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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年8月
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原田さんの告白

「心中ですかね?」

「間違いないだろう」

 原田さんと巡察中、川から死体が2体上がっていた。

 それを囲むように、人々が見ていた。

 その2体は、左手の小指を赤い糸で結び合い、離れないようにか、お互いの体の胴のところで縄で縛ってあった。

「赤い糸を結んであるということは、来世で結ばれますようにということですかね」

「そうだろう。報われない恋だったんだな。」

「でも、何も死ぬことはないともうのですが……」

「この世では結ばれないとわかっていたのだろう」

 恋愛とは難しいものだ。お互いが好き合っていても、周りに認められなければ、結ばれることはできない。

 ましてや、江戸時代という時代は、身分の違いとか、色々な理由で結ばれない理由がたくさんある。

「なんか、可愛そうですね」

「仕方ない。どうあがいても結ばれねぇよ。男同士じゃあな。」

 そう、その死体は、男同士だった。

「心中で、処理をしておいたほうがいいな」

 原田さんは、あとから来た奉行所の関係者の人たちに言った。

 奉行所の関係者たちというのは、奉行所の下のそのまた下で働いている人たちで、奉行所の仕事をカバーしている。

「それで間違いないでしょう。」

 その人たちも言ったので、心中で処理をすることになった。


「う~ん」

蒼良そら、何を悩んでるんだ?」

 さっきの心中死体を発見したあとも、巡察は続いていた。

「何も、死ぬことはないと思うのですが」

「さっきの心中か?」

「そうです。結ばれないからって、いくらでも方法はあると思うのですが」

「たとえば?」

「周りには、とても仲のいい友達同士というふうに見せるとか」

「でも、年をとりゃ、嫁を貰わないといけないだろう。」

「絶対に貰わないといけないのですか?」

 現代なら、独身の人はたくさんいる。

「絶対というわけじゃないかもしれないが、もらえなければ、馬鹿にされるしな」

 というのも、この時代は、女性より男性の方が圧倒的の多いので、結婚できれば出来たですごいことだし、できなかったら、嫁ももらえないやつと言って馬鹿にされたらしい。

 女性はモテモテのこの時代。ちなみに、私は全然モテないけど。

「じゃぁ、独身でもいいじゃないですか。」

「家によってだな。あの二人のうち一人は、着物からして、いいところの出の奴だろう」

 すごい、原田さん、そこまで見ていたんだ。

 私は、死体だと思ったら、なんか不気味でよく見なかった。

「いい所の出だから、男色はダメだったのですね。」

「そうだろうな。ああいう所の出は、親が相手を決めるだろうしな。どんどんと進んでいく縁談話を、止めることができなかったのだろうよ。」

 そうだったのか。

「そうだ、蒼良、口直しに行かないか?」

「巡察中ですよ。」

「死体を見た後だから、気持ちも落ち着かないだろう。ここはお前の好きな甘いものでも食べて、気持ちを落ち着かせてから巡察すればいい」

「いいですね。そうしましょう」

 甘いものでも食べて、仕切り直しだ。


「蒼良は、男色についてどう思ってんだ?」

 原田さんの思いもかけない質問に、思いっきりむせてしまった。

「な、なんですか、いきなり」

「いや、さっきの死体を見たせいか、蒼良はどう思ってんのか、知りたくなった」

「言っときますけど、土方さんとは何もないですよ」

 京に来る前に、土方さんと男色説が流れたので、否定をした。

「そうなのか?」

「そうですよ。いつも一緒にいますけど、何もないですよ。しょっちゅうげんこつ落とされてますから。」

 そんな話をしたら、原田さんは笑っていた。

「そりゃ、蒼良が、土方さんに何か言うからだろう」

 ま、そうなんだけど。

「で、蒼良は、どう思う?」

「男色ですか?現に男性の方が多いのだから、普通にあるのでしょう。それに、人を好きになるのに、性別は関係ないでしょう。たまたま、自分が男で、好きになった人も男だったって話で。」

 それに、この時代では認められていなかったと思うけど、性同一性障害というものもある。自分の心と体が別な人もいるのだ。

 だから、男色とかが悪いとは思わない。

「この世は、男と女しかいないのだから、男が男を好きになることも、女が女を好きになることもあるでしょう。」

「その通りだな。で、お前はどっちが好きなんだ?」

「どっちって……」

 私は女だし、初恋の相手は男の子だったし、恋愛するならやっぱり

「男の人かな」

 私がそう言うと、原田さんは驚いたように目を大きく見開いた。

「そ、そうなのか?」

 えっ、なんか私、驚かすようなこと言ったのか?


 巡察の帰り道。もうすっかり夕方だ。

 9月になり、すっかり秋らしくなった。

「夕焼けが綺麗ですね」

 真っ赤に沈む太陽を見ながら、原田さんに言った。

「ああ」

 原田さんは、あれから上の空だった。

「秋は夕焼けが綺麗ですね」

「ああ」

 ダメだ、こりゃ。なんか変なこと言ったのかな、わたし。

「蒼良」

 原田さんに呼ばれたので、原田さんの方を見ると、夕日に照らされた顔は、真剣な顔をしていた。

「なんですか?」

「いや、やっぱりダメだ」

「なんですか?気になります」

 原田さんは、なぜか深呼吸をした。

「じゃぁ、言わせてもらう。俺は、お前が男を好きだと聞いて、ちょっとほっとした」

 そうなんだ。普通のことだと思うのだけど。

「でも、やっぱり、武士の道に反する」

「えっ、そうなのですか?」

「男が男を好きになることは、武士の道に反すると俺は思う」

 そうなのか?

「俺は、お前のことが好きだ。だが、武士の道に反するから、諦める。諦められるかどうかわからないが、諦める」

 そういった原田さんの顔は、ちょっと悲しそうだった。

 あれ?告白されたような感じがしたのだけど……

「原田さん、今、告白しました?」

「そう何度も言わせるなっ!」

 原田さんの声はちょっと怒っていた。

「すみません。私は、原田さんのこと、いい人だと思っていますよ」

「ありがとう。そこで、止めておいてくれ」

「分かりました」

 なんだかわけがわからないけど……

「それと、好きになるなら、男ではなく、女を好きになれ」

 えっ、女?私が女を好きになったら、それこそおかしいと思うのだけど……

 ちょっと待て。今までの話の流れを考えてみた。

 私は女の立場で答えて話をした。でも、今の私は、男だった。

 ということは……

 思いっきり、私は男色です宣言しているじゃないかっ!

 そして、私に告白をした原田さんは、私を男だと思っているから、きっとすごく悩んだのに違いない。

 悩んでやっと出した結論が、諦める、ということだったのだ。

 女だって言ったほうがいいのか?でも、土方さんから内緒にしておくように言われているから、こちらからバラすわけにもいかないし。

「あの、原田さん?」

 原田さんを呼んでみたけど、既に姿はなかった。


 騙しているという申し訳なさでいっぱいだった。でも、女だと打ち明けたとしても、今の私にとって原田さんはいい人止まりで、原田さんが期待するような答えを出せないと思う。

 はぁ、恋愛で悩むなんて思わなかった。

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