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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
明治2年4月
498/506

第二次二股口の戦い

 四月十六日に、政府軍の第二陣が江差から上陸した。

 その数は2400名。

 弾薬と食料も補給されていた。

 土方さんが守り抜いた二股口は、敵からは突破するのが難しいと思われたようで、突破できなければ、新たなる道を作ればいいという考えなのか、山を切り開いて道を作り始めながら進軍し、二股口の後ろから攻撃をできるようにしていた。

 でも、この作業も難航をしていた。

 一方で、私たち幕府軍も滝川充太郎さんが率いる伝習隊が合流していた。


 政府軍が江差から上陸したという情報を聞いてすぐ、私たちは再び二股口へと向かった。

「ずいぶんと忙しいよね」

 沖田さんが文句を言いつつ歩いていたけれど、楽しそうな顔をしていたので本心ではなさそうだ。

「しかたねぇだろう。敵がまた上陸したんだ、いつ攻撃してくるかわからねぇだろう」

「そんなこと、蒼良そらに聞けばいいじゃん。で、いつ攻撃してくるの?」

 沖田さんに聞かれたので、いつだったか思い出そうとしていたら、

「そんなこと聞くんじゃねぇっ!」

 と、土方さんが怒りだした。

 ど、どうしたんだ?

「びっくりしたなぁ。いきなり怒りださないでくれよ」

 原田さんが土方さんをなだめるようにそう言った。

「俺も、攻撃してくる日が分かればそれにこしたことないと思っているが、土方さんはなんで反対なんだ?」

 なだめた後、原田さんは土方さんにそう質問した。

 私もそれを知りたかった。

 土方さんは私たちを見渡した。

「お前らは、こいつが知っているこれから先に起こることはいいことだと思うか?」

 土方さんは私たちを見ながらそう聞いた。

「この戦に敗けると言う事はなんとなくわかるよ」

 戦の経験が少ない沖田さんでもわかるらしい。

「そうだな。倒しても倒しても、敵の数は増えるからな」

 原田さんもボソッとそう言った。

「だろ? いいことだったら知りてぇが、悪いことを知ってもいいことねぇだろう」

 そう言うものなのか?

「敗けるとわかっていても、戦うしかねぇんだよ。敵が攻めてくる日が分かっていても、やることは同じだ。だから、知っていても知らなくても同じだろう」

 胸を張って、土方さんはそう言った。

「土方さんは、知りたくないのですか?」

 知っていた方が、備えも出来ていいと思うのだけれど。

 でも、沖田さんとかに知られたくないから、そう言ったのかもしれないと思い、こっそりと聞いてみた。

「俺は、お前をこんなことに使いたくねぇんだよ」

「私は別にかまいませんが……」

「俺がかまうんだよっ! この戦でさえ巻き込みたくなかったんだ。それなのにお前はどっぷりと巻き込まれてんじゃねぇか」

「す、すみません……」

 一応謝った。

「でも、私は土方さんと一緒にここまで来てよかったと思っています」

 もちろん、これから先もついて行くつもりだ。

「それと……」

 土方さんは前を見ながら言った。

 まるで、見えない遠くの景色を見るような目で。

「甲鉄を奪う作戦の時に、俺はお前からこれから起こることを聞いたよな?」

 宮古湾海戦の時のことだ。

 土方さんは、私からこの海戦がどうなるか教えてくれと言ってきたから、全て教えた。

「野村が死ぬことをわかっているのに止めることが出来なかった」

 そう、亡骸は手元に残すことはできたのだけれど、命までは残せなかった。

「あの時、野村をどこかの部屋に閉じ込めておいたら、野村は生きていたよな。でも、野村は満足するか? 俺が留守を守れという命令したのにもかかわらず、船に乗り込んできた奴だ。前線に出るなと言っていても、前線に飛び出て最後撃たれた。野村はそういう奴だった。そう言う奴を閉じ込めてまで生かせても、野村は満足しなかったと思うぞ」

 それもそうかもしれない。

 死んでしまう事は悲しいけれど、自分らしく生きれないと言う事はもっと悲しいと思う。

「俺は思うに、歴史を変えると言う事は、その人の意志や生き方を変えると言う事にもなると思うんだ。無理やり意志を変えさせても、残るのは後悔だけだと思わねぇか? 生きるなら、自分らしく生きてぇだろう」

 そうかもしれないけれど……。

「それを認めてしまうと、私が今までやってきたことは無意味なことになりますよね」

「いや、お前のやっていること無意味じゃねぇよ。現に左之や総司も助かっているからな」

 土方さんはそう言いながら、私の頭をグチャッとなでた。

「でも、俺は、俺の思う通りに生きたい。それが俺の命を縮めることになるとしても、後悔はしねぇ」

「私は、土方さんを死なせたくないです」

 だから、土方さんが死ぬという歴史を変えたい。

 そう言うと、土方さんはニコッと笑った。

「俺はそう簡単に死なねぇよ」

 その言葉にどう答えればいいんだろう。


 私たちが二股口について数日後の四月二十三日、再び戦闘が始まった。


「ほら、また戦が始まったよ」

 沖田さんが楽しそうにそう言った。

「楽しんでいる場合じゃないと思うのですが……」

「別に、僕は楽しんでないよ」

 でも、やっぱり楽しんでいるように見えるのは気のせいか?

「こうやって戦に参加できるのが嬉しいだけだよ」

 やっぱり楽しんでいたらしい。

「蒼良のおかげだよ。蒼良がいなければ、僕はここにいなかったと思う」

「でも、戦に出すために沖田さんを助けたわけではないですよ」

 生きてほしいと思ったから。

「わかっている。僕は戦で死なないから」

 沖田さんの病気が治った今、沖田さんは何で亡くなるかは不明だ。

 もしかしたら、戦で撃たれるかもしれない。

 それが心配だ。

「そんな心配な顔しないで。僕は大丈夫だよ」

 沖田さんは、私の背中をさすってから銃を持って行った。

 私は、胸壁の中にいる人たちの銃弾を補充するため、胸壁の中を行ったり来たりしていた。

 その時に沖田さんの様子を見た。

 沖田さんもここまででだいぶ銃の扱いを覚えたみたいで、慣れた手つきで銃を撃っていた。


 弾薬を補充して歩いていると、ポンッと肩を叩かれた。

 振り向くと原田さんがいた。

「蒼良、休息をとったか?」

 原田さんは休憩中らしい。

「合間を見て、少しずつとってますから、大丈夫です」

「それならいいが。今回の戦も長くなりそうだぞ」

 打ち合いをしている方を見て原田さんはそう言った。

 歴史では、前回の戦いより長くなる。

「敵も、今回はかなり多くの人間を送り込んできたな。撃っても撃っても、後から湧き出るように出てくる」

 原田さんも疲れてきているのかな?なんか、弱音を吐いているような気がする。

「そんな顔するな。大丈夫だよ」

 ポンッと、今度は頭をなでられた。

「俺がここにいる限り、ここから先は敵を通さない」

 キッと打ち合いしている方をにらんだ原田さんは土方さんと同じことを言った。

 ここにいる人たちは、みんな同じ思いでいると思う。

「おい、あれを見ろ」

 突然、原田さんが指をさしてきた。

 その方向を見ると、敵が急斜面の崖を登っていた。

「あそこに登って、上から攻めるつもりだ」

 あんな急斜面を登って、攻めるのか?

 敵も必死なんだ。

「左之、悪いが攻撃に戻ってくれ、あいつらを攻めるっ!」

 土方さんも敵が急斜面を登っていることに気がついたようで、そっちを指さしてそう言った。

「わかった」

 原田さんは銃を持って持ち場に戻って行った。

「敵は高いところから攻撃するつもりだろうが、そんなこと関係ねぇっ! まず、登っているところを狙って撃てっ! そいつらが上についてもひるまずに撃てるだけ撃てっ!」

 もう、撃つしかないっていう感じだ。

「おい」

 急斜面を登っている敵を見ていると、土方さんが私を呼んだ。

「はい」

「弾薬を補充し続けろ。みなに弾薬が足りねぇと言わせるなよ」

 ポンッと土方さんは私の頭に手を置いた。

「私も敵を倒したいのですが」

 私も、みんなと一緒に敵を撃ち取りたい。

「周りをよく見ろ」

 土方さんに言われて、味方の陣を見回した。

 私以外にも、たくさんの人が弾薬を運んだりしていた。

「銃で敵を撃つだけが戦じゃねぇ。ああやって陰で支えている人間も、戦をしているんだ。お前がいねぇと、他の人間が銃を使えねぇし、戦にも負ける。お前にとっては弾薬を運んでいるだけかもしれねぇが、それだって、立派に戦をしているんだ。わかったか?」

 私が女だから、こういう仕事をさせているのかと思ったけれど、そうでもないようだ。

 この仕事も重要なのだ。

「わかりました」

「わかったなら、とっとと銃弾を補充しろっ!」

「はいっ!」

 私も仕事に戻った。


 敵は、急斜面の途中で撃たれて落ちる人もいたけれど、無事に上につき、上から撃ちおろすように銃で撃ってくる人もいた。

 この時が、この戦で一番辛いときだったかもしれない。

「おいっ!」

 土方さんに呼ばれた。

「何ですか?」

「この桶の水を向こうへ持って行ってくれ」

 もしかして……

「銃を冷やすのですか?」

「よくわかったな」

 やっぱりそうだった。

「俺が撃て撃て言っていたから、撃ちすぎて銃が熱くなっちまったようだ。お前に桶に入っている水を運ばせるのは酷だと思うが、今は一人でも人がほしい。頼む」

「わかりました」

 桶を持って行くと、休憩中の人たちから水をかけて銃を冷やし始めた。

 どれだけ弾を撃っているんだろう?

 それでも戦が終わりを見せることはなかった。


 日付が変わっても戦の終わる気配はなかった。

 戦況に変化があったのは、二十四日の未明のこと。

 援軍に来ていた滝川さんと伝習隊が敵の陣地へ突撃を開始した。

 滝川さんの突撃で、混乱した敵は敗走を始めた。

 それを食い止めようとした駒井政五郎という敵の偉い人が銃弾を受けて戦死する。

 しかし、敵はどんどん兵を派遣し、戦が終わることはなかった。

 突撃から戻ってきた滝川さんを、同じく伝習隊の大川正二郎さんが詰め寄った。

 滝川さんの突撃は戦況を変えたけれど、一緒に突撃をした伝習隊の人たちがたくさん負傷してしまったのだ。

 大川さんは、この突撃でたくさんの部下が亡くなってしまったことが許せなかったのだろう。

 味方同士なのに、ここでいさかいが起きる状態になってしまった。

 そこを

「大川の理、滝川の勇」

と言って仲裁したのが土方さんだった。


 それからまた一日が過ぎ、二十五日未明、ようやく敵が撤退を始めた。

「勝ったぞっ!」

 味方の陣からやっとそう言う声が聞こえてきた。

 最初はささやき声程度だったけれど、その声はだんだん大きくなっていった。

 それと同時に喜びも大きくなっていった。

 その様子を土方さんは嬉しそうに見守っていたけれど、すぐに表情が戦中の時のような表情に変わった。

「まだ戦は終わってねぇっ! 敵は一時撤退をしただけで、また人を増やしてやってくる。だから、油断するなっ! いいか、俺たちがいる限り、ここから先は敵を一人も通さねぇっ! わかったかっ!」

 その土方さんの言葉に味方の士気は再び上がった。

「おーっ!」

 という声が山の中に響き渡った。


 私たちが二股口を守り切ったという達成感にわいていたころ、松前では四十名以上の死者を出し木古内の手前にある知内という場所まで敗走し、松前は敵の手に落ちてしまった。

 そして木古内では、松前から敗走してきた兵たちと一緒に二回目の戦いが始まっていた。

 この戦いで伊庭八郎さんが負傷する。

 木古内は敵にとられたり、そこから取りかえしたり、そしてまたとられたりという激しい戦いを繰り返し、最終的には味方の手の中に入る。

 しかし、木古内よりも矢不来と言う場所で戦をした方が有利だという判断をし、木古内を放棄して矢不来まで後退し、そこで砲台や胸壁を作って敵を迎え撃つ準備をすることになった。

 

  

 

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