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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年12月
82/506

野口さん切腹

 先日の雪はすっかり溶けてしまった。

 いつも通り、年末の京の町だった。

「こう寒いと、飲みたくなるなぁ」

 一緒に巡察している永倉さんが手で何かを飲むしぐさをしながら言った。

「何を飲みたくなるのですか?」

蒼良そらはわからんか? でもわかるだろう。あれだよ、あれ」

 それがわからないから聞いてんだろうがっ!

「わかった! 温かいものですね」

 寒いと温かいものが飲みたくなるものだ。

「そう、温かいものだ」

 お茶じゃあなさそうだし……

「わかりましたっ!」

「おお、わかったか?」

「甘酒ですね」

 永倉さん、ずるっとずっこけた。

「はずれですか? 甘酒、温かくて甘くておいしいじゃないですか」

「酒はあってる」

「じゃぁ、半分正解ですね」

「半分正解もなにも、一文字しかあってないが」

 そうともいう。でも、2文字のうちの1文字当てれば、半分じゃないか。

「俺が飲みたいのは、酒だ、酒。熱燗でぐいっと飲めば、体もあたたまってうまいだろう。後は、うまいつまみだな」

「隣に綺麗なお姉さんがいれば、もっといいですね」

「さすがの蒼良もわかってくれるか。よし、巡察が終わったら島原に行くぞ。つきあえ」

 お酒も飲めないし、同性になるので、綺麗なお姉さんにも特に興味のない私。

「今日は、遠慮します」

 丁重にお断りした。

「蒼良、付き合いが悪いなぁ。いくら恋人がいるといっても、やっぱり、男は女を好きになるのが一番いいことだと思うぞ。そりゃ、お前の恋も応援しているが」

 お前の恋も応援しているって……

「私が、いつ恋をしたのですか?」

 全然身に覚えがないのだけど。

「土方さんとできてんだろ? お前は隠しているつもりだろうけど、ばればれだぞ」

 えっ、そうなのか?って言うか、隠しているつもりもないし、恋しているつもりも全然ないけど……

「それは、永倉さんの誤解ですよ」

「照れるな。俺はお前の味方だ」

 いや、味方にならなくてもいいから。

「お前の恋は全力で応援しているぞ。でも、たまには女にも目を向けてもいいと思うぞ」

 いや、応援してもらわなくてもいいから。

「だから、今日は付き合え」

 私に拒否権はないのかっ!


 島原に行くと、ものすごい羽振りのいい人がいた。

 どこかの豪商だろうと思っていたら、私たちと同じ新選組の隊士だった。

「野口、来てたのか?」

 永倉さんが声をかけた。

 野口さんは、

「こっちに来て、一緒に飲みましょう」

 と言って誘ってくれたので、一緒に飲むことになった。

 野口さんとは、名前を野口 健司といい、私たちと一緒に江戸から京に来た人だ。

 最初は芹沢さんたちと一緒にいたことが多く、芹沢派と言われていたけど、私たちのほうが年が近かったせいもあり、近藤派と呼ばれる私たちと一緒にいることが多かった。

 特に永倉さんとは、同じ道場にいた時もあり、仲が良かった。

 芹沢さん達を粛清した時も、彼だけは芹沢さんと一緒に屯所に来ないで、角屋で他の隊士の人たちと飲んでいたため、命が助かった。

 その後も、何事もなかったかのように、隊務をこなしていた。

 表向きには、芹沢さんたちは長州の間者に殺されたことになっているので、それを信じているのだろう。

 ちなみに永倉さんも、

「本当に長州の間者がやったのか?」

 と疑いつつも、信じている。

「野口さん、ずいぶんと派手に遊んでいるように見えるのですが……」

「蒼良か。驚いたか?」

「はい。どこかの豪商が遊びに来ているのかと思いました」

「そうか、そうか」

 豪商と言われて気分が良かったのか、野口さんは上機嫌だった。

「今夜は、俺がおごるから、遠慮しないで飲め」

 野口さんがお酒を注いでくれたけど、

「すみません。私は飲めないのです」

「そうだ。蒼良は、願掛けか何かをしているのか、20歳になるまで酒は飲まないそうだ。代わりに俺が飲むから」

 永倉さんが、野口さんが注いでくれたお酒を飲んでくれた。

 ちなみに、願掛けなどしていない。

 ただ、未成年で飲酒すると、お師匠様から破門を言い渡されるのが怖いから飲まないだけ。

 でも、願掛けのほうが響きがいいかな。

 それにしても、二人ともお酒がとても速く進み、間もなく、二人の酔っ払いが出来上がったのだった。

「やいっ! 酒がないぞ」

 レロレロと野口さんが同席していた芸妓さんにからんでいた。

 芸妓さん、すごいいやな顔をしている。

「おい、そんな顔をするとは、客である俺たちに失礼だろう」

 永倉さんまでレロレロとからんでいる。

「二人とも飲みすぎです。帰りますよ」

 私がそういうと、

「まだ少ししか飲んでないだろう」

 と、声をそろえて反論してきた。

「もう誰が見ても立派な酔っ払いですよ。帰りますよ」

 私が立ち上がると、二人とも仕方ないなという感じで立ち上がった。

 しかし、酔っ払っているので足元はフラフラしている。

 大の男2人もかつげるほど、私も力がない。

 これで無事に屯所につくのか?誰か呼んだ方がいいのかな?ああっ!こんな時に無性に携帯電話が恋しくなる。

 そんなことを考えている暇もなく、酔っ払い二人は大事件を引き起こした。

 なんと、酔っ払って足元がふらついたまま転んだのだった。しかも、ただ転んだのではない。隣の座敷に襖ごと倒れこんだのだ。おとなしく転んでおけばよいものを。こんな大ごとになるような転び方をして……

「あれ、蒼良じゃないか」

 被害にあった隣の座敷から、私を呼ぶ声がした。

「その声は、原田さん」

「新八さんと野口さんもいるけど、どうしたんだい?」

「あ、藤堂さんも」

 地獄に仏って、このことを言うのか?


「こいつら、どんだけ飲んだんだ?」

 原田さんが野口さんを支えて歩いていた。

「お酒の進みがかなり速かったので、相当飲んでいるかと思います」

「蒼良、この二人を一人で抱えて帰るつもりだったの?」

 藤堂さんが永倉さんを支えて歩いていた。かなり重そうだ。

「どうしようか考えていたら、お二人がいたので。助かりました」

「俺は、酔ってないぞぉ! うおおっ!」

 突然永倉さんが吠え出した。

「うるせぇ、黙れっ! 近所迷惑だ」

 原田さんが、永倉さんに拳骨を落とした。

「原田さん、乱暴はよくないと思うのですが……」

「大丈夫だ。明日になれば、何も覚えてないだろう。今なら何しても大丈夫だぞ」

 そうなのか?

「私たちに、こんな重い思いをさせたのだから、何か仕返ししないと」

 藤堂さんも、その仕返しをたくらんでいるのか、楽しそうな顔になっていた。

「ところで野口だが、最近こいつは遊びがすごい派手になっているが、どこから金が出ているんだ?」

 原田さんが、倒れそうになった野口さんを再び支えなおした。

「そういえば、今日もえらい羽振りが良くて。あっ! 野口さんのおごりだったのに、野口さん、お金払ってないですよね」

「いや、払ってきた。野口のふところを探ったら、結構な額を持っていたから、そこから払った。足りない分は、新八のところから出したから、大丈夫だ」

 原田さん、いつの間にそんなことまで……って言うか、勝手にふところ探って出して、大丈夫なのか?

「私たちの分もそこから出してもらったし、今日は新八さんと野口さんのおごりですね」

 いや、藤堂さん、それはおごりと言わないのでは……

「今日は飲むぞ!と思っていたら、こんなの二人連れて帰ることになったんだ。それぐらい当然だろう。もっともらいたいぐらいだ」

 原田さんの言い分はもっともだ。

 どうせ明日の朝には全部忘れているのだろうから、すっとぼけてれば大丈夫だろう。

「でも野口の奴、なんであんな大金を持っていたんだ?」

 原田さんは首をかしげていた。

 確かに。なんで派手に遊べるぐらいのお金を持っていたのだろう。


「ううっ、頭いてぇ~」

 永倉さんが頭を抱えていた。

「見事な二日酔いですよ」

「頭にこぶができているんだが、俺は昨日何してたんだ? 蒼良と店に入って野口と会って飲んだところまでは覚えているのだが」

「原田さんと藤堂さんにあって、お二人が屯所まで運んでくれたのですよ。後でお礼を言っておいてくださいね」

 原田さんが拳骨落としたことなどの話は伏せておいた。

 本当に、昨日の記憶がないんだ。

「お前にも、悪いことをしたな。店の勘定はどうしたんだ?」

「えっ?」

 一番触れてほしくない部分に触れてきたような……

「えっ?じゃないだろう。お前が払ったんだろう?」

 そういいながら、永倉さんはふところからお金が入っている巾着袋を出してきた。

「い、いや、原田さんが払ってくれたので、大丈夫ですよ」

「左之が? じゃあ、返さないとな」

 巾着袋を出したまま、原田さんのところへ行ったらしく、数分後、原田さんのいる奥の部屋から

「なんだとっ!」

 という永倉さんの声が聞こえた。

 昨日の店の勘定がどこから出たか判明したらしい。


「ああ、くそっ! 左之の奴。俺の金を無断で使いやがって」

 今日も、永倉さんと一緒に巡察だった。

「飲みすぎですよ。そういえば、野口さんは大丈夫だったのかな」

「そういえば、今日はまだ見てないな」

 永倉さんと一緒に飲んでいたから、やっぱり二日酔いで寝ているのだろうか?

「あ、野口だ」

 永倉さんが指さした方を見ると、野口さんがきょろきょろと周りを見回しながらお店に入っていった。

「なんか、元気そうですね」

 二日酔いと無縁そうだ。

「でも、この店に何の用なんだ?」

 結構大きなお店だった。

「野口さんだって、買い物ぐらいするでしょう」

「でも、昨日の飲み代を払ったのだろう? そんなに金を持っているとは思えないが。ちょっと様子を見てみよう」

 永倉さんは、野口さんが入って行ったお店の中に入った。

「あ、ちょっと待ってくださいよ」

 私も一緒に中に入った。


 店の中に入ると、野口さんは番頭さんを脅していた。

「金を出せっ!」

 こ、これは、押し借りじゃないのか?

「野口、何してんだ。勝手に金策をすると、禁則に触れるぞ」

 勝手に金策すること許すべからず。そう決められている。破るともれなく切腹が待っている。

「とにかく、店を出ましょう」

 私と永倉さんでお店の人に謝り、口止めもしておいた。

 それから野口さんを二人で引っ張って外に出した。

「何するんだっ! 金を借りて何が悪い」

 野口さんは、私たちを振り払った。

「禁則で決められているだろう。破ると切腹だぞ」

「それがどうした?」

 永倉さんが言っていたことが聞こえないのか?

「野口さん、切腹ですよ。わかりますか?」

「そんなことわかってる」

「じゃあなんで押し借りなんてしてんだよ」

「昨日、派手に遊んだからな。金がなくなった」

「だからって、簡単に決まりを破るようなことをしなくてもいいじゃないですか」

「もしかして野口。押し借りは、これが最初じゃないだろう」

 永倉さんが言った。えっ、これが最初じゃないということは……

「今までに何回か押し借りをしたことがあるということですか?」

「文句あるか?」

 野口さんは、開き直ってきた。

「最近、遊びが派手だと思っていたが、押し借りした金で遊んでいたのか? どうなんだ? 野口」

「ああ、そうだよ。俺だって、いつ芹沢さんみたいに殺されるかわからないからな。今のうちに遊んどかないと損するだろう」

 芹沢さんみたいに殺されるって、野口さんはどこまで知っているのだろう?

「野口、芹沢さんたちは、長州の間者に殺されたんだ」

 永倉さんが言い聞かせるように言った。

「永倉さんは、本当にそれを信じているのか?」

 野口さんは、それを信じていないようだった。

「おい、蒼良。お前は知ってんだろ? そうなんだ? 本当に殺したのは長州の間者だったのか? 土方達じゃなかったのか?」

 ぜ、全部知ってんじゃないのか?私は、首を横に振るだけで精いっぱいだった。

「うそつけっ! 芹沢さんは、仲間に殺されたんだろ? わかってるんだ」

「野口っ!」

 野口さんの言葉を遮るように、永倉さんが野口さんの名前を呼んだ。

「自分が仕える人間が、四角いものを見て丸いと言ったら、四角いものでも丸になる。それが武士ってやつだろう」

 そうなのか?

「自分が師と仰いでいる近藤さんが、芹沢さんが長州の間者に殺されたと言ったら、芹沢さんは長州の間者に殺されたことになるんだ。わかったか?」

 要するに、永倉さんも芹沢さんは長州の間者に襲われたのではないってことを知っているけど、近藤さんがそういうのなら、そういうことにしておこうということなのだろう。

 それもどうなんだろう?

「俺には分からない」

 野口さんはそうつぶやいた。

 そりゃそうだろう。私もよくわからない。

「おい、蒼良」

 野口さんは、急に私の方を見た。

「お前だって、殺されたのが芹沢さんだったから、今でも普通にしていられる。でも、土方だったら、俺みたいになっていただろう? どうなんだ?」

 いきなりすごい話を振ってきたなぁ。

 もし、殺されたのが土方さんだったら?そんなこと、考えられない。

 だって、彼はここでは死なない。

 でも、もし、ここで死ぬようなことになったら?いや、ありえない。

 その前に……

「……させない」

 私はつぶやいていた。

「なんだ?」

 野口さんが聞き返してきた。

「死なせませんっ! 私だったら、こんなところで土方さんを死なせない。絶対に死なせません」

「なんだと」

「野口さんだって、芹沢さんを助けることができたのではないのですか? 死なせないようにすることができたのではないのですか? それをしないで、後になってからそうやって騒いだって、芹沢さんは帰ってこないですよ」

「お前、生意気なっ!」

 野口さんが拳を上げたので、殴られると思い、目を閉じた。

 しかし、殴られることはなかった。

 目を開けると、永倉さんが野口さんの拳を握って止めていた。

「野口、今回はお前の負けだ。押し借りのことは黙っておくから、二度とこんなことはするな。わかったな」

 永倉さんが、強い口調で言うと、野口さんは、ふんっ!とつぶやいて行ってしまった。

「永倉さん、ありがとうございます」

「それにしても、蒼良の愛がこんなに真剣だったとは、思わなかった」

 えっ、愛?私、そんなこと言ったか?

「土方さんを死なせないっ!っていうあたり、さすがだな。お前らはちゃんと愛を育んでいたのだな」

 ちょっと待って。誤解してないか?

 私が反論しようとすると、

「そう照れるな。お前の言いたいことはわかっているって」

 いや、わかってないだろう。

「今回は見せつけられたな。いや、参った」

 いや、勝手に参られても困るんだけど。

「わかっているから、何も言うな。こっちまで照れくさくなるだろう」

 私に反論する権利はないのかっ!


 とにかく、今回の野口さんのことは、胸の内にしまっておこう。

 永倉さんとそういう約束をした。

 しかし……

「野口が、商家で押し借りをしたそうだな」

 夜、布団を敷いていると、突然土方さんに言われた。

 なっ、なんで知ってんだ?

「新八と見なかったことにしようってことにしたんだろうが、こっちはちゃんとわかってんだ。」

「なんで知っているのですか?」

 盗聴か何かしていたのか?いや、ここは江戸時代。盗聴機なんて便利なものはない。

「優秀な監察方がいるからな」

 その一言でわかった。

 山崎さんが見ていたんだ。

「最近、野口の行動がどうも怪しいから、山崎に頼んで調べてさせた」

 ということは……

「昨日も島原に山崎さんはいたのですか?」

「ああ。新八と野口が派手に飲んだそうじゃないか」

「なんで声をかけてくれなかったのですかっ!」

「なんで内密に調べさせているのに、声かけねぇといけねぇんだ?」

「危うく、酔っ払い二人を抱えて帰らなければならないところだったんですよ。たまたま原田さんたちがいたからよかったのですが。山崎さんだって、手伝ってくれたっていいじゃないですか」

「そりゃ、一緒に飲みに言った相手が悪かっただけだろう」

 そういわれると、そうなんだけど……

「それに、山崎は内密の仕事が多いからな。そう簡単にお前の手は貸せねぇよ」

 ううっ、なんか冷たい……

「野口かぁ……どうしたもんだかなぁ」

 土方さんは、遠い目をして考え始めた。


 その後も、野口さんの遊びは派手だった。

 あれほど永倉さんが言ったのにもかかわらず、押し借りをしてお金を借りて派手に遊んでいるのだろう。

 もう誰も止める人がいなかった。誰がとめても、彼は止まらないだろう。

 そして、とうとうその日がやってきてしまった。

「近江国蒲生郡中羽田村で新選組を名乗った水戸藩士が騒動を起こしたそうだ」

 土方さんがそういった。

「あの……」

「近江国がどこだ? という質問は受け付けんぞ」

 なんでわかったんだ?

 ちなみに、近江国とは、今でいう滋賀県辺りのことだそうだ。

「その騒動に、野口かからんでいる疑いがある」

 そうなのか?

「野口は水戸藩出身だから、からんでいるに決まっているだろう?」

「えっ、水戸藩出身というだけで疑っているのですか?」

「悪いか?」

「いや、悪くはないですが、それだけで疑うのもどうかと思うのですが……」

「俺が野口がからんでいるといったら、からんでいるんだ」

 そんな言い分が通るのか?

「わからんか? あいつはほっとけば、近藤さんや俺に刃向ってくるだろう」

 確かに。この前も不満だらけな感じだった。

「刃向う前に殺る」

 そういうことか。いつかはそういうことになるのではないかと思っていた。

「わかりました」

 私は一言そう言った。


 その日はお餅をついていた。

「あんさんらも、餅食うやろ? なら、餅つき手伝どおてや」

 八木さんにそう言われ、年末恒例のお餅つきをやっていた。

 現代なら、餅つき機という便利な機械があり、ボタン一つでお餅ができるが、江戸時代はそんなものはない。

 臼と杵という、よくテレビのニュースとかで見るもので餅をつく。

 本物を初めて見た。まじまじと見ていると、

「もしかして、蒼良は餅つきしたことないとか?」

 原田さんに言われてしまった。

「餅つきぐらい、したことありますよ」

 ボタン一つでだけど……

「餅つきか。俺、得意だから手伝うぞ」

 安藤さんという人が突然出てきてお餅をつき始めた。

 得意というだけあって手つきはすごく良かった。

「おい安藤、お前手を洗ったのか?」

 中から出てきた他の隊士の人に、安藤さんが言われた。

 えっ、手を洗ってないのか?

「まさか、切腹の介錯をして、手も洗わないで手伝っているんじゃないだろうな?」

 そ、それは非常に困るんだけど……

「誰の切腹や?」

 八木さんが聞いてきた。

「野口さんですよ」

 餅をつきながら安藤さんが言った。

「どうせ、ささいなことで詰め腹を切らされたんやろう」

 八木さんが呆れたように言った。

 野口さん、切腹させられたんだ。いつかはさせられるとは思っていたけど、意外と早かったな。

「で、手は洗ったんか?」

 八木さん、私も今それが一番知りたいですっ!

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