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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年8月
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大和屋襲撃

「大変だ。芹沢さんが、大和屋を襲撃している。」

 他の隊士から報告があった。

「あの酒おやじめ。何考えていやがるっ!」

「土方さん、酒おやじって私が付けたあだ名ですよ。」

「うるさいっ!酔っ払いに酒おやじって言って何が悪いっ!」

「私が付けたあだ名を、勝手に使わないでください。」

「俺は副長だっ!隊士が付けた名前を使って何が悪い。」

 開き直ったな。

「おい、今、そんな言い合いしている場合じゃないだろう。」

 源さんが、呆れた顔をして止めた。そうだ。そんなことをしている場合じゃない。

 急いで、土方さんたちと大和屋に行った。

 大和屋は、糸問屋の豪商だ。

 大和屋に着くと、多くの見物人と、火消し、それを中に入れないように屋敷の周りを囲む隊士たち。

 芹沢さんは、屋根の上から見下ろしていた。

「一体、何があったんだ?」

 土方さんが驚いてつぶやいていた。


 色々な人に話を聞いて回った。

 どうも、大和屋にお金を借りに芹沢さんたちが入ったらしいが、断られた。

 それで腹を立てて、屯所から大砲まで持ってきて打ち込む騒ぎを起こしているらしい。

「まったく、断られるのは当たり前じゃないですか。」

「おい、お前、何処へ行く?」

「何処って、芹沢さんを止めに行ってきます。せっかく相撲で好感度が上がったのに、これで下がったら、私たちの努力は無駄になります。」

「止めるって、屋根の上だぞ。」

「酔っぱらいが登っているのだから、登れないことはないでしょう。」

蒼良そらやめろ。」

 土方さんに止められたけど、誰かが止めないといけないことだから、私は人をかき分けて大和屋に行った。

 隊士たちが囲んでいたけど、私も同じ隊士だから、すぐに入れてくれた。

 それにしても、あの酒おやじめ。どうやって登ったんだ?

 なんとか、屋根にたどり着いた。


「わははっ!燃やせ燃やせっ!」

 芹沢さんが、鉄扇を振り回していた。

 隣の蔵が燃えていた。

 糸問屋と言っていたから、高価な織物とかが入っているに違いない。なんかもったいないなぁ。って、そんなこと言っている場合じゃない。

「芹沢さんっ!」

「その声は、蒼良か?こっちに来てみろ。眺めがいいぞ。」

 確かに眺めがいい。蔵を燃やしている火が見物人を照らし、一人一人の顔がよく見える。

「なかなかいいだろう。」

「確かに眺めはいいですけど、これは良くないことだと思いますよ。」

「なんでだ?」

「お金を借りれなかったからって、蔵に火をつけるって、やりすぎです。」

「それだけじゃない。この大和屋は、天誅組に資金を貸したのだ。」

 天誅組とは、倒幕派の人たちが中心になっている浪士たちが集まっている組だ。

 私たちがいる壬生浪士組とは、全く逆の考えの組だ。

「あいつらに資金を出して、俺たちには資金を出さない。おかしいだろう。」

「気持ちはわかりますが、また評判が悪くなりますよ。」

「大丈夫だ。生糸の原価が上がったのは、大和屋が輸出品として買い占めたのが原因で、外国手を結んで市民の生活を脅かす不届きものを成敗する。と言ってある。」

「それ、本当なのですか?」

「そんなことわからん。」

 わからんって…。

「蔵だけじゃ物足りないから、屋敷も全部打ち壊してやる。」

「駄目です。今すぐやめてください。」

「なんだ、文句でもあるのか?」

「京を守らないといけないのに、こんな火事起こして不安がらせてどうするのです?」

「他には燃え移らないように、ちゃんと配備してある。」

「騒ぎが大きくなると、会津藩が出てくるかもって、思わないのですか?」

「出てきたら、出てきたでいいだろう。」

「騒ぎばかり起こす芹沢さんを、会津藩が消すように言ってきたら、どうするのですか?」

 それは阻止したいと思っていた。けど、このままだともう阻止できないだろう。

「やれるものなら、やってみろ。」

 芹沢さんは、にやりと笑いながら、鉄扇をあおいでいた。

 これはもう、何を言っても聞かないのかも。

 下を見ると、土方さんが私を呼んでいる姿が目に入った。

 屋敷も火をつけるであろうから、ここも危ないだろう。芹沢さん説得を諦め、下に降りた。

「お前、無茶なことするなっ!」

 土方さんに怒られてしまった。

「駄目だったな。」

「駄目でした。」

「あそこまで暴れられちゃあ、もう誰も止められねぇよ。」

「屋敷も、全部壊すらしいですよ。」

「そうか。」

 二人で、暴れる芹沢さんを他人事のように眺めていた。


「近藤さんは、行かないほうがいい。ここでじっとして知らねぇふりしてろ。」

「わかった。ところで歳、大和屋はどうなっているのだ?」

「芹沢さんが隊士を連れて行って、蔵に火を放ち暴れてる。屋敷も壊すらしい。」

「そうか。でも、局長の俺がここにいていいのか?」

「いてください。このままだと、多分会津藩が出てきます。会津藩が出てきた時に、近藤さんまでいたら、なんで止められなかった?と、責められ、悪者にされてしまいます。」

 私が言うと、土方さんが驚いていた。

「蒼良、会津藩が出てくるって、本当か?」

 たしか、歴史だと京を守る会津藩が火消しに行くけど、火も消させてくれない状態だから、武装した兵を送り込むところだったと、あったと思う。

 そして、会津藩から芹沢さん暗殺の命がくだされる。

「ここまで大騒ぎになったら、京都守護職の会津藩が黙ってないでしょう。その騒ぎの元が、自分が預かっているところだったと知ったら、どうなるか目に見えているでしょう。」

「お前、たまには鋭いことを言うな。」

「たまにはってなんですか、たまにはって。」

「本当に、たまにしか言わんだろうが。」

 その通りなんだけど…。

「そういうことだ、近藤さん。何か聞かれても、知らぬ、存ぜぬで通してくれ。」

「わかった。」

 近藤さんと土方さんの作戦会議が終わった。


 その夜もあけ、朝になった。

 大和屋は跡形もなく壊された。

 暴れ、壊しまくった芹沢さん達は、次の日機嫌よく帰ってきた。


 もう、芹沢さん暗殺を止めることはできないだろう。

 せっかく、色々と止めたのに。なんでいうこと聞いてくれないのだろう。

 飲まなければ、いい人なんだけどな。

 これが時の流れというやつなのかもしれない。

 その流れは逆らうことができず、結果に向かって真っ直ぐに流れる。

 今回、初めて時の流れというものの激しさと厳しさを知った。

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