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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年8月
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8月18日の政変

 大和屋焼き討ち事件も落ち着かないうちに、会津藩から御所の警備をするようにと、出動要請があった。

 わけのわからないうちに、バタバタと準備が始まった。

「えっ、これをつけるのですか?」

 私は、鎖でできたチョッキのようなもの、鎖帷子くさりかたびらを持った。

 かなり重い。

「命を守るためだ。切られてもいいなら、着なくてもいいぞ。」

 土方さんが、鎖帷子を着ながら言った。

 いや、着させていただきます。

 鉄板入のはちまきを巻き、準備完了した。

「まるで、戦場に行くようですね。会津藩から呼び出されたようですが、何があったのですか?」

 重いものを装着し、重い体で歩きながら、土方さんに聞いた。

「こっちも色々あったから、情報収集は出来てない。だから、俺にもさっぱりわからん。」

 私もわからないなぁ…。何かあったっけ?今日は、8月18日で…

「あっ!8月18日の政変。」

 思わずつぶやいてしまった。これは、歴史の授業でやったぞ。

「なんだ?そりゃ。」

「長州藩を追い出すのです。」

「確かに、長州藩士の倒幕運動は、かなり活発に行われているらしいが。そこからどうして長州藩が追い出されるんだ?」

「ものすごく簡単に言うと、会津藩と薩摩藩が手を組んで、長州系倒幕派を追い出すという、クーデターのようなものですね。」

「はぁ?くうでたあ?」

 しまった。横文字を出してしまった。

「とにかく、会津藩と薩摩藩は、自分と反対意見を持っている長州藩を追い出すのです。」

「簡単に言ってそうなのだな。で、難しく言うと、どうなるんだ?」

「長くなりますよ。長州系倒幕派の人たちは、13日に帝が伊勢神宮などの参宮をするという嘘の計画を出すわけです。」

「そんなことができるのか?また、なんでそんなことを?」

「帝をこっちにつければ、倒幕ができると思ったんじゃないのですか?」

「なるほどな。で、どうなる?」

「その計画が本当かどうか。確か、会津藩と薩摩藩が確認を取ったと思うのですが。」

「そこで、計画が嘘だと判明した。」

「そうです。だから、計画を阻止するために長州藩を御所に入れないようにし、最後は、京にもいられなくなると思いますよ。」

「それが、今の状態だな。で、なんでお前はそんなに詳しく知っているんだ?」

 あっ、しまった。しゃべりすぎたか?

「な、なんでなんでしょう?」

「とぼけるなっ!いくらなんでも知りすぎだろう。なんで知ってんだ?さては?」

「さては?」

「…間者かと言おうとしたが、お前みたいな間者はいないしな。」

 どうせ、間者に向いていませんよ。

「なんで、俺のがない!」

 みんなが集まっているところで、山南さんの声が聞こえた。

「俺の鎖帷子だけないのは、どういうことだ!」

 山南さんは怒っていた。

「ご病気だと聞いたので、用意していませんでした。」

 他の隊士が謝っていた。

「俺は、こんなに元気だぞ。勝手に解釈するな。」

「す、すみません。」

「山南さん、体は体は大丈夫ですか?」

「おう、蒼良そらか。お前までしっかり準備しているではないか。」

「すみません。あ、よかったら、私これ脱ぐので、山南さんが着てください。」

 私が鎖帷子を脱ごうとすると、山南さんが笑いながら止めた。

「蒼良、お前と俺では、体格が違う。お前は小さいから俺には入らんよ。」

「あ、そうですね。すみません。」

「いや、いい。気持ちだけ受け取っておく。ありがとう。」

 そんな会話をしているうちに、他の隊士が山南さんの分の鎖帷子を持って来た。

 山南さんは、それを着た。


 御所に来いと言われたので、蛤御門はまぐりごもんへ、隊列を組んでいった。

 芹沢さんと近藤さんは、烏帽子をかぶっていた。局長だからかな。

 蛤御門に着くと、会津藩の人たちが既にいた。

「壬生浪士組である。」

 誰もが、そう言えばわかるだろうと思っていた。だって、会津藩から要請があってきたのだから。

 しかし、

「なんだ、それは?」

「そんな連中が来るとは聞いてない。帰れっ!」

 と言われてしまった。いや、あんたたちの上司が言ったんだろうが。

 すると、芹沢さんが、鉄扇を持って出てきた。

「我々は、会津藩預かりの壬生浪士組である。無礼をして、後悔するなよ。」

 鉄扇をその兵につきつけながら言った。

 そして、バッと開き、

「興奮しておるようだな。熱くなっている。」

 そう言って、鉄扇でヒラヒラと兵を仰ぎ始めた。

 そうこうしているうちに、上の人に連絡が行ったのだろうか?

「無礼をしてすまなかった。」

 そう言って門を開けて中に入れてもらえた。

 こういう時の芹沢さんは、すごい人だなぁと思うけど、お酒を飲むとなぁ…。飲まなきゃいいのに。

 中に入ると、黄色いたすきを渡された。会津藩という目印らしい。

 そして、警備についた。夜になると、南門の警備についた。


「蒼良は、色々と詳しいらしいな。」

 永倉さんが隣に来た。

「詳しいって、何をですか?」

「今回のこと。土方さんが、蒼良がよく知ってるって言ってたぞ。」

「いや~、街の噂を話しただけですよ。」

 そう言ってなんとかごまかした。

「警備だけで、特に斬り合いとかないが、中はどうなってんだろうな。」

 永倉さんが、御所の方を見ながら言った。

「七卿落ちですね。」

「しちきょうおち?」

「長州藩を追い出しに成功したので、長州を支持する公家の人たちが、京から長州に逃げ落ちます。七卿なので、七卿落ちなのかなぁって。」

「本当に、よく知ってんな。これも街の噂か?街に出てないけど。」

「えっ、こ、これは、そこらへんにいた会津の兵の人が言ってましたよ。」

「そうか。本当によく知ってんな。」

 そう言って、永倉さんは去っていった。

 もしかして、危なかったか?あまり多くを語るのはやめたほうがいいかもしれない。

「蒼良。」

 後ろから突然、沖田さんに呼ばれた。

「どわぁっ!」

「どわぁって、なに?」

「一応、鎖帷子着て、警護しているのですよ。」

「それで?」

「そんな時に突然驚かすかのように、後ろから呼ぶのは、やめてください。切りますよっ!」

「蒼良に、僕が切れるかな。」

 切れません。逆に切られる。

「あ、そうそう。近藤さんが、隊士全員集合だって。」

 それを早く言って欲しかった。


 近藤さんのところに行くと、すでにみんな集まっていた。

「この度の、我々の働きを、会津藩主である松平 容保(かたもり公がたいへん褒めてくださった。それで、新しい名前もたまわった。」

 そう言うと、近藤さんは、持っていた半紙を広げた。

 そこには、『新選組』と書いてあった。

「今日から、我々は、壬生浪士組ではなく、新選組だ。」

 みんな喜んでいた。

「俺は、この名前をどこかで聞いたことがあるぞ。」

 土方さんが言った。どこかでって、どこで聞いたんだろう。

「蒼良だ。」

 斎藤さんが、私を指差した。えっ、私?

 言ったっけ?言ったかも…。

「そうだ、お前だ。なんで知ってたんだ?」

 未来から来たので、知ってましたなんて、言えないし…。

 よし、困ったときのお師匠様だ。

「なんか、よくわからないのですが、会津で昔、新選組という組織があったのだそうだって、お師匠様が言っていたので。」

「その通りだ。会津藩士がそう言っていた。」

 近藤さんが、嬉しそうに言った。

「天野先生なら、物知りだからな。知ってるかもしれんな。」

 土方さんも納得した。

 

 8月18日の政変も終わり、この日から、私たちの仕事がひとつ増えた。

 それは、長州の人間を見つけたら捕縛するようにということだ。

 長州の人間って、どうやってわかるのだ?みんな日本人だから、同じ顔しているし、わからないだろう。

 そもそも、長州って、どこにあるのだ?

「お前、本気で聞いているのか?冗談じゃないよな?」

「本気ですよ。」

 どこにあるのですか?と、土方さんに聞いたら、信じられないという顔をされた。

「毛利家が治めている藩だ。」

 毛利家といえば、山口県か。

「3本の矢で有名ですよね。毛利家って。」

「お前、そこまで知ってて、なぜ長州の場所を知らんのだ?」

 なぜと言われても…。藩名で言われると、場所がわかりづらいのよね。

 まさか、県名で言ってくれとも言えないし。

「知らないものは、知らないのです。」

「開き直るな、ばかやろう。」

 げんこつが落ちてきそうになったけど、避けた。

 避けて調子に乗っていたら、そのまま横に倒れてしまった。

 それを見て、土方さんが笑っていた。

「ところで、名前が変わったので、壬生狼みぶろっていう人もいなりますね。」

「そう簡単にいなくならんだろう。それだけ名前がしれてればともかく、まだ、全然名がしれてないからな。」

 そのうち、ものすごく有名になりますよ。

 そう言いたかったけど、なんで知ってるんだ?と言われそうなので、やめておいた。

 とにかく、知っていることを多く語ると、怪しまれることを身をもって体験した事件だった。

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