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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年9月
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嵐山へ

「おい、今から嵐山に行くぞ」

 土方さんが、突然言ってきた。

「えっ、嵐山ですか? 何があったのですか? また長州の人たちがなにか企んでいるのですか?」

「紅葉を見に行く」

「えっ?」

「俺が、紅葉を見に言ったら悪いか?」

「悪くはないですけど、雨降らないかなぁって」

 空を見上げたら、雲一つない秋晴れだった。

「お前、そんなことばかり言ってると、連れていかんぞ。せっかく連れて行ってやろうと思ってたけどな」

「あ、いえ、行きます。雨降らないですよ」

「まったく、お前は」

 という訳で、土方さんと嵐山に行くことになった。


 嵐山は、紅葉を見るにはまだ少し早かった。しかし、うっすらと色が変わっていた。

「ちょっと早かったか」

 土方さんは、残念そうに言った。

「でも、木によって紅葉している木としていない木がありますね」

「とりあえず、あそこにある橋でも渡るか」

 その橋は、渡月橋だった。

 江戸時代からあったんだぁと感心していたら、なんと、平安時代からあるらしい。もちろん、形は、現代と少し異なっているけど。

「お前、ここに来たことあるだろう?」

「はい、修学旅行で」

「はぁ? 修学旅行?」

 この時代には、そんなものはなかった。

「あ、お師匠様と一緒に」

「そうか。初めて着たにしては、なんか慣れているような感じだったからな。じゃぁ、お前が案内しろ。どこかいいところ知っているか?」

 どこかいいところ……。

 私が案内して、その場所がなかったらどうする?でも、歴史が古いから、あったりするかもしれないし。

 とりあえず、修学旅行で行った所に行ってみるか。


「お前、なかなかいいところを知ってるじゃないか」

 天龍寺というお寺に行った。

「世界遺産に登録されていますから」

「はぁ? 世界遺産?」

 しまった。江戸時代にはそういうものがなかった。

「それぐらい立派なものということです」

「わけわからんが、立派なのは認める。ただ、少し時期が早かったな」

 土方さんの言うとおり、もうちょっと遅い時期だったら、とてもいい紅葉が見れたかもしれない。

 今の状態で、少し色付いた程度だった。


 ゆっくり歩きながら、曹源池庭園そうげんちていえんと言う、池のある庭についた。

 ふと、目の前に赤いもみじが落ちてきた。それを、思わず捕まえてしまった。

「もみじを取ると、いいことがあるのか?」

「それはわからないですけど。なんでですか?」

「お前の捕り方がそういうふうに見えた」

 そんなに必死だったか?普通にとったような感じだったけど。

 もみじをとったはいいけど、これをどこにやろう?捨てるのもなんかもったいないし。

「ほら、ここに入れろ」

 土方さんは、懐から句集を出してきた。

 そこから、春にとった桜の花びらもはさんであった。

「まだあったのですね」

「お前が、いいことあるかもしれないって言ったから、そのままにしてある。一緒にはさんどけ。あまり紅葉が始まってねぇのに、これだけ落ちてきたってことは、何かあるかもしれねぇぞ」

 私は、もみじを桜の花びらと同じところにはさんでもらった。

 桜の季節から、半年しか経っていないけど、色々あったなぁ。

 土方さんも同じことを思っていたみたいで、

「色々あったな」

 と、桜の花びらを見てつぶやいていた。

「色々ありましたね」

「お前は、いつまで引きずってんだ?」

 なんのことだろう?

「芹沢さんのことだ。いつまで引きずっているんだ?」

「引きずっていませんよ。こう見えても、切り替え早いですから」

「嘘つけ。毎日お前を見ていると、わかるんだよ。まだ引きずっているなって。たまに遠い目をしていやがるし」

 なんでわかっちゃうのだろう。必死に切り替えようとしているのに。

「土方さんは、もう芹沢さんのこと、なんとも思わないのですか?」

「なんとも思わねぇことはない。ただ、いつまでもそんなことを考えていると、前に進めねぇだろう。ここで立ち止まっている場合じゃないんだ。時間は待ってくれねぇ」

 まっすぐと、目の前の池を見ながら、土方さんは言った。

「俺だって、芹沢さんがいたらって、考えることはある。でもそんなこと考えても、芹沢さんは戻ってこねぇだろう。それより、新選組をきちんとした組織にする方が大事だ」

「そうですね。悲しんでいる暇はないですよね」

「悲しんだらダメだと言っているわけではない。お前の場合、思いっきり悲しんで、発散させたほうが元気になるんじゃないのか?」

 ううっ、なんでそこまで……

「半年も一緒にいれば、わかるだろう」

 でも、私は土方さんが何を考えているかまではわからないのですが。

「ここで、思いっきり発散したらどうだ。誰もいねぇみたいだし」

 キョロキョロと周りを見回すと、本当に誰もいなかった。

「私、悔しかったんです。芹沢さんが暴れるのを止めることができなかったから」

「あそこまで酒が入って暴れている人間を、止めることはできんだろう」

「でも、止めないと、会津藩から、消すように命令が来ちゃうじゃないですか」

「お前、ずいぶん前からそんなことを思っていたのか?」

「はい。芹沢さんが暴れると、新選組の評判も悪くなり、それを預かっている会津藩だって、評判が悪くなるじゃないですか」

「鈍感だと思っていたら、意外と深く考えていたのだな」

 深く考えてはいないけど、歴史ではそうなっていたから、歴史を変えるために動いていた。

 しかし、変えられなかった。それが悔しい。

「とにかく、悔しいです」

「わかった。ここで思いっきり吐き出せ。ただし、ここを出たら芹沢さんのことは考えるな。ひたすら、前だけ見ろ。わかったな」

「はい」

「泣いてもいいぞ」

「泣きませんよ」

 と言いながらも、土方さんの言葉にせき止めていた涙が、あふれ出るように出てきた。

 そんな私に、土方さんは、黙って肩を貸してくれた。


「ありがとうございました」

 天龍寺を出て、渡月橋が見える川土手に座った。

「ようやく、元に戻ったな」

「はい。もう大丈夫です」

「じゃあ、帰るか」

「はい」

 もしかしたら、私のために嵐山に来てくれたのかな。

「あっ」

 土方さんは、突然、句集と矢立やたてを出してきた。

「せっかく来たのだから、句を考えねぇとな」

 もしかして、俳句を作るためか?

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