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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年12月
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雪やこんこ

 巡察をしていると、白いものがチラチラと降ってきた。

「わぁ、雪ですね」

 雪だ!とはしゃいでいると、一緒に巡察していた斎藤さんに

「子供だな」

 と言われてしまった。

「斎藤さんと私は、2歳ぐらいしか違わないのですよ」

「性格が子供だといったのだ。外見が子供だとは言っていない」

 ようは、頭の中がお子様だと言いたいのだろう。

「雪ですよ。雪! めったに見れないじゃないですか」

「寒いと思ったら、降ってきたか。積もらなければいいが」

「積もった方が面白いじゃないですか」

「積もった雪を踏んで巡察なんて、面倒だ」

 楽しいと思うのだけど、私だけなのかな。


 夜になり、少しだけ雨戸をあけて外を見た。

 少し積もっているぞ。やったね。

「また見てんのか? 寒いから雨戸を閉めろ」

 土方さんに言われてしまった。

「さっきから雨戸を開けては外を見ているが、何見てんだ?」

「雪ですよ、雪。どれぐらい積もっているのかなぁと思って」

「まだ降ってんのか? 明日は積もるな」

「積もりますか? 楽しみですね」

「楽しみなわけねぇだろう。雪を踏みしめて巡察なんて、厄介だぞ」

 昼間、同じようなことを斎藤さんが言っていたような?

 昔、雪を嫌がるようになると

「おじさんですね」

 と言われたような気がする。年を取ると雪がいやになるらしい。

「誰がおじさんだ?」

「土方さん」

「お前は、何を根拠にそんなことを言うんだ?」

「雪を嫌がるようになると、おじさんになった証拠だそうですよ。年は取りたくないですね」

「うるさいっ! お前もいつかはおじさんになるんだろうがっ!」

 いや、私はおばさんだ。

「そもそも、俳句を作る人が、季語である雪を嫌うというのはどうかと思うのですが。風流に雪を楽しまないといけませんよ」

「お前が言うと、風流に聞こえないが。お前のことだから、風流に雪で遊ぶのだろう」

 風流かどうかわからないが、ばれたか。

 雪で遊べるのがとても楽しみだ。明日は幸い非番だ。


 朝一番に起きて、雨戸を開けると、銀世界が広がっていた。

「わぁ、積もってる。土方さん、積もってますよ」

「うるさいっ! 寒いから、障子を閉めろっ!」

 ああ、年寄になると、いやだなぁと思いながら障子を閉めた。

 外に出ると、くるぶしあたりまで積もっていた。

 いつも通り草鞋わらじを履いて外に出ようとしたら、

「雪の日は、雪駄せったがいいよ」

 藤堂さんが出てきて言われた。

「せった?」

「これだよ」

 出されたものは、草鞋の裏に革が貼ってあった。

「これなら、下から雪がしみ込んでこないし、濡れないよ」

 藤堂さんも雪駄を履き始めた。

「藤堂さんは、どこかに出かけるのですか?」

「出かけないよ。雪が積もっているから、見に行こうと思ったんだ」

「もしかして、藤堂さんも、雪が積もったら嬉しいですか?」

「新八さんとかに、子供だとかからかわれたけど、雪が積もると、普段と景色が違うし、なんか楽しいんだよね」

 ここに仲間がいた。

「私も、雪が楽しみで外に出ようとしていたのですよ」

「なんだ蒼良そらも雪が好きなんだ。じゃあ、一緒に出ようか」

 私たちは、銀世界に飛び出した。


 さて、何をしようか?せっかく雪が積もったんだし、雪だるまでも作ろうか。

 私は小さい雪玉を作り、それを転がし始めた。

 雪はみるみる大きくなった。

「蒼良は、何を作っているの?」

 雪玉を転がしている私を見て、藤堂さんが聞いてきた。

「雪だるまを作っているのですよ」

「雪だるま?ずいぶん難しそうなものを作っているのだね」

 難しいのか?雪玉を二つ作って重ねるだけでいいと思うのだけど。

「簡単ですよ」

「すぐできるの?」

「藤堂さんも、私と同じように雪玉を大きくしてもらえれば、すぐできます」

 それから二人で無言で雪玉を作った。

 大きな雪玉が二つできた。

「藤堂さんの雪玉のほうが大きいですね。そっちを下にして、私の雪玉をその上に乗せるので、手伝ってください」

 一人で雪玉を持ち上げるのは、大きくて無理だった。

「ここに乗せればいいんだね」

「はい、お願いします」

 一緒に持ち上げて乗せたら、結構大きい雪だるまが、しかも、屯所の門の入り口に出来上がった。

「これが雪だるま? 私が思っていたのと違う」

 えっ、江戸時代の雪だるまは、現代の雪だるまと違うのか?

「藤堂さんが思っている雪だるまは、どんなものですか?」

「こんな感じかな」

 雪の上に絵を描いてくれた。

 よく見かける赤いダルマを雪で作ったらこんな感じという絵だった。

「本当に雪だるまですね」

「でも、蒼良の雪だるまも、簡単で面白いね」

「これに手と顔を作れば完成です」

 長い棒を付けて、目と鼻と口を石と葉で作った。

「本当は、頭にバケツをかぶっているのです」

「ばけつ?」

 この時代にはなかったのか?

「桶ですよ、桶」

「へぇ、面白そうだね」

「もう一つ作りますか?」

「うん、作ろう」

 さっきと同じように、無言でまた雪だるまを作っていたら、沖田さんがやってきた。

「なんだか、面白そうなことやっているね。僕も入れて」

 沖田さんも、私たちと同じように雪玉をコロコロと転がし始めた。

 そして出来上がったのは、三つの雪玉がある雪だるまだった。

 両脇に棒をさして顔を作ると、

「これは、雪で作った人形かい?」

 と、沖田さんが聞いてきた。

「そうですね。そういう感じの物です」

 雪だるまだと、さっきの藤堂さんの描いた絵のようになるから、雪人形にしておいた方が無難かな。

「面白いものだね。あ、そうだ。いいこと考えた」

 沖田さんがそういうと、私と藤堂さんを呼んであるところに連れていかれた。

「ここは、土方さんの部屋の前じゃないですか」

 私が寝起きしている部屋の前でもある。

「俳句を作る風流な土方さんに、風流な贈り物を思いついたんだ」

「総司、風流な贈り物って、何だい?」

「雪人形」

 雪人形って、さっき作った雪だるまか?

「小さいのでいいから、たくさん作って土方さんを喜ばせてあげよう」

 沖田さんの案がとてもいい事のように思えた。

 土方さんも、きっと喜んでくれるはず。

 3人で手のひらより少し大きめの雪だるまを、無言で作り始めた。

 しばらく作っていると、すぐに100体ぐらいになった。

「ずいぶんたくさんできましたね」

「きっと土方さんは喜んでくれるさ。どんな俳句を作るか楽しみだ」

 沖田さんは、100体のミニ雪だるまを見ながら言った。

「その俳句は、見たことあるのかい?」

 藤堂さんが聞いてきた。

「見たいけど、見せてくれない」

「のです」

 前半の部分は、沖田さんと声がかぶり、後半部分だけ私の声になった。

「人に見せない俳句って、どんなものなんだろう」

「平助も興味あるだろう? 僕たちの仲間になる?」

 仲間って……

「どんな仲間なのですか?」

 私が聞くと、

「いやだあなぁ。蒼良はすでに仲間だろう。名付けて、豊玉発句集をなんとしても見るぞ! という仲間」

 いつの間にそんな名前がついていたんだ?

「私は、遠慮しておくよ。土方さんに気付かれたら怒られそうだから」

「怒られることを怖がっていたら、何もできないと思うよ、平助」

「気づかれなければ大丈夫ですよ」

 いつの間にか仲間にされていた私も、藤堂さん勧誘を勧誘したけど、断られてしまった。


 雪だるまを作り、次は何をしようかと思っていると、雪玉が正面から飛んできた。

 驚いて何もできないでいると、さすが剣豪、沖田 総司。素早く刀を抜くと、スパッと雪玉を二つに割ってしまった。

「誰だ? 雪玉飛ばしてきたの」

 二つに割った後も、何事もなかったかのように刀をしまう。

「沖田さん、すごいですね。二つに割っちゃいましたよ」

「そう? 目の前の危機を刀で排除しただけだけど」

 それができるのがすごい。

「おおっ、二つに割れてる」

 雪玉が飛んできた方から永倉さんがやってきた。

「もしかして、雪玉を飛ばしてきたのって……」

「新八さん?」

 藤堂さんが、永倉さんを指さしていった。

「あったり~。よくわかったな。でも、二つに割れてるし」

「沖田さんが、刀でスパッと」

 私が手刀を作って説明した。

「なんだ、新八さんだったんだ」

 そういいながら、なぜか沖田さんは私たちから距離を置き始めた。

 ある程度離れると、雪玉を作って上の方に投げた。

 そんなところに投げてどうしたんだ?もしかして、刀の腕はすごいけど、ボールを投げるコントロールが全くダメとか。

「総司、全然違う方に投げてるぞ。まだまだ俺にはかなわんな」

 永倉さんがからかうように沖田さんに言った。

 その時、上から大量の雪が落ちてきたのだった。

 雪まみれになった私と永倉さんと藤堂さん。一瞬何が起きたかわからなかった。

 上を見ると、木の枝があった。

 沖田さんは雪玉で木の枝にあった雪を私たちに落としてきたのだった。

 っていうか、最初に雪玉を投げてきたのは永倉さんであって、私たちは無罪のはずなんだけど……

「やりやがったな。総司、待ちやがれっ!」

 永倉さんは雪玉を作りながら、逃げていく沖田さんを追いかけていった。

「新八さんは、元松前藩の人だから、雪も慣れているのだろうな。あ、でも、生まれも育ちも江戸だったかな」

 去って行った永倉さんの背中を見ながら、藤堂さんが言った。

「すみませんが……」

「松前藩の場所がわからないとか?」

 なんでわかったのだろう?

「蒼良との今までの会話の話の流れで大体わかるよ」

 そういわれてしまった。

 藤堂さんの説明によると、松前藩は、北海道の中の本州に一番近いところにあることがわかった。

 なるほど、雪に慣れているわけだ。でも、江戸生まれ江戸育ちと言ったから、あんまり関係ないか。

 そう考えていると、私の背中に雪玉が当たった。

 振り向くと、沖田さんが2発目を投げようとしているところだった。

「お前たちも手伝えっ!」

 永倉さんが沖田さんに雪玉を投げるけど、沖田さんは素早くよけて全然当たらない。

 私も、背中に当てられたお返しでもするか。

「永倉さん、手伝いますよ」

「新八さん、私も」

 藤堂さんも入ってきた。

「3対1か。誰も僕の味方になってくれないのか?」

「沖田さんは強いから、これぐらいでちょうどいいですよ」

「総司、一人でがんばれ」

 永倉さんは、再び雪玉を投げたけど、やっぱり当たらなかった。

 私や藤堂さんも投げたけど、沖田さんは素早くよけてしまう。

 3対1の雪合戦だったけど、沖田さんが圧倒的強さで勝ってしまった。


「うわっ!」

 土方さんの悲鳴が聞こえてきた。

 なんだろう?雪で滑ってこけたのか?おじさんだし。

 そんなことを思いつつ、悲鳴の聞こえた方へ行くと、部屋の前の縁側に立っていた土方さんがいた。

「どうしたのですか?」

 転んだわけではなさそうだ。

「お前、これを見てみろ」

 土方さんが指さしたのは、100体のミニ雪だるまたちだった。

「これ見てみろって、雪人形ですよ」

 沖田さんは楽しそうに言った。

「どうかしたのですか?」

 藤堂さんが心配そうに聞いていた。

「どうしたも、こうしたもねぇよ。あんなにたくさんの雪人形に見られたら、気味悪いだろうがっ!」

 気味悪いかな?土方さんと同じ目線で見れるように、縁側に上って土方さんの隣で見てみた。

「あ、本当ですね」

 確かに。100体の雪だるまが自分のほうをじーっとみているのは、あまりいい気持ちがしない。

「本当ですねって、普通気が付かないか?」

「土方さんが俳句を作りやすくなるようにって、蒼良がやったのですよ」

 沖田さんが言った。って、私かいっ!

「わ、私じゃないですよ。沖田さんじゃないですか」

「何言ってんだい。蒼良が、俳句を見たいっていうから、みんなで作ったんだろう」

 確かに見たいけど……

「でも、私じゃないですよ。確かに一緒には作りましたが」

「誰が作ったかはもういい。で、これをどうするつもりだ?」

 どうするつもりって……

「自然に溶けるでしょう」

 沖田さんが何事もなかったかのように言った。

「顔があるから壊しにくいし、そのうち溶けると思います」

 藤堂さんもそういった。

「いい俳句ができるころに溶けてなくなりますよ」

 私がそう言ったら、

「うるせぇ!」

 と言われてしまった。

 ちなみに、これのせいなのか知らないけど、豊玉発句集には冬の俳句はない。


 その後、晴れの日が続いたので、徐々に雪は解け始めた。

 それまで、朝になり、雨戸を開けると、100体のミニ雪だるまと目が合ってしまい、ずいぶんと不気味なものを作ってしまったと後悔してしまった。

 100体のミニ雪だるまが綺麗に溶けたころ、屯所の入り口にあった大きな雪だるまが、雪の塊になっていた。

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