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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年9月
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新見さん切腹

 そろそろじゃないか?そう思っていた。

 やっぱりその日は来てしまうらしい。その予感があたる事件が起きた。


 事の発端は、かみしもで帰ってきた近藤さんと土方さんだった。

 裃とは、現代でいうスーツのようなもの。それを着ているということは、私たちを預かっている会津藩の京都守護職がある黒谷本陣に行ってきたということだ。

 二人の表情は、暗かった。

「やっぱり、やるのですか?」

 私が聞いたら、ため息まじりで、

「仲間だが、松平 容保かたもり公のご命令とあらば、仕方ない」

 と、近藤さんが言った。

 やっぱり、芹沢派暗殺命令が出たのだ。

 これだけは回避させたいと思って、一生懸命止めたのだけど、無駄だったらしい。

「おいお前、なにをやるか知ってんのか?」

 土方さんが、聞いてきた。

「芹沢さんたちを消すように言われたのでしょう」

「なんでお前がそれを知っている?」

 あっ、まだ私は知っていたらいけなかったのね。

「えっ?お、お二人の表情ですよ。暗い表情していたし、裃を着ているから、会津藩からお呼び出しがあったのかなぁって」

「それだけでわかるのか?」

「あまりいいものではない、というのは分かりましたよ」

「それだけではわからんだろう。」

 ううっ、どうしよう?

「あ、あの……ち、直感ですよ、直感。誰かを消せとかって言われたのかなぁって。思い当たるの、暴れている芹沢さんしかいないじゃないですか」

 なんとかごまかせたか?

 しかし、土方さんはじいっと私の顔を見ている。

「あ、あの……なにか?」

「お前、もしかして……」

 もしかして?なに?

「会津の間者じゃないだろうな?」

「えっ、間者? そもそも、なんで味方の会津藩が、うちに間者を放つのですか?」

「やっぱり違うか。お前が間者なら、新選組は間者だらけだ」

 そりゃどう言う意味だっ!

「歳、それは蒼良そらに失礼だ。いくら蒼良が単純で正直すぎて間者に見えないからとしてもだな……」

 近藤さんの方が失礼なことを言っているような気がするのは気のせいか?


「これは汚れ仕事だ。身内だけでやる」

 土方さんが部屋でそう言った。

「身内って、誰ですか?」

「総司と源さんとあとは、山南さんかな」

「近藤さんは?」

「さっきも言っただろうが。汚れ仕事だと。近藤さんの手は絶対に汚さない」

「でも、随分と少ないですね」

「手が汚れる仕事は、少人数でやるのがいいのさ。お前、絶対に言うなよ」

「言いませんよ」

 しばらく、土方さんが私の顔を見つめてきた。

「何か危ねぇな」

「言うわけないじゃないですか」

「お前に言う意思がなくても、言わされることもあるからな。よし、計画が成功するまで、俺のそばを離れるな。それなら安心だ」

 しばらくは、土方さんの監視付きになりそうだ。


 土方さんがあげた『身内』の人たちと近藤さんで作戦会議があった。

「まず、新見をやる」

 土方さんは、強く言った。

「でも、どうやってやるんだ? 理由がないとただの人殺しだ」

 山南さんが聞いてきた。

 山南さんは、涼しくなったのが良かったのか、最近は体調がいいらしい。

「奴には、切腹をしてもらう」

「歳、切腹しろって言って、簡単に切腹する奴じゃないだろう」

「源さん、やつには叩けばホコリがたくさん出るだろう」

 えっ、ホコリ?

 一瞬、頭の中で、土方さんが新見さんを棒で叩いて、ホコリを出している図が浮かんできた。

「蒼良、棒で叩くんじゃないよ」

 私の考えが沖田さんにわかったみたいで、言われてしまった。

 そうだよね、探ったりしたら、色々とやましいことが出て来るってことだよね。

「な、何言っているのですか、沖田さん」

 私は、自分の考えがみんなに知られるのは恥ずかしかったので、ごまかした。

「まさか、蒼良も参加させるのか?」

 近藤さんが、私の顔を見ながら土方さんに聞いてきた。

「いや、こいつは、俺と同じ部屋で計画が知られたから同席させただけだ。参加するかしないかは、本人に任せるさ」

「参加します!」

 私は、右手を上げていった。

「手まで挙げんでもいいだろうが」

「だって、そこまで知っていて、参加しないのって、逃げているような感じがしたので」

「別に、蒼良が参加しなくても、逃げたとは思わんだろう。蒼良は参加しなくてもいい」

 源さんは、女の私は参加すべきではないと思っているらしい。

「でも、土方さんは汚れ仕事だと言いました。そこまで知っていて、自分だけ手を汚さないのは、なんか卑怯だとも思ったので。参加させてください」

 土方さんは、しばらく私を見ていたけど、その後あきらめたように笑った。

「仕方ねぇな。お前ならそう言うだろうとは思ってた。できれば参加を止めたかったが、お前の決心も固いみたいだしな。いいだろう。参加しろ」

「ありがとうございます」

「わざわざ参加しなくても、いいと思うけど、そこがなんか蒼良らしいね」

 沖田さんが、私の方を見て笑った。


 数日後、新見さんが祇園新地というところにある貸座敷、山緒という所にいるという情報があった。

「よし、いくぞ」

 土方さんの合図とともに、私たちの他に、隊士十数人を連れて行くことになった。

 新見さんは、神道無念流の免許皆伝者なので、もしかしたら、倒されるかもしれないということで、ちょっと多めの人数になった。

 山緒では、切腹させられるとは知らない新見さんは、上機嫌で遊興していた。

 そこに、私たちが入っていったのだった。

「な、なんだ、人が遊んでいる時に」

 新見さんは、驚いていた。

 新見さんの他に男性数人と、相手をしていた女性が数人いた。

「新見さん、押し借りをしただろう? ここも、その金で遊んでいるのか?」

 土方さんが、新見さんに近づきながら言った。

「証拠はあるのか?」

「ある。いくつかの商家から、軍用金を度々徴収されて困るという苦情が来た。調べたら、新見さん、どうもあんたらしい」

「そ、それがどうした?」

「押し借りは禁止されている。隊則を破ったものは切腹と決められているからな。切腹をしてもらう」

 土方さんのその言葉を聞いて、新見さんの顔は青くなっていった。

「な、なんで俺が切腹しなければならないっ!」

「斬首でもいいんだぞ。どっちにする?」

 土方さんが冷静に言った。

 この時代は、斬首より切腹の方が武士として名誉ある死に方とされていた。私から見たら、どっちも同じような感じがするのだけど。

「わ、わかった」

 新見さんは観念したらしい。

 そうと決まったら、早速準備が始まった。

 座敷にいた人達はみんな返した。部屋には、私たちだけだ。

「蒼良、外に出るなら、今のうちだぞ。あまりいいものではないからな」

 源さんが私の耳元で言った。

「出ません。最後まで見ます」

 女だからという理由で、逃げたくなかった。

 準備が終わり、新見さんの切腹が行われることになった。

「もしかして、芹沢さんもやるつもりか?」

 新見さんは、脇差を持ちながら聞いてきた。

「新見さんには関係ねぇだろう」

「やるつもりだな」

 新見さんは、土方さんをにらんでいた。

「新見さん、どうして芹沢さんを止めてくれなかったのですか?」

 私は、新見さんの前に出て言った。

「蒼良、何が言いたいんだ?」

「芹沢さんが暴れていた時、私は止めました。でも、あなたは、止めなかった。それどころか、一緒になって暴れていた。もし、止めていたら、こうはならなかったのではないですか?」

 一緒に止めてくれたら、芹沢さんを消すようにと命令されることもなかったはずだ。

「生意気なことを言いやがって」

「誰だって、仲間を殺すのは嫌ですよ。今回の切腹だって嫌だと思いますよ。でも、会津藩から命令されたから……」

「蒼良! それ以上は言うなっ!」

 土方さんから止められた。

「なるほど、会津藩からの命令か」

 あきらめたように新見さんは言った。

「蒼良が言っちまったから、言うがな。会津藩から芹沢さんたちを消すように言われた」

「そうか。芹沢さんもか」

「そうだ。新見さんが切腹したら、あとから行くだろう」

「わかった」

 最後にそう言うと、新見さんは脇差を自分の腹にさした。

 横に切るように刺したあと、再び刺し直し、今度は縦に切った。

「さらばだっ!」

 新見さんがそう言うと、介錯の人が首を切り落とした。

 その少し前に目が合ってしまった。その新見さんの表情が、頭の中にこびりついてしまった。


「蒼良、大丈夫か?」

 屯所へ帰る途中で源さんが心配して聞いてきた。

「大丈夫ですよ」

 でも、新見さんの最後の顔が夢に出てきそうだ。

「顔色が悪いぞ」

「切腹なんて、初めて見たので」

「そりゃ、しょっちゅう見るもんじゃないよ」

 しょっちゅうあんなことがあったら、たまらない。


 屯所につくと、芹沢さんが部屋でお酒を飲んでいる姿が見えた。

「芹沢さん、また飲んでいますね」

 最近は飲んでいない時があるのか?というぐらい飲んでいる。

「あ、うるさいやつに見つかった」

「お梅さんからもなんとか言ってくださいよ」

 隣にいたお梅さんは、芹沢さんに優しく微笑んでいた。

「好きなもんをやめろ言われても、やめられへんやろう」

 やっぱり、お酒はやめてもらえないのかな。

「新見が、切腹したな」

 芹沢さんが、杯を空にしながら言った。

「なんで知っているのですか?」

「俺も局長だからな。隊のことはなんでも知ってるぞ」

「その通りです。切腹するのを見届けてきました」

「そうか。あいつも色々暴れていたからな。俺も注意したのだが、聞かなかった」

 注意していたなんて、初耳だ。

「次は、俺の番か?」

 ドキッとした。

「な、何言っているのですか? とにかく、お酒の量を減らしてくださいね」

 これ以上ここに居ると、余計なことを話してしまいそうで怖かった。だから、部屋を出た。

「蒼良はん」

 お梅さんに呼び止められた。

「なんですか?」

「芹沢はん、あまり長くないんよ」

 えっ、どういう意味?

かさなんよ」

 かさ?それってなに?

「病気なんよ。だから、お酒ぐらい好きなだけ飲ませてやって」

 最後の方のお梅さんの言葉は、頭の中に入ってこなかった。

 芹沢さんが、病気?


「何、瘡か?」

 土方さんに芹沢さんのことを話した。

「そう言ってました。ところで、瘡って、なんですか?」

「お前ならそういうと思っていた」

 土方さんはあきれた顔をしていた。

「梅毒だな」

「梅毒?」

 聞いたことがあるぞ。

 後で調べたら、細菌で感染する病気で、放置しておくと、最後には麻痺症状も出るらしい。

 現代では治療ができるけど、この時代ではおそらく治療方法がないのでは。

「じゃぁ、芹沢さんは放っておいても死んでしまうわけですね」

「でも、それを待っているわけにもいかんだろう。いつ死ぬかわからんし。会津藩から命令されているからな。できるだけ早く消さないといけない」

 結局は芹沢さんは暗殺される運命なのだ。


 この日から数日は、新見さんの顔が夢に出てきてうなされた。うなされるたびに土方さんに起こされた。

「大丈夫か?」

「大丈夫です」

 自分の弱さが嫌になってきた。


 その後、新見さんが水戸や長州、土佐などの尊王攘夷派と関係があったことがわかった。

 彼らは、新選組とは全く逆の思想を持っている人たちだ。

 新見さんは、会津藩からの命令がなかったとしても、こういうことが分かり、殺されてしまう運命だったのかもしれない。

 

 そんな中でも、芹沢さんの暗殺計画は考え出されていった。

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