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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年9月
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芹沢さん暗殺

 部屋に行くと、既に作戦会議が始まっていた。

 メンバーは、この前と同じ。それに原田さんが加わった。

「相手は、かなり強いだろう」

 土方さんがみんなに言った。相手とは芹沢さんのこと。

 普通に刀を交えたら、沖田さんと同じぐらいか、それより強いかもと言われていた。

 最近は、お酒を飲んでばかりいるので、そんなに強くないと思うけど。

「失敗は許されねぇ。完璧にやるために、酒で酔ってもらう」

 酒で酔わせて切るってことだろう。

「でも、いつも酔っ払っているだろう? それ以上に酔わすことができるのか?」

 源さんが質問した。

 土方さんが、お金が入った巾着を置いた。かなりの額が入っているみたいで、畳の上に置くと、重そうなチャリンと音がした。

「この前、御所を警備した時に会津藩から出た報奨金だ。これで角屋を貸切にして、宴会を開く。そこで酔わせて、屯所に連れて帰って切る」

 さすがに角屋は血で汚せないのと、島原の揚屋に入るときは、刀を預けるので、切りたくても、自分の近くに刀はない。

 みんな、土方さんの作戦に了解したみたいで、うなずき合いながら土方さんを見た。

「それで、各々の役割を言う。まず、屯所に切りに入るのは、山南さんと源さんと総司と俺だ。」

 名前を呼ばれた人達は、黙ってうなずく。

「左之は、近藤さんと一緒に屯所の外にいて、近藤さんを護衛しろ。近藤さんは、何もせずに外にいてくれ」

「歳、俺は本当に何もしなくていいのか?」

「仲間殺しは、汚れ仕事だ。近藤さんの手を汚したくない。できれば角屋にいてもらいたいぐらいだが、無理だろう?」

「ああ、俺が会津公から命令されたのに、素知らぬ顔で角屋にいるのは無理だ」

「で、蒼良そら

 急に私の名前が呼ばれた。

「はい。なんですか?」

「お前は、花魁になってもらう」

 えっ、また?

「花魁になって、角屋で芹沢さんたちを飲ませてくれ」

 普段飲むなっ!と言っているのに、飲ませることになるとは。

「それで、芹沢さんたちと屯所に帰って様子を見てもらいたい。芹沢さんたちが寝たら、ロウソクをもって外に出て、俺たちに合図をしてもらいたい」

「蒼良を芹沢さんたちと屯所に置くのか? 危なくないのか?」

 原田さんが私の方をちらっと見ながら言った。

「蒼良なら、自分の身は自分で守れるだろう。これだけのために、女を雇ってやらせるほうが危険だ」

「分かりました。やってみます」

「重要な役目だからな。失敗するなよ」

 

 そして、その日はやってきた。

 私は、以前お世話になった深雪太夫がいる置屋で花魁に変身をした。

「お前、本当に蒼良か?」

 原田さんが私の姿を見て驚いていた。

「はい、私です」

「綺麗な顔しているから、女に化けても違和感ないな」

 女に化けてもって、一応女なのですが。

「ただ、この着物と頭がものすごく重いのです」

 かんざしをいくつもさして、盛りに盛ってある頭と、綺麗な着物をいくつも重ねて着る着物は、とっても動きづらい。

「大丈夫か?土方さんが言ったこと、実行できそうか?」

「実行しますよ。失敗は許されないし、大丈夫ですよ」

「何かあったら、無理せずに俺を呼べ。外でいつでも助けられるようにしておくからな」

「ありがとうございます」

「準備は出来たか?」

 土方さんが入ってきた。

「はい、出来ました」

「また派手に化けたな」

 化けたなって、人を化物のようにいって……

「今日は頼んだぞ。役目が終わったら、角屋に帰って来い。深雪太夫が脱ぐのを手伝ってくれるそうだ」

「分かりました」

「深雪太夫にも頼んであるが、隊士を屯所に近づけるな。屯所に帰るというやつがいたら、止めろ」

 芹沢さんたちが殺されるところを、隊士に見られたくないからだろう。

「分かりました。止めます」

「それと、お梅がいる可能性が高い。もしいたら、返せ。お梅は関係ねぇからな」

「でも、お梅さんが帰らなければ?」

「その時は仕方ねぇだろう」

 お梅さんは帰らない。芹沢さんと一緒に死ぬことになっている。でも、一応説得してみよう。

「それと、お前はしゃべるな」

 えっ、しゃべるな?

「このことは誰にも話していませんよ」

「いや、そうじゃなくて、座敷に入ったら一言も口を聞くな。ただ、芹沢さんたちに酒を飲まえろ」

「なんで話したらいけないのですか?」

「声でバレたらどうする?それに、お前、京の言葉を話せるのか?」

 うっ、痛いところを付いてきた。

「話せますえ」

 下手くそな京言葉を話したけど、

「ダメだ。話すな」

 と、あっさり却下されてしまった。

「それにしてもすごい雨だな」

 原田さんが外を見ながら言った。

「逆に雨の方が、俺たちが屯所の中に入るときの音が雨の音で消されるからな。都合がいい」

 土方さんも、外を見ながら言った。 

 この日は、朝からザーザーと音を立てて雨が降っていた。

「じゃぁ、頼んだぞ」


 

 そして、角屋を貸し切っての大宴会が始まった。

 私は、芹沢さんの横について、無言でひたすらお酒を注いだ。

「お前のような美人は初めて見た。名は?」

 芹沢さんがお酒を飲みながら言った。

 名は?と聞かれても、話したらダメだと言われているし。

「そいつは、口が聞けねぇんだ」

 土方さんが助け舟を出してくれた。

「なかなかの美人なんだが、話せねぇから、太夫にはなれねぇらしい」

「そうなのか。話せなくても、俺の相手ができればいい」

 芹沢さんが私の手を触ってきた。

 うっ、このスケベおやじがっ!と、普段ならぶん殴っていたところだけど、それをしたら、すべて失敗に終わるので、我慢して、にっこり笑ってまたお酒を注ぐ。

「おい、こっちのも頼む」

 平山さんに呼ばれ、平山さんにも酒を注ぐ。

 普段より多く飲まされている芹沢さんたちは、もうベロンベロンに酔っ払っていた。

「芹沢さん、飲みすぎたみたいだな。屯所に帰って休んだほうがいい」

 土方さんが、屯所に帰るようにうながす。

「なに、今日は雨が降っているからな、このまま泊まろう」

 えっ、帰らないのか?

「でも、ここだと他の隊士がいるから、ゆっくりできないだろう。屯所に帰って休んだほうがいい。かごも呼んであるから」

 島原から屯所は結構近い。かごに乗って帰るような距離ではない。けど、完璧に屯所に帰すには、ここから直接かごに乗せて運んだほうが確実だ。

「なんなら、こいつを連れて帰っても構わない。置屋の方に許可はとってあるから」

「おお、そうか。気がきくな。じゃぁ、帰るか」

 ヨロヨロと立ち上がる芹沢さんを、土方さんが支えてかごに乗せた。

 平山さんと、平間さんも一緒に帰ることになった。

 計画では野口さんも一緒のはずだったが、野口さんは、他の隊士たちと盛り上がっていて、帰る気配がなかった。

「とりあえず、この3人だな。頼んだぞ」

 角屋を出るときに、私の耳元で土方さんが言った。


 屯所に帰ったら、お梅さんと、平山さんのお気に入りの芸妓、桔梗屋吉栄さんと、輪違屋糸里さんがいた。

 まさか、この人たちも殺すのか?いや、逃がさないと。

 4人で台所に入り、お酒の準備をした。

「あんた、見ん顔やけど」

 お梅さんが私の顔を見ていった。

「お梅さん、私です」

「えっ、蒼良はん?」

 お梅さんは私を見て驚いていた。

「なんでそんな格好しとるん?」

「お梅さん、逃げてください」

「えっ、なんで?」

「芹沢さんは、今夜殺されます」

 私が言うと、お梅さんはやっぱりという顔をした。前もって知っていたのか?

「そんなことやと思った。待ってれば死ぬのに」

「待ちきれないそうです」

「なんや、急いどるんかい?」

「だから、お梅さんは逃げてください」

「逃げん。芹沢はんがおらん世は嫌や」

「でも、お梅さんは美人だから、芹沢さんよりいい人たくさんいますよ」

「失礼な言い方やな。うちには芹沢はんしかおらんのよ。だから、一緒に死ぬわ」

 お梅さんの決心は硬かった。

「分かりました。助けられなくて、すみません」

「ええんよ。わてが決めたことやさかい」

 お梅さんの顔は、強い決心がにじみ出て、キリッとした顔になっていた。

「そういえば、芹沢はんが言うとったよ。俺を注意するのは蒼良だけだって。局長なのに、そんなことお構いなしに体当たりで注意してくるって」

 しょっちゅう注意していたもんなぁ。

「そういう隊士を持って、幸せやって」

 その言葉を聞いて、泣きそうになってしまった。

 芹沢さんを殺さずに済むことはなかったのだろうか?殺さないといけないのだろうか?

「ああ、泣いたら、化粧が落ちるで。泣いたらあかん。それに、土方はんたちにも怒られるよ」

 お梅さんは、私の顔を優しく拭ってくれた。

「す、すみません。芹沢さんを助けられなくて」

「ええのよ。どうせ病気で死ぬんやさかい。死ぬのがちょっと早うなっただけや」

「おい、酒はまだか?」

 部屋から芹沢さんの声が聞こえた。

「蒼良はん、あんたもなんで男になっとんのかわからんけど、好きな人ができたらつろうなるで。はよう女に戻ったほうがええ。せっかく美人なんやし」

 それは、無理そうだ。

「幸せになるんよ。わての分まで、幸せにな」

 そう言って、お梅さんはお酒を持って行ってしまった。

 ここでめそめそしているわけにはいかない。

 みんなだって、江戸から一緒に京に来た仲間を殺すのは、辛いはずだ。土方さんだって、作戦を考えるのに苦労したと思う。

 それを私のせいでぶち壊すわけにはいかない。

 よし、やるぞ。ここまできたら、もう引き返せない。

 私は顔を上げて笑顔になってみた。大丈夫。行くぞ。


 しばらく芹沢さんたちは宴会をしていた。

 でも酔いが回ってきたらしく、眠ってしまった。

 でも、もしかしたら、目を覚ますかもしれない。しばらく様子をみた。

 起きる気配はない。大きないびきが聞こえた。

 大丈夫だろう。

「吉栄さん」

 私は、平山さんの隣で寝ていた吉栄さんを起こした。

「なんなん?」

「長州の間者が外にいるらしいのです。危ないので逃げたほうがいいです」

 確か、長州の間者に殺されたことになるので、そう言った。

「えっ、そうなん?」

 吉栄さんは、急いで起きたけど、なかなか動いてくれなかった。

「足が振るえて歩けへんのよ」

 私は、吉栄さんを支えて外に出た。

「とりあえず、どこかに隠れておいてください」

「わかった」

 吉栄さんは、厠に隠れた。

 糸里さんも起こした。彼女は冷静だった。

「わかりました」

 そう言って支度をした。

 彼女が逃げる姿を見なかった。多分一人で逃げれるだろう。そう思った。

 しかし、部屋に戻ってみてみると、一緒にいた平間さんもいなくなっていた。

 一緒に逃げたらしい。でも、彼が逃げたからって、これからの新選組に影響はない。

 

 外は雨が降っていた。ロウソクに火をつけ、傘を持ってロウソクの火が消えないように、大きく輪をかいた。

 人がこっちに向かってくる気配がした。

 厠に隠れている吉栄さんを抱え、屯所を出た。

 

 吉栄さんを置屋に送り届けた。

 今頃、芹沢さんたちは殺されているだろう。

 雨の中、角屋に向かいながらそう思った。

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