大和屋襲撃
「大変だ。芹沢さんが、大和屋を襲撃している。」
他の隊士から報告があった。
「あの酒おやじめ。何考えていやがるっ!」
「土方さん、酒おやじって私が付けたあだ名ですよ。」
「うるさいっ!酔っ払いに酒おやじって言って何が悪いっ!」
「私が付けたあだ名を、勝手に使わないでください。」
「俺は副長だっ!隊士が付けた名前を使って何が悪い。」
開き直ったな。
「おい、今、そんな言い合いしている場合じゃないだろう。」
源さんが、呆れた顔をして止めた。そうだ。そんなことをしている場合じゃない。
急いで、土方さんたちと大和屋に行った。
大和屋は、糸問屋の豪商だ。
大和屋に着くと、多くの見物人と、火消し、それを中に入れないように屋敷の周りを囲む隊士たち。
芹沢さんは、屋根の上から見下ろしていた。
「一体、何があったんだ?」
土方さんが驚いてつぶやいていた。
色々な人に話を聞いて回った。
どうも、大和屋にお金を借りに芹沢さんたちが入ったらしいが、断られた。
それで腹を立てて、屯所から大砲まで持ってきて打ち込む騒ぎを起こしているらしい。
「まったく、断られるのは当たり前じゃないですか。」
「おい、お前、何処へ行く?」
「何処って、芹沢さんを止めに行ってきます。せっかく相撲で好感度が上がったのに、これで下がったら、私たちの努力は無駄になります。」
「止めるって、屋根の上だぞ。」
「酔っぱらいが登っているのだから、登れないことはないでしょう。」
「蒼良やめろ。」
土方さんに止められたけど、誰かが止めないといけないことだから、私は人をかき分けて大和屋に行った。
隊士たちが囲んでいたけど、私も同じ隊士だから、すぐに入れてくれた。
それにしても、あの酒おやじめ。どうやって登ったんだ?
なんとか、屋根にたどり着いた。
「わははっ!燃やせ燃やせっ!」
芹沢さんが、鉄扇を振り回していた。
隣の蔵が燃えていた。
糸問屋と言っていたから、高価な織物とかが入っているに違いない。なんかもったいないなぁ。って、そんなこと言っている場合じゃない。
「芹沢さんっ!」
「その声は、蒼良か?こっちに来てみろ。眺めがいいぞ。」
確かに眺めがいい。蔵を燃やしている火が見物人を照らし、一人一人の顔がよく見える。
「なかなかいいだろう。」
「確かに眺めはいいですけど、これは良くないことだと思いますよ。」
「なんでだ?」
「お金を借りれなかったからって、蔵に火をつけるって、やりすぎです。」
「それだけじゃない。この大和屋は、天誅組に資金を貸したのだ。」
天誅組とは、倒幕派の人たちが中心になっている浪士たちが集まっている組だ。
私たちがいる壬生浪士組とは、全く逆の考えの組だ。
「あいつらに資金を出して、俺たちには資金を出さない。おかしいだろう。」
「気持ちはわかりますが、また評判が悪くなりますよ。」
「大丈夫だ。生糸の原価が上がったのは、大和屋が輸出品として買い占めたのが原因で、外国手を結んで市民の生活を脅かす不届きものを成敗する。と言ってある。」
「それ、本当なのですか?」
「そんなことわからん。」
わからんって…。
「蔵だけじゃ物足りないから、屋敷も全部打ち壊してやる。」
「駄目です。今すぐやめてください。」
「なんだ、文句でもあるのか?」
「京を守らないといけないのに、こんな火事起こして不安がらせてどうするのです?」
「他には燃え移らないように、ちゃんと配備してある。」
「騒ぎが大きくなると、会津藩が出てくるかもって、思わないのですか?」
「出てきたら、出てきたでいいだろう。」
「騒ぎばかり起こす芹沢さんを、会津藩が消すように言ってきたら、どうするのですか?」
それは阻止したいと思っていた。けど、このままだともう阻止できないだろう。
「やれるものなら、やってみろ。」
芹沢さんは、にやりと笑いながら、鉄扇をあおいでいた。
これはもう、何を言っても聞かないのかも。
下を見ると、土方さんが私を呼んでいる姿が目に入った。
屋敷も火をつけるであろうから、ここも危ないだろう。芹沢さん説得を諦め、下に降りた。
「お前、無茶なことするなっ!」
土方さんに怒られてしまった。
「駄目だったな。」
「駄目でした。」
「あそこまで暴れられちゃあ、もう誰も止められねぇよ。」
「屋敷も、全部壊すらしいですよ。」
「そうか。」
二人で、暴れる芹沢さんを他人事のように眺めていた。
「近藤さんは、行かないほうがいい。ここでじっとして知らねぇふりしてろ。」
「わかった。ところで歳、大和屋はどうなっているのだ?」
「芹沢さんが隊士を連れて行って、蔵に火を放ち暴れてる。屋敷も壊すらしい。」
「そうか。でも、局長の俺がここにいていいのか?」
「いてください。このままだと、多分会津藩が出てきます。会津藩が出てきた時に、近藤さんまでいたら、なんで止められなかった?と、責められ、悪者にされてしまいます。」
私が言うと、土方さんが驚いていた。
「蒼良、会津藩が出てくるって、本当か?」
たしか、歴史だと京を守る会津藩が火消しに行くけど、火も消させてくれない状態だから、武装した兵を送り込むところだったと、あったと思う。
そして、会津藩から芹沢さん暗殺の命がくだされる。
「ここまで大騒ぎになったら、京都守護職の会津藩が黙ってないでしょう。その騒ぎの元が、自分が預かっているところだったと知ったら、どうなるか目に見えているでしょう。」
「お前、たまには鋭いことを言うな。」
「たまにはってなんですか、たまにはって。」
「本当に、たまにしか言わんだろうが。」
その通りなんだけど…。
「そういうことだ、近藤さん。何か聞かれても、知らぬ、存ぜぬで通してくれ。」
「わかった。」
近藤さんと土方さんの作戦会議が終わった。
その夜もあけ、朝になった。
大和屋は跡形もなく壊された。
暴れ、壊しまくった芹沢さん達は、次の日機嫌よく帰ってきた。
もう、芹沢さん暗殺を止めることはできないだろう。
せっかく、色々と止めたのに。なんでいうこと聞いてくれないのだろう。
飲まなければ、いい人なんだけどな。
これが時の流れというやつなのかもしれない。
その流れは逆らうことができず、結果に向かって真っ直ぐに流れる。
今回、初めて時の流れというものの激しさと厳しさを知った。




