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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久4年1月
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隊士になりたい

 家茂公を警護し、伏見に入った。

 それから伏見を警護することになった。

 伏見は、豊臣 秀吉がここに城を作ったのだけど、関ケ原の戦いで落城し、その後徳川 家康が再建をした。

 しかし、数年後には廃城となってしまう。

 ちなみに現代は、明治天皇のお墓になっている。

 数年後には、ここで鳥羽・伏見の戦いと言われる戦があるのだなぁと思いながら、伏見の街中を歩いていた。

 戦になると思えないぐらい平和だ。

蒼良そら、何物思いにふけっているんだ?」

 一緒に歩いていた原田さんに言われた。

「ここで戦があるなんて、信じられないなぁって」

 油断して未来の話をしてしまったのだけど、

「大昔の話だろう。関ケ原の戦いだろう? 豊臣家の方がここにあった城で戦ったらしいぞ」

 と、200年以上前の関ケ原の戦いのことだと思ってくれた。

「だから、出るらしいぞ」

 原田さんが、両手を顔の前にたらしながら言った。

「な、何がですか?」

「これだよ、これ」

 両手をぶらぶらさせているけど、幽霊ってことか?

「なんで、そんなものが出るのですか?」

「戦場になったところだろ? 無念で死んでいった武士の霊が出るらしいぞ」

「原田さんは、見たことあるのですか?」

「あるわけないだろう。ほかの隊士たちが噂していたぞ。夜の警護は嫌だなって」

「そんなもの、出るわけないじゃないですか」

「じゃあ蒼良、夜の警護を代ってやれ」

「絶対に嫌です」

 私がそういうと、原田さんは豪快に笑っていた。

 その時に、羽織の裾を引っ張られたので、後ろを振り向くと、誰もいなかった。

「蒼良、どうした?」

 原田さんも後ろを向きながら言った。

「羽織の裾を引っ張られたような感じがしたので、誰かいるのかなと思ったものですから」

「これだよ、これ」

 原田さんは、また幽霊の真似をしてきた。

「な、何言ってるんですか。今は昼間ですよ」

「昼間に出るやつもいるだろう」

 いるのか?

 また引っ張られたけど、振り向くと誰もいなかった。

「こりゃ、間違いないな」

 原田さんは妙に納得をしていた。

「おいっ!」

 今度は声がした。

「ひいっ!」

 突然子供の声がしたので、驚いて悲鳴を上げてしまった。

「なんだ、子供か」

 原田さんに言われ、目線を下に移してみると、汚い身なりをした子供がいた。

「何か用なの?」

 私が聞くと、子供は偉そうに胸を張った。

「俺を新選組に入れろっ!」

「はぁ?」

 原田さんと声を合わせていった。

「新選組に入れろって言ってんだよ」

「お前、何歳だ?」

 原田さんが、子供の目線までかがんで聞いた。

「8歳だ」

 8歳と言ったけど、数え年なので、現代で言うと7歳ぐらいか?

「子供は家でおとなしくしてろ」

 原田さんは、子供の頭をなでながら立ち上がった。

「蒼良、行くぞ」

「はい」

 私は、歩き出した原田さんのあとを追った。

 伏見での臨時の屯所に戻ると、土方さんがいた。

「おい、原田。お前の子か?」

 原田さんと顔を見合わせた後、後ろを振り返ると、さっきの子供がいた。

「俺の子なわけないだろう。土方さんも、冗談がきついな」

「なら、なんでここにいる?」

「おいっ!」

 子供が私たちの前に出てきた。

「俺を新選組に入れろ」

 土方さんにそういった。

「はあ?」

「聞こえないのか? 俺を新選組に入れろって言っているんだ」

「ずいぶんとえらそうなガキだな。お前、ちゃんとしつけしてやれっ!」

 土方さんがむっとした顔で私に言った。

「なんで、私がしつけしないといけないのですか。もしかして、隊士にするのですか?」

「ばかやろう。隊士にするには小さすぎるだろう」

「ということだ。新選組の副長がそういうんだから、お前が隊士になるのは無理だ。おとなしく帰れ」

 原田さんが、子供の着物の襟をつかんで軽々とつまみ上げた。

「嫌だっ! 話せっ!」

 子供は暴れていたけど、原田さんには全く影響がなかった。

 そのまま門のところまで運び、そこで子供をおろした。

「頼むから、新選組に入れてくれよ」

 子供はそうつぶやくとバタンと倒れてしまった。


「単なる栄養不足ですね」

 子供が倒れた後、慌てて中に運び入れた。

 布団に寝かして、医者の心得がある山崎さんに見てもらったら、そういわれた。

「栄養不足……」

 思わずつぶやいてしまった。

「何日も食べていないのでしょう。起きたら白湯あたりから食べさせてあげるといいでしょう。すぐ元気になりますよ」

「またなんで栄養不足なんだ?」

 原田さんも信じられないというような感じで言った。

「身なりもボロボロだし、どこかから逃げ出してきたんだろう」

 土方さんが子供を見ながら言った。

「逃げ出してきたって、どこから逃げ出してきたのですか?」

 土方さんに聞いたら、

「そんなこと、俺が知るわけねぇだろう」

 と言われてしまった

「こいつが起きたら、聞いてみるか」

 原田さんが言った。

 そうするしか方法がなさそうだ。


 子供はすぐに目を覚ました。

 私が白湯を出すと、フーフーとさましながらもすごい勢いで飲んだ。

「もっと食べ物をくれ」

 と言われたので、おかゆを持っていくと、すごい勢いで食べ始めた。

 何杯かおかわりをしたら落ち着いた。

「おっ、起きたか。せっかくだから、体も綺麗にしてやろう」

 原田さんが子供と一緒にお風呂に入った。

 お風呂から出て着物を着せると、あった時とは別人のような、かわいい顔をした男の子だった。

「お前、どこから来たんだ?」

 原田さんが聞いた。

「大坂。奉公先から逃げてきた」

「なんで逃げてきたの?」

「毎日同じことばかりでつまらないから。俺も武士になりたいんだ」

「なんか、誰かの小さい時と似ているな。俺も聞いた話だけどな」

 原田さんが噴出しながら言った。

「誰かって、誰ですか?」

「土方さんだよ」

 そうなんだ。私もおかしくなってしまった。ということは、この子供はミニ土方さんか?

「俺がどうかしたか?」

 さすが地獄耳だ。土方さんが現れた。

「いや、こいつ、奉公先から逃げてきたらしい」

 原田さんがおかしそうに話した。

「ほお。なんで逃げてきた?」

「つまらないからに決まってるだろ。俺がやりたいことは、こんなことじゃない」

「それで逃げ出してきたのか。で、なんで新選組に入りたいんだ?」

「武士になりたいから。俺も腰に2本差したい」

 腰に2本差すということは、刀を2本差すということ。それは武士になるということと同じことだ。

 土方さんの反応を見てみると、全然変わりなかった。

「お前みたいなガキは、新選組に必要ねぇ。家に帰れ」

 そういうと、土方さんは部屋から出てしまった。

「今回は、家に帰った方がいいかもね」

 私がそういったけど、男の子はギュッと口を結んでいた。

 こりゃ、無理やり追い出しても、また私たちを追ってくるな。

「お前、名前はなんていうんだ?」

 原田さんが男の子に聞いた。

「俊之助だ」

「俊之助か。いい名前だな。俺は左之助だ」

「私は、蒼良です」

「俊之助、とりあえずこんかいは家に帰れ。それで武術を磨いて、10年後にまた来い。その時に入れてやる」

 原田さんは説得したけど、俊之助君は横に首を振った。

「10年も待てないよ」

 待つとかという問題じゃなく、その時には新選組はなくなっているかもしれない。

「でも、今お前のやることは、新選組に入ることじゃなく、家に帰って武術を磨くことだ。わかるか?」

「嫌だっ!」

 俊之助君は部屋を飛び出して行ってしまった。


「へぇ、この子が例の子なんだ」

 俊之助君が部屋を飛び出して庭に出ると、沖田さんがいた。

「沖田さん、知っているのですか?」

「うん、土方さんが言ってた。子供の時の自分を見ているみたいだって」

 そんなにそっくりなのか?

「新選組に入りたいんだ」

 沖田さんが俊之助君に優しく聞いた。

「うん、入りたい」

「じゃぁ、僕と勝負して勝ったら入れてあげるよ」

「本当? ならすぐに勝負しろ」

 原田さんが沖田さんと俊之助君に竹刀を持ってきた。

「総司、手加減してやれよ」

「わかってるって」

 と言ったのにもかかわらず、沖田さんは本気で必殺技の3段突きを出してきた。

 って、相手は子供なんだから。

「僕の勝ちかな?」

 3段突きで遠くまで飛ばされた俊之助君が起き上がった。

「まだまだ」

 大丈夫か?沖田さんはまた3段突きを出してきた。 

 俊之助君はまた飛ばされる。でも、すぐ起き上がって沖田さんに向かっていく。

 しばらくそれの繰り返しだった。

「もういいだろう。俊之助、あきらめろ」

 原田さんが止めたけど、

「俺は、まだ出来る」

 と、俊之助君はあきらめていなかった。

「もうやめろ。これ以上やると、お前が死ぬぞ」

 原田さんは、俊之助君の着物の襟をもって持ち上げてそのまま去っていった。

「沖田さん、本気で相手しているように見えたのですが……」

「本気に決まってるじゃん」

 本気だったんかいっ!手加減しろって言われていただろう。

「あれじゃぁ、私も新選組に入れませんよ」

「でも、蒼良は入っているじゃん」

 ま、そうなんだけど。

 入隊試験が沖田さんと試合で勝ったならという条件だったら、新選組は間違いなく合格者が誰もいなくなるな。

「それに、剣で手加減したくないんだよね。僕だって、9歳の時から道場にいたけど、誰も手加減してくれなかったよ」

 沖田さんは、俊之助君を子供としてではなく、一人の剣士としてみていたのだ。

 そんな沖田さんがかっこよく見えてしまった。

「そういえば、蒼良と左之さん、昼間の警護途中で抜けたでしょう?」

 俊之助君の件があり、警護が途中だったかも。

「だから、夜間の警護をしてもらうって、土方さんが言ってたよ」

 げっ!


「夜の伏見は不気味だな」

 原田さんが隣でつぶやいた。

 不気味というか、真っ暗なんですが。

 というのも、伏見は京より田舎だ。

 現代と比べるとやっぱり暗いけど、それでも島原なんかは夜は明るい方だ。

 しかし、伏見は京よりにぎやかじゃないので、夜が真っ暗なのだ。

 星空が綺麗って、いう気分にもなれない。

 なんか不気味な空気が漂っているようで……。恐るべし、古戦場!

「やっぱり出るんですかね」

 幽霊とか、そういう存在は絶対に信じない、いや、信じたくないと思っている私も、弱音が出てしまった。

「出るわけないだろう」

 冷めた返事をしたのは、俊之助君だった。

 そう、彼はまだ隊士になることをあきらめていない。

 原田さんが昼間必死に説得したのだけど、ダメだった。

 それで、なぜか夜の警護も一緒にしている。

「おっ、俊之助、強いな」

 原田さんが、わしわしと乱暴に俊之助君の頭をなでた。

「強くないと、隊士になれないだろ。でも、なんで女が隊士になれて、男である俺が隊士になれないんだ?」

 女って?

「女なんかいないだろう。何言ってんだ」

 原田さんが言うと、俊之助君が私を指さした。

「蒼良が女だろう」

 ば、ばれてる?子供にばれている私って……

「何言ってんだよ。女に見えるがな、れっきとした男だよ。な、蒼良」

「そうだよ。よく間違わられたり、女装したりするけど、男です」

「なら、脱いでみろよ」

 はあ?何言ってんだ、このク……お子様はっ!

「男なら、脱げるだろ?」

「バカッ! 蒼良はやけどの痕があってみんなの前で脱ぐことはないんだよっ!」

 えっ、そうだったっけ?

「蒼良に謝れ」

 原田さんは俊之助君にげんこつを落としていた。

「痛てぇ」

 俊之助君は、自分の頭をさすっていた。

「蒼良に変なこと言ってると、俺がお前を隊士にさせないからな」

「それは困る」

「なら、謝れ」

「ごめんなさい」

 俊之助君は、私の方を向いて頭を下げた。

「わ、わかってくれたらいいよ」

 私は、頭を下げた俊之助君の頭をなでた。

「でも、お前は何でそんなに隊士になりたいんだ? 新選組に入ったからって、武士らしい仕事ができるわけではないんだぞ」

 そうなのか?

「俺なんかな、巡察中に年寄り夫婦に呼び止められて、天井に誰かいるみたいで音がするから見てくれって言われて、もしかしたら、長州の人間が隠れているかもと思ってみてみたら、ネズミが数匹いてな。それからネズミ退治したんだぞ。まるで便利屋だ」

 土方さんも、便利屋だって言っていたなぁ。

「それでも、新選組に入れば、武士なんだろ?」

「俺も、武士なんだかわからなくなってきた」

「は、原田さん、変なこと言わないで下さいよ。こうやって家茂公の警護をすることができるのですから、武士なのですよ」

「蒼良の言う通りだ。だから、俺は新選組に入りたいんだ」

「お前が思っているような、甘い世界じゃないぞ。かっこいい世界でもない。それでもなりたいのか?」

「うん、なりたい」

「お前がもうちょっと年取ってればなぁ。俺が推薦してやったんだけどなぁ。10年とは言わない。せめて7年ぐらい待てないのか?」

 7年後なら、かろうじて新選組があるかもしれない。

「嫌だね」

「お前、生意気だな」

 つんっと原田さんが指で俊之助君の頭を突っついた。

 そんなことをやっていると、酔っ払いの声がした。

「攘夷、攘夷って、将軍様はいつ攘夷するんだ? ああ?」

 この酔っ払いは、たちが悪そうだ。

「本当だよな。ここに将軍様がいるらしいから、直接聞いてみたいものだ」

 酔っ払いは二人だけらしい。二つの影がこちらに近づいてくる。

 私と原田さんは顔を合わせてうなずき合った。

 原田さんも、この酔っ払いがたちの悪いものだとわかったらしい。

「おい、お前ら。ここに将軍様を呼んで来い」

 私たちの目の前に酔っ払いたちが来た。

 そんなこと、できるわけないだろうがっ!

「それは無理だな」

 原田さんは、冷静に答えた。

「無理だと?」

「無理だ。優しく言っているうちに立ち去らないと、後で後悔するぞ」

 原田さんが槍を握りなおした。

「後悔だと? どっちが後悔することになるかな」

 酔っ払いが、原田さんに顔を近づけていった。

「今なら注意で済みますが、それ以上やるのであれば、それなりの罪状が付きますよ」

 私も注意したけど、

「女が何を言うっ!」

 酔っ払いにもばれている私って……。

「女に見えるが、男だ。俺も今確かめたんだ、間違いない」

 俊之助君がそう言ってくれた。なんか、子供に慰められてるよ、私。

「へぇ、将軍様の警護にはガキもいるのか」

 二人の酔っ払いは、乱暴にいかにも悪意があるかのように俊之助君の頭を振るようになでた。

「うるさいっ! ガキじゃない」

 俊之助君も、一生懸命反論している。

「生意気なガキだな」

「おい、お前ら。それ以上やると、許さないぞ」

 原田さんも怒っているみたいで、冷たい声を出した。

「おっ、言ったな。でも、これじゃあ手が出せないだろう?」

 なんと、酔っ払いは俊之助君を抱き上げ、俊之助君の顔に刀の刃を近づけた。

「将軍様を連れて来い。連れてこないと、こいつの命はないぞ」

 人質を取るなんて、なんて卑怯なっ!

「蒼良、俺が合図したら、石か何か蹴っ飛ばせ」

 相手にすきを作らせるつもりらしい。

「わかりました」

「何をグタグタ言ってんだ? さっさと連れて来いっ!」

 原田さんと目が合った。

 私は目の前にある石を思いっきり蹴とばした。

 相手が自分の横に飛んできた石に気を取られたすきに、原田さんが素早く槍を動かして、相手の足に槍を当てて転ばせた。

 転んだ時に俊之助君が投げ出されたので、それを私が抱き取った。

「形勢逆転だな」

 原田さんが、もう一人の相手に槍を向けた。

「おとなしく帰れば、これ以上のことはしない。でも、まだ将軍様を出せとかぬかすなら、容赦しないが、どうする?」

 原田さんが言うと、二人の酔っ払いは悲鳴を上げて逃げていった。

「俊之助君大丈夫?」

 私が聞くと、俊之助君は何も答えずにふるえていた。

「ガキには刺激が強すぎたか?」


 夜が明けた。

 結局、夜が明けても俊之助君はいた。

 でも、前日のような元気はなかった。

 あんなことがあった後だから、しかたない。

 この日は、家茂公が京に入る日だった。私たちも、家茂公が京に入ったら屯所に戻る。

「俊之助君はどうするの? このままついてきても、隊士にはなれないと思うよ」

「俺、色々考えたんだけどさ……」

 俊之助君が、神妙な顔でそう言った。

「どうしたの?」

「蒼良と左之助は、酔っ払い二人相手にすごいよなって思ったよ。俺なんてまだまだだ」

 そんなにすごかったか?あれは、たいしたことがない方の分類に入るけど。

「だから、左之助が言うように、武術を磨いてさ、強くなったらまた来るよ。とりあえず、家に帰ることにした」

「家って、どこにあるの?」

「京だ」

「お前、京に家があるのか? なら、暇なときに屯所に来いよ。俺でよければ相手になってやるぞ」

 原田さんがそういうと、俊之助君は嬉しそうな顔をした。

「ありがとう。遠慮なくいくからな」

「その前に、生意気な態度を何とかしろよ」

 原田さんの言う通りだ。


 結局、京まで俊之助君と一緒だった。

 家茂公の警護を終えてから別れた。

「あいつ、京に住んでいたなんて、全然知らなかったな」

 原田さんが、小さくなっていく俊之助君を見ながら言った。

「京なまりがないから、全然わからなかったですね」

「そうだ、あいつ、なまりがなかった。なんでだ? 京に住んでいるくせに」

「もしかしたら……」

 土方さんが、考えながら言った。

「奉公先から逃げてきたということは、家は貧しい方なんだろう。でも、なまりがなかったということは、武家の出身かもしれねぇぞ」

「それがどうかしたのですか?」

 私はわけがわからなくてそう聞き返したけど、原田さんはわかったみたいで、あっ!という顔をした。

「平助みたいなやつか?」

 藤堂さん?

「そうだ。どこかの武家の隠し子かもしれねぇぞ」

 ご、ご落胤ってやつか?それなら、あの生意気な態度も妙に納得できる。

「誰のご落胤ですか?」

「俺はそこまで知らねぇよ」

 もしかして……

「土方さんの?」

「ばかやろう」

「蒼良、土方さんの隠し子なら、ご落胤にならないぞ」

 原田さんの言う通りだ。

「左之の隠し子でも、ご落胤にならないだろうが」

 なぜか不機嫌な声で土方さんがそういった。

「じゃあ、藤堂さんの隠し子なら、やっぱりご落胤なのですか?」

 二人とも黙り込んでしまった。

 ご落胤のご落胤は、ご落胤にならないのか?

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