池の魚を食べた!
暇で屯所内をブラブラとしていたら、芹沢さんたちに呼ばれた。
「蒼良、ちょうどいいところにいた。」
何がちょうどいいのだろう?
「一緒に来い。」
そう言われたので、何人かの隊士と一緒についていった。
その中に、永倉さんもいた。
「どこに行くのですかね。」
「さぁ、俺も知らん。ま、ついて行けばわかるさ。」
そうなんだけどさ。
ついたところは、屯所の近くにあるお寺、新徳寺だった。
ここは、京に着いたばかりの時に、清河 八郎という人に呼ばれて行って、色々とあった場所だ。
ここになんの用なんだろう?初心を忘れるなという戒めのためか?
いや、逆に芹沢さんを戒めたいのだけど。鉄扇で殴られそうだな。
しかし、用があったのは、お寺ではなく、お寺にある池だった。
「今日も暑いから、ここで水浴びでもすればいい。」
現代で言えば、今は9月の中旬過ぎぐらいになるのだけど、残暑が厳しくてまだ暑い。
水浴びは、みんな喜ぶだろう。
みんなは…。
「蒼良は、入らんのか?」
芹沢さんが言ってきた。
「私は、見ています。」
足だけ入ろうかなぁなんて思ったけど、前回川遊びした時にえらい目にあったので、見るだけにしようと思った。
「せっかくだから、入れ。」
入りたいけど、入れない。濡れれば着物が透ける。着物が透ければ、女だとバレてしまう。
芹沢さんにはバレているらしいけど。
「いや、せっかくのお誘いですが、遠慮します。」
「そうか。残念だな。」
芹沢さんは、そう言い残して池に入っていった。
せっかく連れてきてもらったのになぁ。
そんなことを思いながら、みんなが池で遊んでいるのを見ていた。
「おっ、魚がいるぞ。」
池で遊んでいた隊士の一人がそう言った。
「捕まえろっ!」
そう言って魚を捕まえ始めた。
魚だって逃げるの速いから、捕まらないだろうと思ったら、見事に捕まえた。
「おお、見事な魚だな。」
芹沢さんが、そう言うと、魚の内蔵とかを取り出し始めた。
「芹沢さん、何しているのですか?」
まさか、解剖じゃないよな。
そして、その後、口にパクッと入れた。
た、食べた。
「だ、大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「食べて。それより、この魚、食べれるのですか?」
「美味しいから、食べれるだろう。」
それは、判断の基準じゃないと思うけど。
「よし、俺も魚捕るぞ。」
永倉さんも、魚を捕り始めた。
まさか、みんな食べるために捕っているとか?まさか…。
しかし、永倉さんも芹沢さんと同じことをし始めた。
た、食べたよ。本当に、大丈夫なのか?
「蒼良!」
永倉さんに呼ばれたので、振り返ると、魚を口の中に入れられてしまった。
本当に、大丈夫なのか?そう思いつつ、噛んでみると、これが意外と美味しかった。
「ちょっと泥臭いだろう。」
芹沢さんが食べながら言ってきた。
「でも、気になるほどのものではないです。意外と美味しいですね。」
「そうだろう。おい、この池の魚を全部とって食うぞ。」
ぜ、全部食うのか?さすがにお腹壊さないか?
でも、美味しかった。そう、お寺の人の怒られないかな?というぐらいとって食べたのだった。
この時代、冷蔵庫というものがないので、刺身は高級品だ。
この場合ちょっと違うかもしれないけど、一応刺身だから。っていうか、生魚なんだけど。
久しぶりに生魚の味を味わい、堪能したのだった。
「酒のつまみにちょうどいい。」
「芹沢さん、そう言って飲むjつもりじゃぁ?」
「ここには酒はもってきとらん。」
あ、そうなんだ。
「屯所に帰ってから飲む。」
やっぱり飲むんじゃん。
「飲みすぎはよくないですよ。」
「わかっているが、やめられんのだ。忘れたいことも忘れられる。」
忘れたいこと?
「そんなことがあるのですか?」
「俺ぐらい生きてりゃ、そんなことの一つや二つあるさ。」
「でも、忘れるために飲むお酒って、お酒の量も増えませんか?」
「増えてるな。」
「飲みすぎはよくないですよ。何事も、ほどほどがいいのですよ。」
「俺には、ほどほどっていう言葉がないのでな。」
ハハハッ!と笑いながら言ってしまった。
いや、冗談じゃなくて、本気で言っていたのだけどなぁ。
なんで、こんだけ言っても聞いてくれないのだろう。
夜になったら、お腹が痛くなるのでは?と思って心配したけど、なんともなかった。
「池の魚って、食べれるのですか?」
土方さんに聞いてみた。
「魚は食えるだろう。」
やっぱり、この時代は、汚染とか外来魚とか、そういうものがないので、魚ならなんでも食べれるのかな。
私のお腹が痛くならないから、大丈夫なのかもしれない。
「食ったのか?」
「はい、芹沢さんと昼間、お寺の池の魚を食べました。」
「あそこなら、大丈夫だろう。お前、魚食べたことないのか?」
「魚ぐらい、食べたことありますよ。お刺身とか、焼いたりとか、煮たりとかして。」
「さ、刺身を食っただと?」
そうだ、この時代は、高級品だった。
「一度だけですよ、一度だけ。」
そう言ってごまかした。
次の日もお腹痛くならなかったので、もう大丈夫という妙な自信はついた。
でも、結構たくさん食べたから、あの池に魚はもういないかもしれないな。
お寺の人に怒られないのかな?
また、食べれれば食べてみたいものだな。そう思った。




