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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年10月
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清水寺へ

「ふぁー」

 部屋でゴロゴロしていると、土方さんにつま先で突っつかれた。

「なんですか?」

「俺の前でゴロゴロするな。目障りだ」

「いいじゃないですか。非番だし、この秋の気候が眠気を誘うのですよ」

「そりゃ春の間違いだろう?」

「秋も眠くなります」

「お前は、年がら年中眠いんだろう。ゴロゴロするなら、よそでやれ」

「ここは、私の部屋でもあるのですよ」

「ほほう、今どの口が言った? この口か? 切るぞっ!」

 ものすごい殺気を感じたので、逃げるように移動した。

 非番で寝ているだけなのに、なんで追い出されなきゃいけないんだ?

 もしかして、俳句を作っていて、いいものが作れないから、八つ当たりしたのか?それはあり得るぞ。

 よし、のぞきに行こう。俳句が見れるチャンス。

「あ、蒼良そら

 悪いことを考えている時に呼びかけられると、思いっきりびっくりする。

 この日もそうで、思いっきり飛び上がったのだった。

「ひいっ!」

「そんなに驚くことないと思うけど」

 藤堂さんがそこにいた。

「なんだ、藤堂さんか」

「なんだって……」

「いや、変な意味じゃなくて、藤堂さんでよかったということです」

「えっ、なんで?」

「悪いことを考えている時に限って、土方さんが出てくるものですから」

 そう言うと、藤堂さんが笑った。

「何か悪いことを考えていたんだ」

「いや、別に。ただ、土方さんの俳句を盗み見てやろうと」

「あはは。思いっきり悪いことだね」

 俳句を作っといて、人に見せない方が悪い。

「ところで、蒼良は暇?」

「思いっきり暇ですよ。ちょっとゴロゴロしようと思っていたところです」

「ゴロゴロ?」

 私は、畳の上で寝っ転がって

「こんな感じです」

 と言った。

「せっかくいい天気なのに、もったいないよ」

 そう、もったいないのだ。外は秋晴れでいい天気だし、気候もまさに行楽日和で、暑くもなく寒くもない。

「でも、何もすることがないのです」

「じゃぁ、私に京を案内してくれるかな?」

「えっ?」

「江戸にいた時、京には色々な寺院があって、見るところもたくさんあるって言っていたじゃないか。」

 そんなことを言ったような?うん、言ったわ。

「じゃぁ、一緒に今日見物しますか?」

「そうしよう」

 ということで、藤堂さんと京を観光することになった。


「ここが産寧坂さんねいさかです。ここを登っていくと、清水寺があります」

 私たちは、清水寺に行くことになった。

 あの清水の舞台の上から紅葉が見れたら綺麗だろうなぁ。

「随分急な坂だね」

 坂というか、石段なんだけど。

 両側には色々なお店も出ていて賑やかだ。

「お産が寧か(やすら)でありますようにと、祈願しながら登る坂だから、産寧坂というのですよ」

「じゃあ私じゃなくて、蒼良が祈願するといいと思うよ」

「いや、私はまだお腹に子供もいませんから」

 それ以前の問題だと思うけど。

「でも、いつかくるときのために祈願するといいと思うよ」

 そうなのか?

 言われたとおりにしてみたけど、なんか違うような気もするのだけど。

「でも、そう言う意味だったんだね。三年坂なんて言うから、転ぶと3年以内に死ぬのかと思った」

 産寧坂は、別名で三年坂とも呼ばれている。

「藤堂さん、1回転んだら10回ぐらい転べばいいのですよ」

「えっ、どうして?」

「1回で3年以内。10回だと30年以内になると思うのですが」

「あ、なるほど。面白いことを考えるね。でも、10回も転ぶのは大変だと思うよ」

 本当に10回も転ぶのは、私もゴメンだ。ここだと急だから、1回転んだだけでも下まで転がり落ちていくようだ。

「でも、それは迷信ですよ、藤堂さん。それは別なところにある坂だと思うのですが」

 さて、どこだったっけ?

 そんなことを考えていると、かんざしがたくさん置いてあるお店があった。

 思わずそこに目がいってしまった。

 可愛いかんざしがあったのだ。薄いピンク色の玉が付いた玉かんざしと呼ばれるものだ。

 あ、でも、今の私にはいらないものだ。

 そこから目をそらし、視線は再び産寧坂のてっぺんに戻った。

 しばらく歩くと、清水寺の入口の仁王門についた。


「これが清水の舞台」

 仁王門から色々な建物を抜けて清水の舞台と呼ばれる本堂に着いた。

「やっぱり、紅葉の眺めが最高」

 思わず声に出してしまった。それぐらい、上から見る紅葉が綺麗だった。

「京の町も一望できる」

 藤堂さんも、小さく見える京の町を見ていた。

「思い切って決心するときに、清水の舞台から飛んだつもりで……。なんて言うじゃないですか。それがここです」

「確かに、ここから飛び降りるのは決心がいるね」

 しばらく清水の舞台から見える景色を堪能していた。

「あそこに行列が出来ているけど、なんだろう?」

 藤堂さんが指をさした方を見た。

「ああ、あれは多分、音羽の滝です」

「音羽の滝?」

「清水寺の名前の由来になった滝で、霊水だそうですよ。飲むと何かいいことがあるのかも。だから行列になっているのかな?」

「行ってみよう」

 という訳で、音羽の滝の方へ行ってみることになった。


 音羽の滝に行ったあと、すぐ近くに地主神社があった。

 そういえば、修学旅行の時に恋愛の神様だってことで盛り上がっていたなぁ。

 もちろん、私はその盛り上がりには入れなかったのだけど。

「目をつぶって何かしているけど……」

 地主神社を見た藤堂さんが言ったので見てみると、修学旅行でも盛り上がっていた光景が目に入った。

 この時代からあったのか?

 その光景というのが、恋占いの石と呼ばれる二つの石が離れて置いてあって、一方の石から目をつぶってもう一方の石に行くという、占い方法だ。

 無事にもう一方の石にたどり着けば、その恋は成就する。誰かの協力で成功したら、その恋はだれかの助けを借りれば成功する。という占いだ。

 それを話したら、何故か藤堂さんは盛り上がり、やる!と言いだした。

「藤堂さん、誰か好きな人がいるのですか?」

「好きな人……好きになりそうな人ならいるかもなぁ。あ、でも、もう好きになっているかもしれない」

 なんだそりゃ。

 気合を入れて石の近くに立ち、目をつぶって歩き始めた藤堂さん。

 あっちにフラフラ、こっちのフラフラで見ていられないので、

「右ですよ!あ、行き過ぎです!」

 と、アドバイスをしてしまった。

 それでもなんとか無事に到着した。

「よかったですね、着きましたよ」

「蒼良が口出したから、誰かの協力で成就するってことかな」

「私でよければ、いくらでも協力してあげますよ」

 私がそう言うと、何か言いたそうな感じで笑った。

「ありがとう。その時は協力してもらうよ」

 ところで、藤堂さんの好きな人って誰だ?それがわからないと、協力したくてもできないじゃないか。

「誰ですか?」

 と聞いたら、にっこり笑って

「内緒」

 と言われてしまった。協力してやらないぞ。

「蒼良もやれば?」

「えっ、私? 相手がいないので、無理ですよ」

「でも、近い将来にできるかもしれないじゃないか。その時のことを今占うのは?」

「それはその時でいいですよ」

「いいから、いいから」

 何がいいからだよ。

 藤堂さんの強引な誘いで、結局、相手もいないのにやることになった。

 相手がいないので、適当でいいやと思ったのが良かったのか、あまり迷わずに石に着いた。

「蒼良の恋は、簡単に成就しそうだね」

 っていうか、相手いないから。


 地主神社を出て、再び参道を下ると、さっきのかんざし屋さんがあった。 あ、あのかんざし、まだある。

 さっきのかんざしをチラッと目にしたけど、やっぱり私にはいらないものだな。

 そう思って通り過ぎようとした時、藤堂さんに手を引っ張られた。

「わっ、いきなりどうしたのですか?」

「いいから、いいから」

 引っ張られるままについていくと、かんざし屋さんの前に立っていた。

「このかんざしください」

 藤堂さんが、薄いピンクの玉のついたかんざしを手にとった。

 あっ、さっき私がいいなぁと思ったかんざしだ。

 それを買ってどうするのだろう?まさか、藤堂さんがするわけないだろうし、誰かにあげるのかな?

 かんざしを買った藤堂さんは、嬉しそうだった。

「誰かに贈りものですか?可愛いですよね、このかんざし」

「はい、蒼良に」

 藤堂さんが、そのかんざしを私に差し出した。

「えっ、私に?」

「欲しそうに見てたでしょう?」

 そんなに欲しそうに見てたのかな?

「だから、蒼良に」

「でも、私はきっと使いませんよ。こんな格好しているし」

「いつか使うかもしれない。その時まで持っていたらいい」

「私じゃなくて、好きな人にあげればいいじゃないですか。きっと喜びますよ」

「だから、蒼良に。使わなくてもいい。持っていてくれたら」

 もらっちゃっていいのかな?可愛いかんざしだし、欲しかったし。持っているだけでもいいよね。

「ありがとうございます。なにかお返しをしないと」

「いいよ。今日のお礼ということで」

「でも、清水寺を案内しただけですよ。私も楽しんじゃったし」

「蒼良が楽しめたなら、よかった」

 私は、藤堂さんからもらったかんざしを、大事にしまった。

「ところで、藤堂さんの好きな人って誰ですか?私がかんざしもらったら、その人に誤解されないですか?」

「えっ、もしかして、わかってないの?」

「えっ、何がですか?」

「本当にわかってないみたいだね」

 何がわかってないのかすごく気になるのですが。

 何回か聞いたけど、藤堂さんは、ちょっとがっかりしたような顔で

「いいよ。そうか、わかってなかったか」

 と言った。

 いや、藤堂さんが良くても、私はよくない。

 何がわからないのか、すごく気になるじゃないかっ! 


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