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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年11月
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沖田さんの恋人は?

 11月になった。現代でいうと12月になる。

 さすがにこの時期になると、寒いなぁと思う。

 しかも、京は盆地なので、余計に寒い。

 そして、暖房も現代と比べるとたいしたものがないので、かなり寒い。

 この日は非番で、家にこもっているとよけいに寒く感じるので、沖田さんと一緒に近所の子供たちと遊んでいた。

 日が暮れるのが早くなり、いつもより早めにさよならをした。なかなか帰らない子も、母親が迎えに来て帰っていった。

 それを寂しそうに沖田さんが見ていた。

蒼良そら、みんな帰っちゃったけど、もうちょっと遊んでいたいな」

「遊ぶって、何をするのですか?まさか、ここからは大人の時間とか言って、島原に行くとか言うんじゃないですよね」

「それは、新八さんたちだろう」

 確かに。

「いいですよ。付き合います」

「何して遊ぶ?」

 何して遊ぶ?と聞かれてもなぁ……

「二人で刑泥なんてつまらないし」

「けいどろ?」

「あっ、泥棒とそれを捕まえる人達という2組作って鬼ごっこのようにして遊ぶのです」

 その他にいろいろルールがあるけど、それは言わなかった。

「そんな面白そうなのがあるんだ」

「でも、二人じゃできないですよ」

「二人だけの鬼ごっこもつまらないしな」

「そうだっ!」

 私は、いい遊びを思いついた。


 地面にかかしの絵を書いた。

 胴体部分に四角を縦に3つ。手の部分は横に3つ。首に一つと丸い顔、とんがり帽子を書いて、真ん中に線を引いた。

「かかし?」

「そうです、かかしです。こうやって、遊ぶのです」

 私は、かかしの上に片足だけで立ってお手本を見せた。

 簡単に言うと、ケンケンパーかな。

「なんだ、簡単じゃん」

「これで終わりじゃないですよ」

 最後に石を投げた。3つの胴体の四角の真ん中に石が落ちた。

「石があるところを踏まないで、同じようにやってみてください」

 沖田さんはちょいちょいと簡単にクリアーをした。

「で、石を投げるの?」

「そうです」

「なるほど。石が多くなればなるほど難しくなるんだね」

「そういうことです」

 沖田さんの言うとおり、回を重ねるごとに難しくなった。

「こんな4つも踏まないなんて無理ですよ」

 石が縦に4つも並んでしまった。

「じゃぁ、これを僕ができたら、蒼良は僕の言うことを一つ聞く」

「その代わり、できなかったら私の言うこと聞いてくださいね」

「わかった」

 こんな約束しなければと思った。

 沖田さんはひょいひょいと軽く出来てしまった。

「沖田さん、剣もできるけど、これもできるのですね」

「器用なのさ」

 普通は自分で言わないけど。

「で、何ですか? 言うこと聞いて欲しいこと」

「あのさ……」

「おーい! お前たちいつまで遊んでんだ? もう暗いぞ! 帰ってこい!」

 遠くの方から土方さんの声が聞こえた。

「なんか、さっき遊んでいた子供たちと同じですね、私たち」

 私が言うと、沖田さんもいたずらっ子のように笑った。

「僕が試衛館に入った時、まだ9歳で、暇ができると近所の子達と遊んでいたのだけど、みんな母親が迎えに来るんだよね。いつも僕だけ一番最後で、お迎えも近藤さんだったなぁ」

「沖田さんは、お母さんがいないのですか?」

「覚えてないな。生まれてすぐに亡くなったみたいだから」

 えっ、そうなんだ。

「蒼良、そんな顔しないで。僕には母親はいないけど、二人の姉がいたし、試衛館に入ったら、仲間も増えたから」

「知らなかったです、すみません。でも、お迎えは私も母親じゃなかったですよ」

「えっ、そうなの?」

「うちは、お師匠様でした」

「天野先生が? そりゃ強烈だなぁ」

「両親揃っているのですが、私は3番目で一番お師匠様になついていたから、気がついたら、道場の跡取りになっていました。だからお師匠様に育てられたようなもんですよ」

「3番目は、僕と一緒だね。僕の場合は、お義兄さんが継いだけど」

「おい! ぐずぐずしてると、夕飯なくなるぞ!」

 また土方さんの声がした。

「蒼良、夕飯がなくなると大変だ、急ごう」

「はい」

「あ、そうそう、近藤さん以外に、土方さんが迎えに来てくれた時もあったな」

「えっ、それは強烈ですね」

 私が言ったら、沖田さんは吹き出していた。


「おい総司! 枕持ってきて一体何だ?」

 部屋に敷いてある布団でゴロゴロしていると、沖田さんが枕持ってあらわれた。

「たまには僕も土方さんと寝たいなぁって」

 えっ、男色だったのか?

「いやだなぁ。そうならそうと言ってくれれば……」

 私が自分の枕を持って部屋から出ようとした。

「ちょっと待てっ!お前、変なこと考えてるだろう?」

「いや別に。嫌だなぁ、土方さん。照れることはないのですよ。愛は性別を超えるのです」

「思いっきり変なことを考えていやがるじゃないかっ!」

 変なことを言ったか?

「応援しますよ、二人の恋を」

「ばかやろう」

 土方さんのげんこつが落ちてきた。

「蒼良、残念ながらそういう関係じゃないよ。今日の夕方、蒼良と遊んでいたら昔のことを思い出したんだ。試衛館に来たばかりの頃、土方さんと枕並べて寝てたなぁって」

「俺も、奉公先を2件も飛び出して、実家に戻ろうにも居心地が悪かったからな。近藤さんのところによく泊めてもらったよ」

 奉公先とは、他の家に住み込みで働くこと。江戸時代、家のあとを継ぐのは長男と決まっていたので、それ以外の人間は家にいても米がなくなるだけなので、小さい時から家を出て住み込みで働いていた。

 運がよければ、その家のお婿さんになることができたし、暖簾分けと言って別にお店を構えることもできた。

「というわけで、今日はここで寝かせてもらうから」

 沖田さんは、枕を真ん中に置いた。

「勝手に場所を決めるな。真ん中は俺だ!」

 土方さんが自分の枕をまた真ん中に置いた。

「僕が真ん中でいいじゃん」

「お前は勝手に来たんだろう。真ん中は俺だ」

 しばらく二人で真ん中の取り合いをしていたが、自然と土方さんが真ん中になっていた。

「土方さんが子供の時は、バラガキと呼ばれていたんだよ」

 布団の端で横になっていた沖田さんが言った。

「バラガキ?」

 沖田さんとは反対の端で横になった私が聞いた。

「いばらの方の。綺麗な顔しているのに、触るといばらのように痛いからバラガキ」

「おい総司。余計なことを言うと、追い出すぞ」

 真ん中にある枕の主が書物をしながら言った。

 あんなこと、こんなことを沖田さんと話しているあいだに、気が付けば朝になっていた。

 目が覚めたら、ゲッソリとした土方さんがいた。

「お前らっ! 揃いも揃って寝相が悪すぎるぞ」

「何かあったのですか?」

 私が聞いたら、

「よくのんきに聞けるな。寝ようと思ったら、お前らの足が邪魔で布団に入れねぇし、やっとどかして入ったら、交互に人の腹の上に足を出してきやがって」

 と、怒られた。

「だって、土方さんが真ん中で寝たいっていったんじゃないですか」

「お前を総司の横で寝かせられるわけねぇだろうが。嫁入り前の女なんだし」

 一応、女扱いしてくれてるんだ。

「おい、何ニヤニヤしてる」

「いや、別に」

「気持ち悪いなぁ」

 女の子扱いしてくれて、なんだかわからないけど嬉しかった。


「よし、これで大丈夫かな?」

 着物に着替え終わった時に、土方さんが入ってきた。

「お前、その格好はなんだ?」

「着物ですよ」

「着物はわかってる。いつもの着物と違うだろう」

「おかしくないですか?」

「いや、別におかしくないが。自分で着たのか?」

「いつまでもお雪さんに頼るわけにはいかないじゃないですか」

 そう、この日着たのは、女物の着物。

 何回かお雪さんに着付けてもらううちに自分で着れたほうがいいかなと思うようになり、着方を教わって、今日初めて自分で着てみた。

 ちなみに着物は、お雪さんからいただいた。

「髪の毛も自分でやってみたのですが、おかしくないですか?」

「おかしくないが、俺がやったやつじゃないな」

「ああ、かんざしですか?この前土方さんからもらったやつをしたので、順番で今日は斎藤さんからもらったやつにしました」

「順番って、勝手に順番付けるな」

 そう言うと、土方さんは私の頭からかんざしを取り、鏡のそばに置いてあった空色のかんざしをさした。

「これでいい」

 何がいいんだかよくわからないけど……。

「ところで、なんでそんな格好をしているんだ?」

「沖田さんに言われたからですよ」

「はあ?」

 一つだけ聞いて欲しいことが、これだった。

「蒼良は、女装が似合うと聞いたんだ。だから一日だけ女装して僕と一緒に出かけてもらえないか?」

 と言われた。出かけるなら普通の格好でもいいのに、なんで女装なんだ?

 それを聞こうとすると、

「一つだけ言うことを聞くと約束したんだ。男に二言はないよ」

 と言われた。どうやら女だとはバレていないらしい。

「蒼良、準備は出来た?」

 沖田さんが入ってきた。

「うん、上出来。思っていた以上だ」

「総司、蒼良を使って何をするつもりだ?」

「土方さん、そんな怖い顔しないでくださいよ。大丈夫です。蒼良に危険な思いはさせませんよ」

「総司と一緒なら、そういう心配はないが、これは一体どういうつもりだ?」

「土方さんには内緒です。行こう、蒼良」

 沖田さんが私の手を引っ張って部屋を出たので、

「なんだかわからないけど、行ってきます」

 と、捨て台詞のように土方さんに言って出た。


 京の町に出た。

 屯所を出てからずうっと沖田さんと手をつなぎっぱなしだ。

「沖田さん、何をするのですか?」

 と聞いても、

「いいから、いいから」

 というばかりで、全然相手にしてもらえなかった。

 しばらく歩いていると、小間物屋さんがあった。そのお店にいる女の子と目があった。

 女の子は、驚いた顔をしていた。

 なんだろう?そう思っていると、その女の子に見せるように、沖田さんが私の方を抱き寄せた。

「ち、ちょっと、沖田さん。見られてますよ」

 沖田さんの口が私の耳の近くに来た。

「わざと見せているんだ」

「わざとって、恥ずかしいじゃないですか」

「僕と蒼良の仲でしょ」

 そりゃどういう仲だよ。そう思って沖田さんを見ると、目の前に沖田さんの顔があった。

「蒼良、積極的だね」

「何が積極的ですか」

「あの子から見たら、接吻をしているように見えるよ」

 ええっ、接吻!キスって事?

 慌てて女の子を見ると、悲しそうな顔をしてお店の奥に逃げるように入ってしまった。

「あ、女の子が!」

 誤解を解こうと思い、追いかけようとしたら、沖田さんに抱きとめられてしまった。

「これでいいの。さ、行こう」

 本当にいいのか?


 しばらく仲良く手をつないで歩いていた。

「せっかく、いい女を連れているんだから、見せびらかそう」

 沖田さんはそう言いながら、私の手を引いて歩いていた。

「見せびらかそうって、沖田さんに女がいるって誤解されますよ」

「それでいいんだ」

 それはどういうことだ?

 詳しく話を聞いてみると、さっきの女の子は沖田さんのことが好きだったらしい。

 勇気を出して文を書いたけど、沖田さんはそういう気持ちはないからと、断ったらしい。

 普通ならそこで終わるのだけど、その女の子はあきらめが悪かった。

「沖田さんに好きな人がおるなら仕方ないけど、おらんなら関係ない。私が勝手に好きになっとるだけや。誰にも迷惑かけとらん」

 そう言ったらしい。

 その女の子にあきらめてもらいたかった沖田さんは、私に女装させて、沖田さんの恋人役を演じさせたかったらしい。

「自分で断ればいいじゃないですかっ!」

「断っても、断りきれなくなって。これしか方法がなかったんだから、仕方ないじゃん」

「私があの子に恨まれるじゃないですか」

「それは大丈夫だよ。蒼良は、男だから」

 男だったらいいけど、女だったりするんだよな、これが。

「全くもう」

「そう怒らないで。そうだ、お汁粉をおごるよ。そこに甘味処があるし。蒼良は、甘いもの好きでしょ」

 仕方ない。お汁粉で許してやろう。

 そう思う私は、甘いのか?

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