相撲興行
8月7日から、祇園北林で相撲が行われることになり、その警護をすることになった。
祇園北林とは八坂神社のあたり。
相撲興行は、江戸時代の娯楽の一つで、江戸や京、大坂などで発展をしていた。
今回は、大坂相撲対京相撲だ。大坂相撲と京相撲は仲が悪いので、仲介を兼ねての興行になった。
どんなものか楽しみだなぁと思いつつ、隊服ではなく、木綿の黒羽織と白い袴をはいて準備していると、土方さんがやって来た。
「もしかして、お前も警護に行くつもりなのか?」
「当たり前じゃないですか。」
「お前、もしかして、知らんのか?」
えっ、何を?
「相撲は、女は見れんのだが。」
「ええっ!そうなのですか?」
土俵に上がれないというのは聞いたことあるけど、見れないなんて、聞いたことがない。
しかし、この時代、女性が土俵に上がるどころか、見ることもできなかったらしい。
「お前、やっぱり知らなかったのか?」
「土俵に上がらなければいいかなぁって思っていたので。」
「土俵に上がるなんて、とんでもないことだぞ。」
ここは現代とは変わってないらしい。
「でも、お前を警護から外すと、逆に他の隊士からなんで外した?と、質問攻めになりそうだしな。いいだろう、連れて行こう。」
「本当ですか?わーい。」
「ただし、絶対に女だとバラすなよ。」
いつもどおりやっていれば平気ってこと。
楽勝、楽勝。
という訳で、相撲観戦じゃなく、警護に行くことになった。
「警護じゃなく、ほとんど観戦だけどね。」
沖田さんが相撲を見ながら言った。
「そうなんですよね。初めて見るから、迫力ありますね。」
「蒼良は、初めてなんだ。」
「えっ、沖田さんは見たことあるのですか?」
「いや、初めて。」
なんだ。見たことあるのかと思った。
「山南さん、来れなくて残念だったなぁ。」
沖田さんがつぶやくように言った。
山南さんは、左腕を大怪我し、一応治ったのだけど、今度は夏バテしたりして、寝たり起きたりの生活をしている。
「そうですね。早く元気になってくれるといいですね。」
帰りに何かお菓子買って、山南さんのところに持って行こう。
「お前ら、仕事してるか?」
永倉さんが歩いてきた。
「相撲見ています。」
沖田さんは平然と答えた。いや、そこは仕事していますだろう。
「仕事しろよ、仕事。遊びに来てんじゃないんだぞ。」
そう言いつつも、永倉さんも楽しそうだ。
「さっきの取り組み、すごかったですね。」
沖田さんが言うと、
「なかなか勝負がつかなかったな。互角の勝負というのか?どっちが勝つか分からんから面白いな。」
「永倉さんも、見てましたね。」
「蒼良、せっかくの相撲が見れるんだ。楽しまんと損だろう。」
それが、永倉さんの本音らしい。
「大きい力士の取っ組み合いがすごくて…。」
「そう、ぶつかると、パアンっ!て、すごい音がして、それにまた驚いたよ。」
山南さんの部屋に、警護の帰りに寄ったお店でお饅頭を買い、それを持っていくと、既に沖田さんと藤堂さんがいた。
「あ、蒼良。ちょうど饅頭が食べたかったんだ。」
沖田さんが手を出してきたので、軽く手を叩いた。
「山南さんのです。」
「ひとつぐらいくれてもいいじゃないか。」
「俺はいいから、みんなで食べろ。」
山南さんがそう言うと、お饅頭はあっという間になくなってしまった。
私もお言葉に甘えて、ひとつ頂いた。
「相撲、楽しかったみたいだな。」
山南さんは、布団で上半身だけ体を起こして座っていた。
「はい。初めてだったので、警護を忘れて見てました。」
「蒼良らしいな。」
山南さんは、笑っていた。
早く体がよくなるといいのにな。
それから、3人で相撲の話を山南さんにし、山南さんも楽しそうにしていた。
このまま、平和に終わると思っていた相撲興行。しかし、9日に事件が起こった。
京相撲の揚ヶ霞という力士が殺された。
壬生浪士組がやったんだと、噂が流れ、それを否定するかのように、土方さんたちが調査をしていた。
その結果、大坂相撲と言い合いになり、殺されたらしい。
相当仲が悪いのだなぁ。
色々あったけど、無事に相撲興行は終わった。
「無事に終わりましたね。」
警護の帰りに、みんなと話をしていると、近藤さんが嬉しそうに、
「今回の相撲興行のお礼がしたいということで、壬生で相撲興行をしてれることになった。」
と話をした。
「近所の子供たちが喜ぶなぁ。」
沖田さんも、嬉しそうに言った。
「これを機会に、壬生の人たちと近づければいい。」
土方さんが言った。
そうなのよね、壬生狼って呼ばれてなんか評判悪いし。誰のせいとは言わないけど。
大体が、昼間から酒飲んでいるあの人のせいなんだけどね。
そういえば…
「芹沢さんたち、来なかったですね。」
私が言うと、みんな気がついていたみたいで、そうだな、って声がした。
「芹沢さんは、大坂相撲と喧嘩したこともあるからか、相撲が嫌いらしい。一応、声かけたんだが、勝手にしろって言われてしまった。」
近藤さんが、申し訳なさそうに言った。
「近藤さんが気にすることじゃない。来たくない奴は、こなけりゃいいんだ。ほっとけ。」
土方さんは、怒っているような感じで言った。
「そうは言ってもな、歳、芹沢さんも局長だからな。ほっとくわけにもいかんだろう。」
近藤さんが正論を言った。
そうなんだけど、最近の芹沢さんは、酔ってない時間があるのか?というぐらいお酒を飲んでいる。
そう言う人が警護できるとも思えないし。
「とりあえず、芹沢さんにもまた声をかけてみる。」
近藤さんは決心したように言った。
壬生の相撲興行の日。
近所の人たちが集まっていた。とても賑やかに行われ、大成功で終わることができた。
しかし、やっぱりというか、芹沢さんたちは来ていなかった。
「ほっときゃいい。酔っぱらいにこられても、仕事にならん。」
「土方さん、芹沢さんも一応局長なので、酔っぱらいはどうかと思うのですが…。」
「お前だって、助平おやじとか、酒おやじとか言っているだろうが。」
「だって、本当のことじゃないですか。」
「俺だって、本当のことを言ってんだ。」
「なんか、子供の喧嘩みたいだぞ。」
私たちのやり取りを聞いて、源さんが言ってきた。
「芹沢さんの周りには、人がたくさんいるのに、どうしてみんなお酒を飲むのを止めないのだろう。」
「それは、みんな、あの酔っぱらいのご機嫌とりしかしねぇからだよ。機嫌よくさせれば、出世できると思っていやがる。」
「でも、こんなことを許していたら、出世だなんだと言う前に、殺されてしまうかもって考えないのですかね。」
言ってから、しまったと思った。少し先の未来に起こることを話してしまった。
「誰が殺されるんだ?」
土方さんの声が鋭くなった。
「芹沢さんですよ。悪いことばかりやっていると、粛清されますよ。」
「お前、面白いことを言うな。局長が粛清されるわけ無いだろう。」
しかし、粛清されるのだ。でも、それを言ったら、いけないような感じがしたので、そうですねと言って、笑ってごまかした。
その粛清されるかも?が、粛清されるな。という確信に変わる事件がこの日の夜に起きたのだった。




