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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年9月
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斎藤さんの隠し子?

 とっても秋らしい日だった。

 巡察をしていても、秋の心地よい風が吹いて、とっても気持ちがいい。

 今日は、斎藤さんと巡察中だ。

「このままどこかに行きたくなりますね」

 そう、まさに行楽日和なのだ。

 斎藤さんは、ちらっと私の方を見ただけだった。

 巡察がてら、どこかに行きたいなぁ。

 そんなことを思いながら歩いていると、前から赤ちゃんを抱いた女の人が来た。

 斎藤さんの前で止まると、赤ちゃんを押し付けてきた。

 斎藤さんは、自然と赤ちゃんを抱く形になった。

「あんたの子やさかいに、面倒みてや」

 そう早口で言うと、女の人は逃げるように去っていった。

 残されたのは、状況を把握できてない私と、赤ちゃんを抱いた斎藤さんだった。

「斎藤さんの子ですか?」

「ちがう」

「でも、女の人がそう言ってましたよ」

「身に覚えはない」

「どうしますか? 赤ちゃん。まさか、置いていくわけにもいかないでしょう」

「とりあえず、屯所に連れて行く」

 ということで、赤ちゃんを抱いたまま、屯所に帰ったのだった。


「何、斎藤の隠し子か?」

 土方さんは、とっても驚いていた。

「本人は否定してますけど」

「でも、相手の女がそう言ったのだろう?」

「はい」

「じゃぁ、間違いないだろう」

蒼良そらはいるか?」

 土方さんと話をしていると、斎藤さんが泣いている赤ちゃんを抱いてきた。

「はい、なんですか?」

「お腹がすいているらしい。蒼良、乳を出せ」

「……はぁ?」

「いいから、乳を出せ」

 斎藤さんは、泣いている赤ちゃんをあやしながら言った。

「乳を出せって、出せるわけないじゃないですかっ! スケベっ!」

「助平って、母乳を出せと言っているのだ。お前の胸を出せとは言ってない」

 同じことだと思うのですが……

「それに、母乳は、赤ちゃんを産んだ女性じゃないと、出ませんよ」

「そうなのか? では、どうすればいいんだ?」

 赤ちゃんは、顔を真っ赤にして泣き続けていた。

 現代のように、ミルクなんて無いだろうし。

「八木さんの奥さんに聞いてみたらいいだろう」

 土方さんが大きな声で言った。大声を出さないと、赤ちゃんの泣き声で聞こえないからだ。

 じゃぁ、八木さんに聞いてみるか、と思っていると、ちょうど八木さんの奥さんがやってきた。

「なんや、赤ん坊の鳴き声がするって思うてたら、ここだったの」

「斎藤さんの子供らしいのですが、お腹すいているみたいで」

「蒼良、俺の子ではない」

「でも、相手の女の人はそう言ってましたよ」

「だから、違うって言っているだろう」

「喧嘩しとる場合じゃないやろう。赤ん坊を泣き止ませんと。お腹がすいとるみたいやな。」

「母乳を出せる人がいないので、どうしようかと思っていたのです。」

「これぐらいの赤ん坊なら、お粥でも大丈夫や。」

「頼んでくる」

 斎藤さんは、赤ちゃんと一緒に台所へと行った。多分台所にいる佐々山さんに頼むのだろう。

「で、ほんまに斎藤さんの子なん?」

 八木さんの奥さんが聞いてきた。

「多分……本人は否定をしているのですが」

「あれは、斎藤の子じゃねぇよ。」

 土方さんが、書物をしながら言った。

「俺たちは3月に京に来た。斎藤は先に京に来ていたとしても、1月から2月だ。今は9月だろう」

「あの赤ん坊は、多分生まれて5ヶ月ぐらいたっとるよ」

「ということは、4月生まれですね。10ヶ月お腹にいるから去年の夏ぐらいに京にいなければ、あの子の親じゃないということですね」

「去年の夏ぐらいなら、斎藤は試衛館にいた」

「じゃぁ、斎藤さんの子ではないですね。」

 なんであの女の人は、斎藤さんの子だと言ったのだろう?


 台所に行った斎藤さんと赤ちゃんが気になったので、行ってみた。

「腹がすいていたらしいな。慌てて食うな、ゆっくり食え」

 そう言いながら斎藤さんは、赤ちゃんにお粥を食べさせていた。その光景がなんか微笑ましかった。

「蒼良、隠れて見るな」

 バレていた。

「見つかっちゃいましたね。なんか微笑ましくって。親子の時間を壊したらいけないなと思ったので」

「だから、親子ではない」

「土方さんも言ってました。時期が合わないって。でも、なんであの女の人はあんなことを言ったのでしょうか?」

「そんなことは、知らん。でも、こいつには罪はないだろう」

 確かにそうだ。

「やっと満足したか。口に粥がついているぞ」

 微笑みながら、斎藤さんは赤ちゃんの口を拭いていた。

 赤ちゃんは、ニコニコと笑っていた。

「あ、お座りが出来るのですね。可愛いなぁ」

 いないいないばあをしてあげると、声を上げて笑った。

「おい、それはどうやるのだ?」

「簡単ですよ。いないいないで、手で顔を隠して、バァと言いながら顔を出すのです」

「こうか?」

 斎藤さんがやったら、また声を上げて笑った。

「笑ったぞ。泣いているより、笑っている方がいいな」

 そう言いながら、赤ちゃんを抱いていってしまった。

 結構、赤ちゃんを気に入ってる?本当の早く本当の親を見つけたほうがいいのかなと思ったけど、しばらくはこのままでもいいのかな。


 屯所に赤ちゃんが来て数日がたった。

 親はあいかわらず見つからなかった。

 でも、斎藤さんが巡察の時は、沖田さんや永倉さんが率先して赤ちゃんの面倒を見ていた。

「名前ないのか?」

 永倉さんが、赤ちゃんをあやしながら、斎藤さんに聞いてきた。

「ない。名前をつけると、情がわいて、親に返せなくなる」

「でも、いつまでも名前が無いのもどうかと思うのですが」

「蒼良の言うとおりだ。斎藤、なんでもいいから名前をつけろ」

「なんでもいいって、ちゃんとした名前じゃないと駄目ですよ」

「でもよ、名前が無いと不便だろう」

 永倉さんの言うとおりなのだけど、でも、斎藤さんの言うこともわかるので、簡単に名前をつけていいのか迷うところだ。

「じゃぁ、10月になっても親が見つからなければ、名前をつけましょう」

「俺は、そこまで面倒は見れん」

「斎藤が見なければ、誰が見るんだ?」

「それまでには、親を探す。蒼良、巡察に行くぞ」

 親が見つかれば一番いいのだけど……


 斎藤さんと巡察をしていると、向こうから若い夫婦が私たちのところに来た。

「この人や。この人に赤ちゃんを託したんや」

「もしかして、この前の人ですか?」

「そうや。わてらの赤ちゃん返して欲しい」

「訳を聞かせてもらいたい」

 斎藤さんが、静かな声で言った。


 若夫婦から訳を聞いた。

 妻が、赤ちゃんばかり面倒を見るので、夫は寂しかったらしい。

 そしてついに夫が

「この子がいなければ」

 という禁句な一言を言ったらしい。

 それで怒った妻は、赤ちゃんを抱いて家を出た。

 この子がいなくなったら、夫はどうするのだろう?それがものすごく気になった。でも、捨てるわけにはいかない。大事な我が子だから。ちょっと預かってもらうところを探していたところ、私たちが通ったというわけだ。

「新選組の人なら、変なことにならんやろうと思うて、託しました」

「でも、随分勝手ですよ。自分の子を他人に訳も言わずに押し付けるなんて。しかも、あなたの子だと嘘までついたのですよ。それで斎藤さんがどういう思いをしたかわかりますか?」

「蒼良、それはもういい。赤ん坊は屯所にいる。俺が帰ってくるまでに連れて行くといい」

 そう言うと、斎藤さんは行ってしまったので、私も斉藤さんの後をついていった。

 斎藤さんの背中が寂しそうだった。


 屯所についたら、赤ちゃんはいなかった。

 両親が連れて帰ったらしい。

 斎藤さんは、寂しそうに縁側に座っていた。

「いたらいたで、うるさい奴だと思っていたが、いなくなると、寂しいものだな」

「そうですね。赤ちゃん、可愛かったから。でも、両親が見つかってよかったんじゃないですか?」

「一郎」

「えっ?」

「もし、10月まで親があらわれなかったら、そう名付けるつもりでいた」

 そうだったんだ。

「男の子だったのですね」

「知らなかったのか?」

「オムツ替えしなかったので」

「そうか」

「でも、ここではやっぱり子育ては無理ですよ。賑やかだし、騒々しいし」

 それに、これから隊内粛清もどんどん行われるだろう。

 子育てにはいい環境とは言えない。

「そうだな。俺にも無理だ」

 フッと寂しそうに斎藤さんが笑った。

 それからしばらく二人で、無言で縁側に座ってぼんやりと夕焼けを見ていたのだった。

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