芹沢さんのお葬式
次の日。角屋を出ると、昨日の雨が嘘みたいに、快晴だった。
二日酔いの人がたくさんいる中、宴会の延長のように騒ぎながら屯所に帰ってきた。
屯所には、昨日の暗殺に参加した人達がいた。
「芹沢さんたちが、長州の間者に殺された」
土方さんが、そう言ったけど、真相を知っている私は、土方さんの言い方が嘘っぽく聞こえた。
みんなは、驚いていた。
「芹沢さんの遺体は?」
永倉さんが、みんなを代表するかのように言った。
「綺麗にして、そこに置いてある」
土方さんは、芹沢さんの使っていた部屋を指差した。
その部屋に行くと、芹沢さんと平山さんがいた。まるで、眠っているようだった。
土方さんたちが、既に処置をしたらしい。刀傷には綿が詰めてあり、来ている着物も、別なものになっていた。
「お梅さんは?」
私は、土方さんに聞いた。あるはずのお梅さんの遺体がなかったからだ。
「お梅の遺体は、菱屋に引き取ってもらうよう、言いに行っている」
お梅さんは、菱屋さんの人だから、菱屋さんで引き取ってもらったほうがいいのかな?
しかし、菱屋さんは、お梅さんは既にうちとは関係ない人間なので、という理由で引き取らなかった。
「一緒に葬ってやればいい」
という意見もあったけど、
「芹沢さんは、局長だ。局長と妾を一緒に葬ることはできない」
と、近藤さんが言った。
「蒼良、平間と一緒にいた女は?」
土方さんが、周りに聞こえないように聞いてきた。
「私が屯所を出るときには、既にいませんでした」
「逃げたか。ま、いい。見つければ、切腹だ」
平間さんは、見つかることはないだろう。見つかったという歴史がない。
とりあえず、芹沢さんと平山さんのお葬式をすることになった。
お葬式は、立派なものだった。
葬列の先頭が壬生寺についても、後ろの方は、芹沢さんが使っていた前川邸を出たところだった。
その中には、会津藩の人や、水戸藩に務めている芹沢さんのお兄さんもいた。
近藤さんが、弔辞を読んだ。その声は、泣いていた。
私も、色々なことを思い出して、もらい泣きしてしまった。
芹沢さん、悪い人ではなかったのだけど、酒癖が悪かったがために、こんなことになってしまった。
止めることができなかった自分が悔しかった。
「蒼良、勇坊が足に怪我していたよ。きっと刀が足にあたってしまったのだろう。かわいそうに」
お葬式が終わったあと、沖田さんが言ってきた。
勇坊とは、八木さんの三男の勇之助くんだ。何回か一緒に遊んであげたことがある。
「勇之助くんに、気がつかなかったのですか?」
「芹沢さんが逃げたから、こっちも追うのに必死で。多分、芹沢さんが逃げた部屋で勇坊が寝ていたのだろう。真っ暗だったし、気がつかなかった」
「傷は、深いのですか?」
「幸い、命とかに支障はないらしい」
思わぬ人間を巻き込んでしまった。
すべてが終わり、部屋から夕焼けを見ていた。真っ赤で、秋らしい綺麗な夕焼けだった。
「蒼良、大丈夫か?」
土方さんが、心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫ですよ」
「俺は、お前が落ち込んでるのかと思ったよ」
「どうしてですか?」
「誰も好き好んで、局長を殺したい人間なんていないだろう」
「土方さんも、いやでしたか?」
「あまりいい仕事じゃねぇな。会津にも逆らえねぇし、芹沢さんには悪いが、仕方ない」
そう、みんな芹沢さんたちを殺したくなかったのだ。
江戸からずうっと一緒だった仲間だったから。
お酒が入ると暴れるところ以外は、本当にいい人だった。
「ところで、お前。平山についていた吉栄という芸妓に、長州の間者がいるからと言ったらしいな」
そうだったかな?なんか、必死だったから、あまり覚えていない。
「お前にしては、気がきいていたな」
普段なら、お前にしてはって、どう言う意味ですか!なんていうのだろうけど、今は、そういう元気もなかった。
「そういえば、お梅さんの遺体は、どうなるのですか?」
菱屋でも断られ、ここでも葬ってあげることもできず、庭にわらをかぶせて置いてある。
いつまでも、このままっているわけにはいかないだろう。
「俺にも、どうすることもできねぇな。一緒に葬ってやりゃよかったのかもしれんが、近藤さんが反対しているしな」
やっぱり、ずうっとこのままなのかな……。
数日後、八木さんが庭でお梅さんの遺体を処置していた。
「八木さん、どうしたのですか?」
私が聞くと、八木さんは、迷惑そうな顔をしていた。
「いつまで置いとくわけにも、いかんやろう。葬ってやらんと、仏さんがかわいそうや」
「どうやって葬るのですか?」
「無縁仏にでもするしかないやろう」
無縁仏か。お梅さん、かわいそうだな。でも、このまま置いておくほうがもっと可愛そうだ。
「手伝いますよ」
私は、八木さんと一緒に、お梅さんの遺体を近くの壬生寺まで持っていった。
芹沢さんと同じお墓に入ることはできなかったけど、一緒のお寺だから、いいよね。
お梅さん、ごめんなさい。
お坊さんが、お経を上げているあいだ思っていた。




