手のまめ
「蒼良、手に包帯巻いているけど、怪我したの?」
後ろから声かけられて振り向くと、藤堂さんがいた。
「怪我ではないです。まめが出来て痛くて痛くて。直接竹刀を握ると痛いので、包帯を巻いてみました」
そうなのだ。朝晩稽古で竹刀を振り回していたら、なんとまめができてしまった。
でも、稽古を休みたくなかったので、包帯を巻いて痛みを軽減させていた。
「どれ、ちょっと見せてくれる?」
藤堂さんに手を出すと、丁寧に包帯を解き始めた。
「ああ、水泡になっている。痛いでしょう」
「痛いです。でも、そのうち治るでしょう」
「ほっといても早く治らないよ。ちょっと待ってて」
そう言った藤堂さんは、薬箱みたいなものを持ってきた。
そこから針を出して、火であぶって消毒し始めた。
な……何するんだろう?
「これは、なかに水がたまっているので水を出せばすぐ治りますよ。ちょっと痛いかもしれませんが……」
そう言って、消毒した針をまめに刺した。
ううっ、痛い……。
水を抜き終わると、手を消毒してくれた。
「しばらく包帯しないで乾燥させておくと治りも早いですよ」
「ありがとうございます。」
「これは、真面目に稽古している証拠ですね。この前、源さんが来て言ってましたよ。蒼良さんは朝起きると竹刀振ってるし、夜どんなに遅くなっても竹刀振ってるって。まめもできるわけだ」
「藤堂さんは、まめできました?」
「剣を持つ人間は、まめできるものだよ」
そうか、だからまめの対処法も手際がいいんだ。
「ところで、京へ行く日が近づいてきたね」
「はい。藤堂さんは京で何がしたいですか?」
「う~ん、新八さんや左之さんは島原に行きたいって言っていたけど、私は特にはないかな」
「島原って?」
「えっ、蒼良、知らないのかい? 男なら知っているものだと思ったけど……」
ええっ、私は女だから知らないのか?じゃぁ、知っておかないと。と思い、聞こうと思ったけど、
「蒼良がそれだけ真面目だということだね」
と言われてしまった。
島原を知らないと真面目なのか?うーん、わからない……。
「ところで蒼良は、何がしたいですか?」
「私ですか? やっぱり、京といえば、神社仏閣でしょう。歴史のある街なので、楽しみです」
「やっぱり、蒼良は、真面目な人だ……」
「そんなことないですよ。色々有名じゃないですか。神社仏閣。清水寺とか、金閣寺とか銀閣寺とか……」
「そんなに有名なの?」
この時代にもあるはずだよね、清水寺とか……。
いや、あるはず。
金閣寺とか室町時代に出来たものだと教科書に出ていたから、絶対にある!という訳で、
「京へ着いたら案内してあげますよ。一緒に行きましょう。京まで行って、それ見ないなんて損ですよ!」
と、私が言うと、私の勢いに驚いた藤堂さんがこくこくとうなずいていた。
「おい、京へは遊びに行くんじゃないんだぞ!」
後ろから土方さんの声がした。
「土方さん、蒼良の手がまめだらけでした」
「えっ、包帯まいていると思っていたら、まめだったのか。なんで言わなかった」
「いや、言うほどのものでもないかなぁと思って……」
「水抜いておいたので、2~3日ぐらいで治りますよ」
「藤堂さん、ありがとうございます。」
私は、藤堂さんにおじぎした。
藤堂さんは、薬箱をかたしてきますと言って行ってしまった。
その日の帰り道、土方さんに島原について聞いてみた。
「お前、本当に知らんのか? 京の神社仏閣の話をしていたから、京に詳しいと思っていたが」
「私は男ではないので……。でも、今は男の振りをしているので、知らないとまずいのかなぁと思って」
「吉原は知ってるか?」
「ああ、名前なら聞いたことあります」
江戸の遊女街の名前。
現代でいう水商売というものかな。
「京の吉原が島原だ」
ああ、京の遊女街のことか。
確かに、男なら知っているよなぁ。
「そういえば、永倉さんと原田さんが島原が楽しみだって言ってたと、藤堂さんが言ってました。土方さんは?」
「あいつらっ! 遊びに行くわけじゃねぇのに。稽古が足りねぇ。今度しごいてやる」
「土方さんは、楽しみじゃないのですか?」
「何がだっ!」
島原と言おうとしたけど、ばかやろう!と怒鳴られそうなので、京に行くのがと言ったら、
「ばかやろう! 遊びに行くんじゃないんだぞっ!」
と、結局怒鳴られてしまった。
どっち言っても怒鳴られる運命だったのね。