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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年10月
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焼き芋

 庭に落ちている落ち葉が気になったので、ほうきで庭をはき始めた。

 はき始めると、庭のあっちこっちにある落ち葉が気になり、なかなかやめられなかった。

 気がつくと、集めた落ち葉で山になっていた。

「あ、蒼良そら。随分と気の利いたことを」

 沖田さん声が聞こえたので見てみると、沖田さんは芋をたくさん抱えていた。

「どうしたのですか?」

「壬生の子供たちと遊んでいたら、その親からもらった。採れたてだって。落ち葉の山もあるし、焼き芋でもしようか?」

 わーい。またしても秋の味覚だ。

 沖田さんは、芋を落ち葉の中に埋めた。

「火はどうやって付けるのですか?」

「台所からもらってくる」

 沖田さんが台所からもらってきたものは火ではなく、石だった。

「なんですか? その石」

「えっ、もしかして蒼良、知らないの?」

 知りません。初めて見ました。

「火打石だよ」

 そう言うと、沖田さんは石と石をぶつけあわせて、火花をおこした。

 その火花が落ち葉について火が付いた。

「そうやって火をつけるのですね」

「やっぱり、知らなかったの?」

「はい。使ったことがないので」

「そうだよね。女性なら台所仕事で使うけど、男はあまり使わないものなのかもしれないね」

 そうなのか?っていうか、私、女なんだけど、知ってないといけないものなのかな?

「それって、知っておいたほうがいいのですか?」

 心配になって私は聞いた。

「別にいいんじゃない。蒼良が火を使うことはそうないでしょう」

 それはそうだけど。いいのなら、いいか。

 それにしても、よく燃えるなぁ。って、ここで物を燃やしてもいいのか?

「大丈夫だよ。みんなやってる。火の始末に気をつければ問題ない」

 みんなやっているのか。現代だと、煙が出るから外で燃やしたらいけないって言われるけど、この時代は大丈夫なんだ。

「蒼良は、どうしてそういうことを気にするの?」

「煙がよそにいって、迷惑にならないかなぁと思って」

「火事じゃなくて、煙を気にするんだ。面白いな」

「えっ、火事も気になりますよ」

 木と紙でできている江戸時代の家は、火事になるといっぺんに燃え広がって、街中を焼き尽くす大火になることもある。

 だから、火の始末はきちんとしないといけないし、煙よりも火の方を気にするものなのかもしれない。

「でも、煙も気になるのでしょう?」

「まぁ、そりゃそうですけど……」

 沖田さんにやり込められたような感じがするのは、気のせいか?


「おっ、焚き火か。もうそういう季節か」

「土方さん、一首読みますか?」

 沖田さん、それは禁句な一言ですよ。

「うるさい」

 と、言われてしまった。

「あ、そうだ。ついでに燃やしてもらうかな」

 土方さんはそう言うと、部屋に戻っていった。

「何を燃やすのだろう?」

「失敗した俳句とかかな?」

「もしかして、沖田さんは土方さんの句集見ました?」

「全然見せてくれないよ。もしかして、蒼良も?」

「はい。豊玉発句集なる句集まで作っておいて、全然見せてくれませんよ」

「それは知らなかった。ますます見たくなるね」

「そんなに隠していても、いずれ公になるものなのに」

 現代では、一部のファンによってネットに掲載されていたりする。

 まさか本人は、そんなことになるであろうとは思ってないだろうな。

「えっ、公になるの?」

「はい。一部のファンの……」

 って、これは現代の話で、ここで話す話ではない。

「一部のふぁん?」

「あ、いえ、見つかれば、みんなにバレるのにねって意味ですよ」

「そりゃ、そうだけど」

「待たせたな。なんの話をしてた?」

 土方さんが、たくさんの紙くずを持って来た。

「それ、みんな燃やすのですか?」

 私が聞くと、その紙くずを沖田さんに渡し、

「頼んだぞ」

 と言って、部屋に戻っていった。

「沖田さん、何をしているのですか?」

 沖田さんは、土方さんからもらった紙くずを広げていた。

「もしかしたら、俳句が書かれているかもしれない」

 おおっ、それは是非見てみたい。

 しばらく二人で、紙くずを綺麗に広げる作業に熱中した。

「沖田さん、墨で塗りつぶされているような感じがするのですが」

「土方さん、そこまでして見られたくなかったのかな」

「機密に関わることだからな。捨てる時も、気をつけて捨てねぇとな」

 土方さんの声が聞こえたような……

「お前らみたいなのがいて、書いたのを見られると困るだろう」

 やっぱり土方さんがいた。しかも、してやったりという得意げな顔をしていた。

「土方さん、ずるいですよ。こんな墨で塗りつぶして読めないようにして」

「総司、そりゃ、こっちの言葉だ。こそこそと人が書いたのを見ようとしやがって。早く燃やしちまえっ!」

 そう言って、土方さんは綺麗に広げた紙くずを、全部火の中に入れた。

「何を書いたのですか?」

 私が聞くと、

「お前は、直接聞いてくるのだな」

 と、おかしそうに笑いながら言った。

「お前に言えるものなら、墨で塗りつぶしたりしねぇよ」

 土方さんは、今度こそ部屋に帰ったようだ。

「びっくりしたぁ」

「まさか戻ってくるとは。土方さんも油断できない人だ」

 沖田さんは、なぜか感心をしていた。


「そろそろ焼けたかな?」

 沖田さんが、焚き火の中に棒を突っ込んでほじくっていた。

「大きかったから、中までは時間がかかりそうですよ」

「そうかもね。焼けたら、山南さんにも持っていこう」

「私も、一緒に行きます」

 山南さんは、風邪をひいて寝込んでいる。

 京に来てから京の空気が合わないのか、風邪をひいたりしては寝込んでいる。

 芹沢さん暗殺の時は元気だったのだけどなぁ。

 病気といえば……

「沖田さんっ!咳とか出ませんか?」

「いきなりびっくりしたなぁ。突然どうしたの?」

「いや、咳が出て止まらないとか、そういうことないですか?」

「別にないけど」

 よかった。まだ発症していない。でも、感染していて発症していないとか?

 ああ、労咳なんて病気、よく知らないからわからないよ。

 分かることは、私は予防接種しているから、この時代の人よりかはかかりにくいということだけ。

 沖田さんも、予防接種してもらいたいけど、無理だろうな。

「蒼良、何考えこんでいるの?」

「いや、大丈夫ですよ」

 あなたは労咳にかかるなんて、言えないしなぁ。

「もしかしたら、組織図かな?」

 沖田さんが突然言いだした。

「えっ、何がですか?」

「さっきの紙くず。組織図かなって。芹沢さんが亡くなって、近藤さんが一人局長になったから、また組織を考えないといけないだろう」

「ああ、山南さんが総長になるのですよね」

「なんで蒼良は知ってるの?」

 ええっ、まだ公にはなってなかったのね。

 芹沢さんが亡くなってから、近藤さんが局長で、山南さんが総長という、近藤さんの相談役のようなものになる。そして、土方さんも一人副長になる。

 でも、まだみんなは知らないということは、また歴史を先読みしてしまった。

「あ、蒼良は、土方さんと同じ部屋だから、覗き見したとか」

「そ、そうなのですよ。見たくなくても見えちゃうというか」

「そうだよな。見ちゃうよな。でも、俳句は見てないのでしょう?」

 うっ、鋭いところをついてくる。

「そ、それは、土方さんが必死になって隠しているから」

「そんなに見られるのが嫌なら、作らなけりゃいいのに」

 なんとかごまかせたらしい。


 しばらく時間が経ち、沖田さんが芋を棒で突っついてみた。

「もう少しかな」

「やっぱり、大きいから時間もかかりますね」

「暇だから、気長に待とう」

「そうですね」

 二人で火をぼんやりと眺めていた。

「そういえば、芹沢さんが亡くなったとき、勇之助くんが怪我していたのですが、それは治ったのですか?」

「うん。綺麗に治ったよ。剣先がちょっと触れただけだったみたいだから、傷は深くなかったのだけど、僕か土方さんか、どっちがやったのかはわからない」

「暗かったみたいだし、芹沢さんも必死に逃げていたみたいだから、仕方ないですよ」

「でも、悪いことをしちゃったなあ」

 殺してしまった芹沢さんにではなく、勇之助くんにそう思うところが沖田さんらしいなぁと思った。

「沖田さんは、芹沢さんを切るときは、何を思ったのですか?」

 前から聞いてみたいと思っていた。

 私だったら、知っている人間は切れない。ましてや局長なんて絶対に切れない。

 普通に人を切るときも、一瞬戸惑ってしまうけど、やらねばやられると思い、守るために切るってわりきっているけど、もし相手が芹沢さんだったら、やっぱり切れないな。

「蒼良、芹沢さんは長州の間者に殺されたのだよ」

 沖田さんは、いたずらっ子のような顔をして笑った。

「さっき、僕か土方さんって言ったじゃないですか」

「しょうがないな。じゃぁ、特別に教えるよ」

 私は、それを聞くために身構えた。

「何も考えなかったよ」

 えっ?

「何もですか?」

「うん、何も。ただ、切ることしか考えなかった」

「そうなのですか」

「もっといろいろ考えているかと思った?でも、そんなものだよ。僕には切ることしか能がない。ただ、切ることは誰にも負けない。それは自信ある。だから、切るときは何も考えずに切る。考えるのは、土方さんに任せているから」

 いい意味で、開き直っている。と言っていいのか?

 でも私には、沖田さんのような考え方はできない。

 さすが、新選組一番の剣客、沖田 総司だ。

 私みたいに、色々考えている人間は、剣客なんてなれない。改めてそう思った。

「蒼良、黙っちゃってどうしたの?」

「いや、沖田さんってすごいなぁって思っていました」

「別にすごくないよ。目の前に切らなければいけない人間がいたら、ただ切っているだけだよ」

「私は、そこまで割り切れないです」

「割り切れなくてもいいよ。それが蒼良のいいところだから」

 そうなのか?


「おっ、焚き火だ。もしかして、この中に何かが?」

 巡察から帰ってきた永倉さんが来た。

「新八さんは、目ざといなぁ」

「こら総司、お前年下のくせに、このやろう」

 永倉さんは、沖田さんにげんこつを落とそうとした。それを沖田さんは素早くよけていた。

「焼き芋ですよ」

 沖田さんは、火の中から一つ棒を刺して芋を出してきた。

「おお、焼き芋か。もうそんな季節なんだな。いただきます」

「永倉さん……」

 まだ熱いと思いますよ。そう言おうとしたけど、遅かった。

「うまいな、これ」

 熱くないのか?

「蒼良も食べる?」

 沖田さんからお芋をもらって食べたら、ものすごく熱かった。

「あふい、あふいでふ」

「蒼良、食べるかしゃべるか、どちらかにしろよ」

 永倉さんに言われたけど、熱くて食べられないのですよ。

 よくこんな熱いの平気で食べてるなぁ。

「蒼良、新八さんの口の中は石でできてるから、熱さを感じないのだよ」

「ふぇ?ほんほうですか?」

 本当ですか?と言ったけど、芋が入っている口から出た言葉はそんな言葉だった。

「そんなわけ無いだろう。本気にするなっ!」

 永倉さんに背中を思いっきり叩かれ、今度はむせてしまった。


 焼けた芋をいくつか持って、沖田さんと一緒に山南さんの部屋に行くと、藤堂さんも来ていた。

「焼き芋かぁ。そんな季節なのだな」

 布団の上で起きていた山南さんが言った。

「まだ熱いので、気をつけて食べてください。藤堂さんも、どうぞ」

 お芋をすすめると、二人共手にとって食べ始めた。

「そういえば、土方くんが来たよ」

「土方さんがですか?」

「そう。私に総長になって欲しいって。私は病気ばかりして寝込んでいるから、降格だと思っていたら、昇格になっていた。でも、総長って何をすればいいんだ?もしかして、表向きは昇格だけど、お払い箱になってしまったのかな」

「そんなことないですよ」

 藤堂さんが言った。

「土方さんは口が足りないから。きっとゆっくり休んで、元気になったら近藤さんのそばで働いてくれってことですよ」

 沖田さんも言った。

 考え方によっては、山南さんが言っているように考える人は現代にもたくさんいる。

 後からだとなんでも言える。だって、事が終わったあとだから。

 でも、今はそういう考え方は言えない。もしかしたら、ここで言う私の一言によって、山南さんが近い未来、脱走して切腹しなくてもすむかもしれないから。

「山南さん、総長になって、土方さんの相談にものってください」

「えっ、土方くんの?」

「はい。あの人は、一人でなんでも背負い込んじゃうところがあるから、山南さんが早く元気になって、総長として、土方さんの荷物を半分背負ってください。これは、総長しかできない仕事だと思うのですが」

 みんな、驚いた顔で私を見ていた。

「蒼良の言うとおりですよ。とにかく、早く元気になってください」

 藤堂さんが山南さんを慰めた。

「蒼良は、たまに面白いことを言うね。蒼良の言うとおり、土方さんはなんでも一人でやろうとするから、山南さんが総長になって見張らないと」

「沖田さん、見張るって……」

 土方さんが悪いことをしている人みたいなのですが……

 そんなやりとりを見て、山南さんは笑っていた。

「そうだな。今は考えることより、風邪を治すことだな。みんな、ありがとう」

 山南さんの心が少し元気になったみたいでよかった。

 あの切腹が変えられるなら、歴史を変えたい。

 そのためには、山南さんの心も元気にしていかないといけない、そう思った。  

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