでも、近藤さんの好きな女性を好きになるようなことはしないよ」

 それもそうか。じゃあ誰だ?もしかして……

「牡丹ちゃんとか? 牡丹ちゃんはいい子ですよ」

「いや、それも違うから」

 違う?じゃあ、誰だ?

「もしかして……」

「もしかして?」

「永倉さんとか?」

 仲がいいから。そうか、藤堂さんは男色だったのか。

「それは絶対にないから」

 それもそうだよな。

「蒼良、私にも話をさせてくれないかな」

「あ、すみません」

 ついつい藤堂さんの好きな人が誰か気になったもので。

「で、誰ですか?」

 藤堂さんは小さく咳払いをしてから、

「蒼良だよ」

と、意を決したように言った。

 そうか、蒼良か。

 って、私じゃないか。

「藤堂さん、冗談を言ってないで、教えてくださいよ」

「だから、蒼良だって言ってるじゃないか」

「そうですか。私も藤堂さんが好きですよ」

「それって、友達として? 男性として?」

「もちろん、友達としてですよ」

 胸を張って私が言うと、藤堂さんはなぜか落ち込んでいた。

「蒼良、私は蒼良のことを女性として好きだと告白したのだけど、わかってないかな?」

「そんなこと、わかって……」

 ええっ!これって……

「告白じゃないですかっ!」

「だから、告白したのだけどって言っているんだけど」

 ど、どうしよう?告白されたの、初めてなんですが。

 あ、急に顔が熱くなってきた。きっと顔が赤くなっている。

 どう返事をしたらいいんだ?どうすればいいんだ?いったい、どうすればいいんだっ!誰か教えてっ!

「困っとるな。そういう時は、とりあえずオッケーしておくのじゃ」

 そうか、とりあえずオッケーしておけばいいのだなって、なんか違うような……

「そうやって色仕掛けを使って、現代に連れて帰るのも手だな」

 ん?現代に連れて帰る?

 声のした方を見ると、なぜかお師匠様がいた。

「おっ、お師匠様っ! なんでここにいるのですか?」

「わしが温泉につかりに来たらいかんのか?」

 京にはいないと思っていたけど、どうやら江戸時代温泉巡りの旅に出ていたらしい。

 人が真面目に仕事してんのに、このク……お師匠様はっ!

「これ、蒼良。何か不満があるような顔をしているな」

 なんでばれてんだ?不満いっぱいなのに。

「そ、そんなことはないですよ」

 人が一生懸命新選組のことを考えて動いているのに、あんたはなんでのんきに江戸時代を満喫してんだっ!って言いたかったけど、口の中に押しとどめた。

「それより、平助はお前に惚れとるらしいな」

 それを本人を目の前にして言うか?

「それを利用して、現代に連れていけるだろう。そうすれば、平助は殺されなくてすむぞ。どうじゃ?」

 なんていい考え。ってなるわけないだろうっ!

「人の心をそのように利用するようなことはできないです」

「そうか? 一番簡単な方法だと思うが、残念だ」

「私が、殺されるのですか?」

 藤堂さんが、私たちの方を見ていった。

「藤堂さん、話を聞いていたのですか?」

「聞いていたも何も、私の目の前で話していたから」

 そうだ、藤堂さんが目の前にいた。

「そうか、それなら話が早い」

 お師匠様が、藤堂さんの方を見て言った。なんか、とっても嫌な予感がするのですが。

「わしらは、未来から来た」

 一生懸命それを隠していたんだけど、あっさり言うのかっ!

「今からそうじゃな、150年以上先の未来からじゃ。だから、これからお前がどうなるのかも知っとるし、新選組がどうなるかも知っとる。な、蒼良」

 そのタイミングで私に話を振るのはどうかと思うのですが。

 うなずいていいものか、否定すべきか考えている間にも、お師匠様は話し続ける。

「わしは、新選組が大好きじゃ。新選組にいる連中も大好きじゃ。だから、お前たちが死ぬのを黙って見ていたくないんじゃ。わしらと一緒に、わしらの世界へ来ないか? もちろん、お前の好きな蒼良も一緒じゃ」

 最後の一言でさとった。これが色仕掛け大作戦なのか?

「天野先生、面白いことを言いますね」

 藤堂さんはいつも通りの微笑みを浮かべて言った。

 絶対に信じてないな。いや、信じろっていう方が変だ。

「わしらと一緒に来んか?」

 お師匠様の頼みを、

「わかりました。そのうち行きますね」

 と、軽く藤堂さんは受け流したのだった。

 お師匠様は信じてもらえなかったらしい。ぷっ、おかしい。

「蒼良、何故笑ってるんだ?」

 あ、顔に出ていたか?


「まったく、平助めっ! 後悔しても知らんぞっ!」

 藤堂さんと別れて、お師匠様と二人でお師匠様が泊まっている宿に行った。

 私たちが泊まっている宿より、少し豪華だった。

「お師匠様、いきなり未来から来たとか話しても、誰も信じませんよ」

 私だって、最初お師匠様からタイムスリップするぞと聞かされた時は、とうとうボケたかと思ったから。

「やっぱり、色仕掛け作戦だ。頑張れ蒼良」

「それは絶対に嫌です」

 何が色仕掛け作戦だ。

 私が綺麗だったらそれができたかもしれないけど、男装しているのに、どうやって色仕掛けをするんだ。

「残念だな。ま、せいぜい頑張れ」

 なんか、すごい他人事のように聞こえるのは、気のせいでしょうか?

 お師匠様とそんなやり取りをしていると、一人の男性が入ってきた。

「失礼します」

「おお、来たか。頼むぞ」

 お師匠様は、うつぶせに寝転がった。

「お師匠様、どうかしたのですか?」

「せっかく温泉に来たんじゃ。日頃の疲れを取ろうと思って、針師を呼んだんじゃ」

 な、なんて贅沢な……

 それにしても、この針師、さっきから私の顔を避けるようにしているのは気のせいか?

 避けられると、気になって見てしまう。

 でも、私が見れば見るほど、向こうも避けてくる。

 なんで?

 その理由はわかった。

「あっ! 山崎さんじゃないですかっ!」

 その針師は、なんと、京にいるはずの山崎さんだった。

 私の声に山崎さんが驚いたのか、針を刺されているお師匠様が、

「痛てっ!」

 と言った。


「なんで山崎さんがここにいるのですか?」

 お師匠様の針治療が終わり、ひと段落してから私は話した。

「こんな形で見つかってしまうとは……副長にどう説明していいのか」

「土方さんに? あっ、土方さんに頼まれたのですね」

 私と藤堂さんの護衛じゃ不安だったのだろう。

「はい、副長に頼まれました」

 見つかったから、もう言い逃れしても無駄だと思ったのか、素直に山崎さんが言った。

「私じゃ近藤さんの護衛が務まらないと思って、山崎さんを送ったのでしょう。まったく、失礼しちゃう」

「いや、それは違う」

 山崎さんは否定した。違う?

「近藤さんじゃなくて、蒼良さんが心配だから、頼まれたのだ」

 私のことを心配して?

「蒼良さんが女性であることが近藤さんにばれたらどうしようと、ずうっと考えていた様子で、それで私に陰で見ていてやってほしいと言われた。危なくなったときは、助けてやってほしいとも言われた」

「私をですか?」

 私が聞いたら、山崎さんは無言でうなずいた。

「なるほど、土方も蒼良にぞっこんというわけじゃな」

 お師匠様、それはないと思うのですが。

「よし、色仕掛け作戦じゃ」

 それも絶対に嫌です。

「でも、蒼良さんに見つかってしまいました」

 山崎さんは申し訳なさそうに言った。

「土方さんには、内緒にしておきます。近藤さんたちにも。その代わり、何かあったら、お願いします」

 そうした方がいいのかもしれない。そう思った。

「わかりました。そうしてもらうと助かります」

 山崎さんも、了解してくれた。


「蒼良、何か忘れてない?」

 あれから宿に戻り、部屋に入って夜になってから藤堂さんに言われた。

「なにかって、何をですか?」

 何か、重要なことを忘れている?

「ああ、やっぱり忘れている。一応、私は蒼良に告白をしたのですが」

 ああっ!そうだった。

 それでどうしたらいいか悩んでいたら、お師匠様が登場して……ああっ!すっかり忘れていた。

「す、すみませんっ!」

 慌てて謝った。それに、返事もまだしていない。

「返事を聞いていいかな?」

 藤堂さんが、緊張している様子で聞いて来た。

「どう返事をしていいのか、わからないです」

 自分の思いを素直に言おう。そう思った。

「わからない?」

「はい。私、今まで恋愛のことを考えたことがないので。藤堂さんのことは、素敵な男性だと思っています。でも、恋愛感情は? と聞かれると、ないです。藤堂さんだけでなく、誰に対しても今はそういう感情が持てないのです」

「ということは、蒼良は、心に思う男性がいないということだね」

「そういうことです」

「わかったよ」

 藤堂さんは、なぜか嬉しそうだった。

「それなら、蒼良が私を好きになる可能性もあるということだね。絶対に、蒼良が私を好きになるようにして見せるから、覚悟しておいて」

 なんか、藤堂さん、気合入っているように見えるのですが……

 覚悟しておいてって、言われた方が照れてしまうのですが。

「蒼良、顔が赤いよ」

 藤堂さんに、両手で顔をはさまれてしまった。

 それでさらに顔の熱が上がったのだった。



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