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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年12月
77/506

惚れられる?

 12月になった。現代に直すと1月になる。

 師走ということで、いつものんびりとしている京でも、人に行き来が慌ただしくなった。

「12月になると、さすがに年末って感じがしますね」

 一緒に巡察している永倉さんに言った。

「年末になると、京の人間も慌ただしくなるものだな」

「京の人にだって年末はあるのですよ」

「そりゃ当たり前だろう。どこにいても年末はあるだろう」

 それはそうだけど。

「オラオラ、攘夷を実行しようとしている人間に、そんな態度はないだろう」

 不穏な声が聞こえてきた。

 どこだろうと見てみると、牡丹ぼたんちゃんと女の子が、数人の浪人風な男達に囲まれていた。

「こんなところで接待するためにおるんやないっ! 接待して欲しいんなら、ちゃんとした時間に揚げ屋で手続きしたらええやないの」

 牡丹ちゃんも負けずに言い返している。

「なんだとっ!」

 浪人の一人が声を上げた。

 これ以上ほっとくと、牡丹ちゃんが危ない。

「ちょっと行ってきます」

 永倉さんに一言いってから、牡丹ちゃんの方へ行った。

「わては、間違ったこというてないで」

「生意気なっ!」

 男の手が牡丹ちゃんに伸びたので、慌ててその手をつかんだ。

「攘夷を実行しようとしている人間が、女性に手を上げるのはよろしくないと思いますよ」

「あ、蒼良そらはん」

「お前、何者だ?」

「京都守護職お預かり、新選組です。手を引っ込めなさい」

 半数は、このセリフで手を引っ込めて逃げていくけど、この人たちは別な方の半数らしい。

「うるせぇ! 突然割り込んできやがって」

 そういった男性の息が酒臭かった。

「昼間からお酒を飲んでいる人間に、攘夷ができるのですか?」

 最近は、攘夷といえば何しても許されると思っているのか、そう言って暴れる人間が多い。

「なんだと! 生意気なっ!」

 相手の男たちは刀を出してきた。

 そっちがその気なら、こっちだってやってやるっ!

 私も刀を出した。

「牡丹ちゃんたちは、私の後ろにいてください。危ないから」

「蒼良はん、おきばりや」

 頑張ってという意味だ。

「蒼良、手伝うぜ」

 永倉さんも、刀を出して入ってきてくれた。

 それから斬り合いが始まった。

 私は、牡丹ちゃんたちを守りつつ、何人か相手をした。

 永倉さんは、次々と倒していった。

 そして、相手は誰もいなくなった。

「年末になると、物騒な奴が多いな」

 永倉さんは、刀を振って血を飛ばしてから鞘に入れた。

「牡丹ちゃん、怪我はない?」

「大丈夫や。蒼良はんたち、強いわぁ」

「おっ、可愛い女の子じゃないか。知り合いか?」

 永倉さんが、牡丹ちゃんを見て近づいてきた。

「以前、行った揚げ屋で知り合った女の子です」

「へぇ、蒼良にも知り合いの女がいたのか。女のおの字も見ないから、心配したぞ」

「何を心配するのですかっ!」

「ま、色々とな」

 色々ってなんだ?

「そちらは、新選組の方なん?」

 今度は牡丹ちゃんが聞いてきた。

「永倉 新八と言う。よろしく」

 永倉さんが少し格好つけていった。

「新選組の方にかっこええ人がおるけど」

「俺か?」

 いや、違うだろう

「土方はんって言うたかな」

 やっぱりそうか。大量にラブレターもらっていたし。しかも、それを他人にあげるという信じられないことをするし。

「土方さんか」

 永倉さんは、がっかりしていた。

 その時、牡丹ちゃんの後ろにもう一人女の子がいるのに気がついた。

 そういえば、牡丹ちゃん以外にもう一人いたような気がしたけど、この子かな?

 私がじいっと見ていると、女の子は牡丹ちゃんの背中に隠れた。

「ああ、この子は楓はん言うねん。最近置屋に来たんよ」

「へぇ、可愛いな」

 永倉さんが牡丹ちゃんの後ろを見ると、再び隠れてしまった。

「永倉さん、怖がってますよ」

「俺は何もしてないぞ」

 確かに。

「恥ずかしがり屋で、揚屋でもこんな感じなんよ。ほら、楓はん、挨拶しいや」

 牡丹ちゃんがそう言っても、楓ちゃんは隠れていた。

「ダメみたいだね。いいよ、無理しなくても」

「そういえば最近、蒼良はんは全然揚げ屋に来いへんな」

 そういえば、全然行ってないかも。芹沢さんがいた頃は、よく誘われて行っていたけど、私の無縁の所という意識があるせいか、ずいぶんと遠のいている。

「あはは、ごめんね。忙しくて」

「待っとるさかい、たまには来てや」

「うん」

「ほな、行くわ。今日はほんまにおおきに」

 牡丹ちゃんと楓ちゃんは軽く頭を下げてから行った。

「牡丹ちゃんか。可愛いな」

 永倉さんは、いつまでも見送っていた。


「えっ、忘年会ですか?」

 屯所に帰り夕方になると、永倉さんに忘年会をするぞと言われた。

「蒼良は、最近島原に行ってないのだろう? 牡丹ちゃんが言ってたじゃないか」

「今日言われたのですよ」

「こういうことは、早いほうがいいぞ。さ、行くぞ」

「新八、お前のことだから、明日も忘年会とか言って飲むんじゃないのか?」

 原田さんも誘われたみたいで、一緒に行くことになった。

「忘年会は、何回やっても飽きないだろう」

「だからって、回数重ねればいいってもんでもないと思うのですが」

「新八のことだから、年が明ければ数日は新年会をやるんだろう?」

 それ、ありえるな。


「わぁ、今日言うたばかりやのに、もう来てくれはった。おおきに」

 島原に行き揚屋に行くと、牡丹ちゃんが出迎えてくれた。

「永倉さんがはりきっていて……」

「土方はんは? おらんの?」

「なんだ、牡丹ちゃんは土方さんがめあてか?」

 永倉さんが残念そうに言った。

「そういうわけやないけど、かっこええって噂があるさかい、見てみたいなぁって思うたんや」

「いや、会うと夢が壊れるかも」

 私が言うと

「えっ、そうなん?」

「確かに、顔はいいかもしれない。いや、かなりいいとして、性格が……」

「おい蒼良、それ以上言うと、土方さんのげんこつが飛んでくるぞ」

 原田さんに言われ、土方さんが出てくるのではないかと思ってキョロキョロと見回してしまった。

「蒼良はん、どうしたん?」

「土方さんは自分の悪口はよーく聞こえる耳を持っていて、こうやって話していると、どこからともなく現れるんだ」

「蒼良、それじゃまるで化物じゃないか」

 あははと、永倉さんが笑った。

 私の右側に牡丹ちゃんがいて、左側にいた女の子がお酒を注いできた。

「あ、ごめんなさい。私は飲めないので、他の人に」

 そう言いながら見ると、お酒を注いでいたのは楓ちゃんだった。

「あ、昼間会ったよね」

 私が話しかけると、耳まで赤くしてうつむいてしまった。

「楓はん、私が注いでくるさかい」

 牡丹ちゃんが、楓ちゃんが持っていたお銚子を取り、永倉さんのところへ行った。

「私、何か悪いこと言ったかな?」

 ずうっとうつむいていたので、何か悪いことをしたっけ?と思ってしまった。

 楓ちゃんは、うつむいたまま首を横に振った。

「じゃあ、顔上げてくれる? なんか、私が楓ちゃんのことをいじめているみたいで……」

「そ、そんなことないどす」

 楓ちゃんはぱっと顔を上げてくれた。

「なんで下を向いていたの?」

「な、なんか恥ずかしゅうて……」

 初々しくて、可愛い子だな。

「恥ずかしがることないよ。楓ちゃんはそのままでも充分可愛いよ。だから、自信を持って顔あげたほうがいいよ。下向いていると、地面ばかりが目に入って、楽しいことが見えないよ」

 私が言うと、驚いた顔をしていた。

「おもろいことを言う人や」

「そうかな? 自分ではあまりわからないけど。あ、やっぱり、下を向いているより、顔を見せてくれた方が可愛いよ。笑うともっと可愛いかも。笑ってみて」

 私が言うと、楓ちゃんはニコッと笑ってくれた。

「うん、そっちのほうがいい。これからは、顔を上げて笑っていて。じゃないと、可愛い顔しているのに、もったいないよ」

「でも、人と話すの緊張するんや」

「自分をよく見せようとすると、緊張するんだって。だから、ありのままを見せればいいよ。楓ちゃんはそのままでも充分だし」

「ほんま? おおきに」

 楓ちゃんがまた笑ってくれた。やっぱり笑顔が可愛いな。

 それから楓ちゃんと色々な話で盛り上がった。

 気がついたら、すっかり酔っ払った永倉さんがいたのだった。


「永倉さん、帰りますよ」

「なに言ってんだっ! もう1軒」

「新八、自分で歩けないぐらい飲んどいて、何がもう1軒だ。ほら、帰るぞ」

 私と原田さんで永倉さんを両脇から支えて歩いた。

「な、永倉さん、お、重い……」

「蒼良、大丈夫か?」

 永倉さんの向こう側にいた原田さんが声をかけてくれた。

「なんとか大丈夫です」

 たぶん、私より原田さんの方がたくさん力を使っていると思う。

「お前に倒れられると、俺ひとりでこいつを運ばなければならないからな。あ、でも、蒼良が倒れたら、新八置いて蒼良を運ぶから、心配するな」

「いや、私より、置いていかれた永倉さんの方が心配ですから。酔っ払って何するかわからないし」

「それもそうだな」

 あははと、原田さんが笑った。

「それにしても、蒼良は、女を落とすのがうまいな」

 えっ?

「あの、楓とか言う女の子。あれは蒼良に惚れたぞ」

「な、何を根拠に……」

「俺たちが来た時と帰るときの目が違った。特に蒼良を見る目がな」

「何を言っているんですかっ! そんなことないですよ」

「いや、俺の感は当たるんだ」

 いや、当たっても困るから。女なのに、女に惚れられるってどうなの?

「あれは、惚れた女の目だ」

 原田さんは、ずいぶんと自信がありそうだ。

「よし、忘年会っ! 盛り上がるぞっ!」

「もう終わってんだろうがっ!」

 突然叫びだした永倉さんを、原田さんは平手で殴っていた。


 それから数日後。

「あれ? 楓ちゃん?」

「あ、蒼良はん」

 巡察中に楓ちゃんにあった。最近よく楓ちゃんに会う。

「今日は、お使い?」

「いや、お稽古どす」

 芸妓さんは、夜は夜で接待しないといけないけど、昼は昼で芸を磨かなければならない。意外と大変なお仕事だ。

「最近よく会うね」

「ほんまに。では蒼良はん、おきばりやす」

 楓ちゃんは軽く頭を下げて行った。

 数日前の恥ずかしがって隠れていた頃とえらい違いだ。女って、こんなに変わるものなのか?って、私も女だけど。

「蒼良、知り合い?」

 一緒に巡察中の藤堂さんが聞いてきた。

「数日前に知り合ったのです」

「もしかして、左之さんが言っていた、蒼良が落とした子って……」

「藤堂さん、私の性別を知っていますよね」

「性別を知っているからこそ、聞いたんだよ」

 ん?どう言う意味だ?

「私は男だから、女の人にこういうことを言われると嬉しいとか、こういうことをされると嬉しいということを知っている。だから、私が女になって、男にその言葉を言ったり、そういう仕草をすると、男なら喜ぶと思うんだ」

「あ、そうですね。藤堂さんは優しい顔しているから、女装しても大丈夫ですよ」

「いや、そういうことを言っているんじゃなくて。蒼良は、その逆だから、女の人のことをよく知っているだろう?」

「そりゃ、こんな格好していても、一応女ですから」

「もしかしたら、蒼良は気がついていないかもしれないけど、あの子を喜ばせようとして声かけたんじゃないの?」

「喜ばせようというか、恥ずかしがって緊張していたから、ちょっとでもそれが楽になるといいなぁとは思いましたが」

「それが、あの子が蒼良に惚れた原因じゃないかと思うのだけど」

「まさか、それはないですよ。藤堂さんも変なことを言うなぁ」

「でも、蒼良に会った日からあの子は恥ずかしがり屋じゃなくなったのでしょう?」

 牡丹ちゃんにそう言われた。蒼良はん、何か言うたん?って。あの日から別人のようになったって。

 揚屋に行っても、うつむいてばかりいたけど、最近は笑顔で話をするらしい。

「私と話して、それがきっかけになって今みたいに良くなれば、いいことですよ」

「そんな、のんきなことを言っている場合じゃないと思うけど」

 えっ、そうなのか?


 そんなある日の事。

 非番でフラリと屯所の外に出ると、なんと楓ちゃんがいた。

「蒼良はんっ!」

「わっ! びっくりした」

 突然名前を呼ばれたから驚いた。

「楓ちゃん、どうしたの? 買い物ではなさそうだし……」

「今日は非番やろ? 街中は物騒やさかい、蒼良はんにつきおうてもらいたいなぁ思うてな」

 用心棒ということか?

「暇だから別にかまわないけど……」 

 というわけで、楓ちゃんと京の街中に行くことになった。

 ま、屯所でゴロゴロしているよりかなりましだろう。

 私は女友達と買い物という感覚でいたけど、楓ちゃんは手をつないできたりしてきたので、周りから見ると、デートに見えるのだろうな。

「蒼良はん、こっちとこっち、どっちがええと思う?」

 楓ちゃんが巾着袋を二つ出してきた。

「ちょっと手に下げてみて」

 私が言うと、楓ちゃんは赤い方の巾着を手に持った。

「こう?」

「こっちも、同じようにしてみて」

「こう?」

「赤いほうがいいかも。楓ちゃんの名前も赤い楓からきていると思うし、ぴったりだよ」

「ほんま? じゃぁ、これにするわ」

 用心棒と言うより、買い物相手が欲しかったのかな?


「おいっ! 俺を化物扱いしただろう」

 屯所に戻り、夜遅くに戻ってきた土方さんに突然言われた。

「えっ! なんですか、突然」

「今日、島原に行ってな、牡丹とかいう女と会ったぞ」

「ああ、牡丹ちゃんに会ったのですね」

「俺を化物扱いしていたらしいな」

「牡丹ちゃんとその話が、どこでどうつながるのかがわからないのですが」

「その牡丹とかいう女が言っていたんだ。お前が俺の悪口を言うとどこからともなく俺が出てくるらしいな」

 あっ!あの話か。

「それは……化物とかじゃなくて……土方さんは非常にいい耳をもっておられるという話を……」

「そんなことはどうでもいい」

 えっ、どうでもいいのか?

「ちょっと気になることがあってな。今日、楓とか言う女が来ていただろう?」

「ああ、楓ちゃんですね。屯所に来ていて、用心棒代わりに一緒に来て欲しいと言われて、買い物に付き合いましたが」

「お前、本当に用心棒代わりだと思っていたのか?」

 えっ、違うのか?

「俺が聞いた話だと、その楓とかいう女は、うちの隊士が揚屋に行くと、お前の非番の日を聞いていたらしい」

 なるほど、それであんなにタイミング良く居たんだ。

「牡丹とかいう女の話だと、どうも、お前に惚れているらしいぞ」

「えっ、誰がですか?」

「お前、人の話を聞いていたか? 楓とかいう女が、お前に惚れているといったんだっ!」

「またまた~。原田さんや藤堂さんも同じこと言ってましたが、そ……」

 そんなことはないと言おうとしたら、土方さんの言葉にさえぎられてしまった。

「左之や平助も言っていたなら、間違いねぇな。そいつはお前に惚れてるよ。で、お前はどうなんだ?」

「どうって?」

「お前はその女を好きかと聞いているんだっ!」

「ああ、いい女友達になりそうだなぁって」

「お前なぁ、いいか、今のお前は男だろう?」

 そうだった。

「その女も、お前のことを男と思っているぞ。だから惚れたんだろう」

 そうなのか?まぁ、私のことを女だとは思わないだろう。

「お前は、その女と付き合う気はあるのか?」

「なっ、なに言ってんですかっ! 私は一応女ですよ。楓ちゃんと付き合うとかそんなこと全然考えてませんよ」

「なら、さっさとふれ」

 えっ、ふれ?

「その気がないのに、気があるように振る舞うのは良くないぞ。お前にそういうつもりがなくても、向こうはそう思っている。今ならまだ大丈夫だ。厄介なことになる前に、さっさとふれ」

「ふれって言われても……どうすればいいのですか?」

 ふられたことなら何回もあるけど、ふった経験は全然ない。自慢じゃないけど。

「お前に気がないって一言言えばいいんだ」

「それって、冷たすぎませんか?」

「冷たいぐらいがちょうどいいんだ。変に優しくすると、ふるどころか、相手がお前に夢中になるぞ」

 それは避けたいなぁ。

「わかりました。冷たくふってくればいいのですね」

「そうだ、ふってこい」


 しかし、冷たくふって来いと言われて、簡単にいくものなのか?

 朝になって、屯所内をフラフラしていた。

 どうふればいいんだか。そう思っていると、屯所の門から

「蒼良はんっ!」

 と呼ぶ声がした。

 その声は楓ちゃんの声だった。

 うっ、どうしよう?

「か、楓ちゃん。今日はどうしたの?」

 ふらないとと思いつつ楓ちゃんに近づくと、楓ちゃんの目が赤かった。

「目が赤いけど、泣いてたの?」

「蒼良はんっ! 聞きたいことがあるんやけど」

 なんだろう?

「つきおうている人がおるってほんまなん?」

 付き合っている人?そんな人いないよ。そう言おうとしたけど、付き合っている人がいることにした方がふりやすいのかもしれないと思い、否定するのをやめた。

「うん」

「江戸からの付き合いって聞いたけど、ほんまなん?」

 えっ、江戸からの付き合いなのか?

「うん」

 江戸からって、誰?と思いつつも否定した。

「ほんまにそん人のこと好きなん?」

「うん、もう好きで好きでたまらないぐらい好きなんだ」

「そうなん? わかったわ。うちも蒼良はんのこと好きやったけど、女の人を受け付けんらしいって聞いたから、諦めるわ」

 確かに、女だから、女の人と付き合うのはちょっとなぁ。って、今の私は男だからその逆じゃん。確かに、女の人と浮いた噂はないけどさ。

「蒼良はん。その恋は険しいものかもしれん。けど、わては応援しとるさかい。蒼良はん、土方はんと幸せになってや」

 楓ちゃんはそういうと走り去っていった。

 今、土方さんとって言わなかったか?


「お前っ! なんで否定をしなかったんだっ!」

 夜遅くに、島原から帰ってきた土方さんに言われた。

「冷たくふれって言ったの、土方さんじゃないですか。だから、付き合っている人がいるということでふろうと思っていたら、楓ちゃんが勝手に相手は土方さんだと思い込んでしまって。否定する間もなく走り去っていきました」

 この話、色々とあって……

 実は、前の日に永倉さんたちも島原で飲んでいたらしい。

 何回目かの忘年会だったみたいで……

 楓ちゃんがお相手をしたのだけど、私と土方さんができているのではないかという話になったらしい。

 そういえば、江戸にいた時もそういう話になったなという流れになり、楓ちゃんは、私と土方さんは出来ていると思い、今日私に話をしたら、あっさりと私が認めたので、やっぱり、と言う事になったらしい。

「おかげでな、俺は女に興味がないという噂で持ちきりだ」

 男装をしているので、周りから見ると私は男に見えるわけで。土方さん男色疑惑再びということになったようだ。

「ちょうどいいじゃないですか。恋文も減って、処分に困らなくなりますよ」

「そういう問題じゃないだろう」

「でも、おかげで楓ちゃんがあきらめてくれたので、いいじゃないですか」

「いや、良くない。俺が良くない。しばらく島原に行けんじゃないか」

「島原に行けなくても、死にはしませんよ」

 現に私は生きてるぞ。

 しばらく土方さんはブツブツ言っていたけど、

「ま、いいか。お前にも変な虫がつかなくなったかもしないしな」

 と、変に納得をしていた。

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