倒幕派を捕縛せよ
8月18日の政変以降、新選組の仕事が一つ増えた。
倒幕派の取り締まりだ。
切れ!という命令ではなく、捕縛しろ!なので、捕まえればいいだけだから、気が楽だけど。
「三条木屋町に、桂 小五郎がいるらしい。早速捕縛に向かう。」
という訳で、捕縛に向かった。
「桂 小五郎…どこかで聞いたことあるなぁ…。」
「長州人だろう。」
隣にいた原田さんが言った。
「長州の人なのですか?」
「そう聞いたぞ。」
そうなんだ。でも、どこかで聞いたことがある…。
「あっ!逃げの小五郎!」
そう、あの池田屋事件でも、池田屋にいるはずだったのに、彼は私用でいなかった。
「逃げの小五郎?そんなあだ名があるのか。それも、今日で終わりにしてやるよ。」
原田さんは、気合入れて言ったけど、それはないと思う。
確か、桂 小五郎は、木戸 孝允と名前を変え、大久保 利通と西郷 隆盛と並ぶ、維新三傑の一人になる。
維新三傑ということは、明治まで生き延びるということ。
だから、彼を捕まえることは、多分ないだろう。
「蒼良、元気無さそうだな。」
捕らえられないと分かっていて出動するのって、なにかを無駄に使っているようで嫌だなぁ。
「原田さん、私は元気ですよ。さぁ、行きましょう。」
でも、捕まえられたら、歴史が変わるかもしれない。
維新の戦いとかがなくなるかも?
よし、捕まえてやる!
しかし、やっぱり逃げの小五郎で、逃げたあとだった。
付き人みたいな人が2人いたので、その人たちを捕縛した。
「原田さん、ダメでしたね。」
「そうがっかりするな。次があるさ。」
やっぱり、歴史は変えられないのかな…。
次の日もまた捕縛に向かった。
「山中 成太郎宅に平野 国臣がいるから、捕縛しろ。」
という訳で、山中 成太郎さんという人の家に向かった。
「ところで、平野 国臣さんって誰ですか?」
「敵にさん付けはするな。」
土方さんに怒られてしまった。
「8月18日に俺たちは御所で警備をしていただろう。その時に、天誅組っていうのが、大和で挙兵した。」
天誅組って…
「大和屋の人がお金を貸した人たちですね。」
「お前、他に例え方がなかったのか?」
「だって、芹沢さんが、天誅組に貸して、俺たちには貸さなかったって、怒って火をつけたことが頭に残っていて。」
「ま、そうだけどな。お前が帝を伊勢神宮などにお参りさせるのどうのって言ってただろう?」
言った。8月18日の政変の原因。勝手にお参りするって決められて、それがしないって分かったから、会津と薩摩が手を組んで、長州を追い出した。
「そのお参りがあったら、天誅組っていうのが、倒幕に動き出す予定だったらしいがな。」
「お参りがなかったから、失敗に終わったのですね。で、その天誅組と、今回の捕縛はどう関係するのですか?」
「そこまで話しててわからんか?今回捕縛する奴は、天誅組と関わりがあるから、捕縛するんだろうが。」
あ、そうなんだ。
「関わりがあるというか、天誅組と一緒になって、別なところで挙兵したからな。あの、清河 八郎とも親しかったらしいぞ。」
「げっ、あの詐欺師。」
「そこにはちゃんと反応するのだな。」
土方さんは、私の反応を面白がっていた。
で、今回も逃げられた。
「逃げられてばかりですね。うちに間者か何かいるのかなぁ…。」
「また次があるだろう。その時に捕まえればいい。」
捕まえることができるのだろうか…。
そして二日後。
「古東 領左衛門のところに平野が潜伏しているという情報が入った。」
ということで、またもや捕縛に向かった。
潜伏しているということは、古東という人も仲間なのかな?
捕まえればわかることか。今回は捕まえられるといいのだけど。
「蒼良、心配そうな顔しているね。」
藤堂さんが話しかけてきた。
「ここ二日、逃げられているのですよ。」
「そうだね。運が悪いというか。」
「なんで逃げられるのだろう。」
「逃げる方が命懸けだから、それだけ必死なんだよ。」
そうか。周囲にアンテナを張りめぐらせて、そのアンテナに引っかかったら、逃げているのかもしれない。
確かに、逃げる方が必死なのかもしれない。
「じゃぁ、捕まえる方も、必死にならないといけないということですね。」
「蒼良、気合が入ったみたいだね。」
「二日も逃げられて、悔しいじゃないですか。」
しかし、2度あることは3度ある。また逃げられてしまった。
今回は、古東 領左衛門という、天誅組に投資していた人を捕まえることができた。
それだけでも、良かったのか?
「はあ。」
「またため息つきやがって。」
土方さんが、ため息ついている私に言ってきた。
「だって、3回も逃げられたのですよ。悔しいじゃないですか。」
「でも、それなりに収穫もあったからいいだろう。」
「桂 小五郎なんて、後で絶対にあの時捕まえてればよかったって、後悔しますよ。」
「何を根拠にそんなことを言えるんだ?」
この先の出来事を少しばかり知っているから…。なんて、言えないしなぁ。
「逆に相手に、あの時捕まっていればよかったって思わせればいいだろう。」
なるほど、そういう考えもありか。
「土方さん的には、徐々に追い詰めるという感じですか?」
「ま、そうだな。相手に後悔させてやるよ。どれほどの人物か知らんが。」
「えっ、知らないのですか?」
「お前は、知ってんのか?」
「桂 小五郎って、長州の人ですよ。」
「そんなことは、誰でも知ってるだろう。」
長州の人で、明治の中心人物になると言うところだった。
「お前、もうちょっと勉強したほうがいいぞ。変に鋭いところみあるけどな、変に鈍いところもあるしな。」
おっしゃるとおりです。
「あ、勉強したくても、今日みたいに忙しかったらできないなぁ。」
「する気もないくせに、そんなこと言うな、ばかやろう。」
バレてたか。
桂 小五郎を捕まえられなかったのは、ちょっと悔しいけど、彼がいない日本を考えるのも、ちょっと怖いような感じもする。
結局、これでよかったのかな。




